ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

たたかう鬼3



 「そうだな・・・。結論から言わせてもらうと、見ていない。いくつかの国や遺跡をまわったが人間は見なかった」


 真剣な面持ちでヴェンデは静かに語る。イルザとエルザは神界器の謎というのは、自分たちが思っている以上の手に負えないものなのかもしれないとヴェンデの表情から察した。


 「で、でもこの世界に人間が暮らしいていた痕跡はあったのよね?  だったら、どこか見つからない場所でひっそりと暮らしている可能性もあるんじゃない?」


 「ああ、その可能性もなくもねぇ。だがな、かつて人間がいた場所はそりゃひでぇ有様だった。とてもじゃないが人間がこの世界存在しているとは思えねぇ」


 ヴェンデ曰く、その土地は色で例えるなら灰色一色だった。丘も、平地も、川と思われる巨大な溝も、建物が沢山並んでいたであろう場所も、何もかもが灰色の砂で埋もれていた。


 もちろんそんな場所に動物はおろか、植物すら存在しない。空虚で静謐な灰色の寂しい世界だった。


 「冗談だと思うならさっき言った通り嬢ちゃん自身の目で確かめてみな。この森からだと、ちっと遠いが東に向かえば灰色の砂漠があるからよ」


 「にわかに信じがたいけれど、あなたの言っていることは本当の事・・・だと思うわ」


 目の前にある灰色の遺物達、そしてヴェンデだけではなくアウラやコルテも表情が硬くなっている。そんな中で誰が冗談だ、などと言えるだろうか。


 「・・・アウラやコルテもその灰色の砂漠は見たの?」


 「その時は既にボク達はこの世界に召喚されていたっスから見たっスよ」


 「・・・何か感じたことやどう思ったか、差し支えがなければ教えてもらっていい?」


 エルザの質問に少しだけ沈黙するアウラ。出会ってからの天真爛漫さがなくなっている。


 「そうっスね・・・。なかなか難しい質問っスが一言で表すなら複雑って感じっス。灰色の景色を見た時、悲しいような、苦しいような、だけどどこか嬉しいような、と思えば怒りたくなるような。喜怒哀楽を鍋で煮つめたような色々な感情が駆け巡ったっス。」


 「心境、同意」


 コルテもアウラと同じ感情を抱いたようだ。しかし、風景を見ただけでそれほど多くの感情が同時に動くのだろうか。


 イルザが話を聞いて思い浮かべる想像上の灰色の砂漠。


 かつて人間が生活していた土地が跡形もなく灰になっていたら悲しくもなるだろう。


 生物が活動できない環境なら苦しいと感じるだろう。


 本能的に、人間が暮らしていた場所に帰ってきたと感じたのなら嬉しくもなるだろう。


 「怒り・・・。その感情だけは私には理解できないわ。自分に縁のある場所に訪れて怒りの感情を抱くのは不可解じゃないかしら?」


 「イルザさんの言うことはごもっともなんスがね。後から考えてみても、どうしてあんな感情を抱いたのかさっぱり検討もつかないんスよ」


 首を左右に振って困ったように笑うアウラ。それからひと息吐いて、言葉を続ける。


 「でもまぁ、ボク個人の意見としては仮に人間が絶滅していてもまったく寂しくないってことっスね。戦いが好きな癖に人一倍お節介焼きの優しい鬼であるだらしなーいヴェンデがご主人様で心底良かったと思えるっスし、根暗でことある事に馬鹿にしてくる超絶少女趣味のコルテも、まぁ、嫌いじゃないっスし。現状は割かし満足してるっスよ」


 少し照れくさそうに、本心を語るアウラ。照れ隠しで鼻で笑うヴェンデだったが、口元は緩かった。


 「少女趣味、余計、アウラ、私と同類」


 「コルテとボクの趣味を一緒にするじゃねーっスよ!」


 ちょっといい感じの雰囲気になったと思えば、すぐに喧嘩がはじまり騒がしくなる。だがそれがアウラとコルテの仲の良さを表しているのだろう。


 「おいガキ共、すぐ騒がしくするなつってんだろーか」


 そして、人間の子供たちの父親役であるヴェンデ。種族が違い、本当の家族じゃなくても本当の家族以上の関係を築けるのは素敵なことだと思った。


 「おっと、そうだ。嬢ちゃん、千年戦争の遺跡に向かうんだったよな?  いっそのこと旅に出てみるのも良いもんだぜ?」


 軽めのゲンコツを一発、アウラとコルテにしながらイルザに向けて予想外の言葉を放つ。


 「どうして」


 どうして、旅なんてものを勧めるのだろうか。ブランとの戦いの後に抱えていたモヤモヤが大きくなる。


 「俺と似てんだよ。見たことの無いものへの憧れってヤツだな。初めは狭い世界の中でも戦えればそれでいいと思っていたがな、こいつらに出会ってから知らないことに憧れと恐怖を同時に抱いちまったんだよ。だから俺はこいつらと旅をしている、世界の謎を知る為にな」


 似ている、そう言われるとそうかもしれない。


 この森で、エルザと暮らしていればそれでいいと。だけど、グレンとスミレに出会ってからは良くも悪くも刺激的な日々だった。何よりもイルザ自身がヴェンデの言う世界の謎を知りたいと、僅かながら思い始めている。


 (そう、ヴェンデは戦いの舞台を個人から世界に変えたのね・・・)


 「・・・姉さん?」


 不安そうにイルザの顔を覗き込むエルザ。


 (もし、もしも私が旅に出たいと言ったらエルザはどう思うのかしら。一緒に着いてきてくれるのかしら・・・)


 一抹の不安を覚えるが、まだ考える時間はある。その時のことはその時の自分に任せればいいと不安を拭った。


 「旅は、まぁ考えておくわ。それにしてもあなたって根っからの闘鬼なのね」


 「あ?  ・・・。ふっ、まぁそうかもな」


 「闘鬼オーガっスね」


 「同意」


 ヴェンデたちはそれぞれ笑う。ヴェンデは少し苦手だが嫌いになることはないだろうと、イルザは三人を見てそう思った。





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