ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

蝕む神



 「イルザ!!」


 真っ先に飛び出したのはグレン。動きを制していたアウラは模擬戦闘が終わると同時に、手を下げてグレン達を解放した。


 「・・・・・・」


 地面に座り込み、放心状態が続くイルザ。直前まであった確実な死の気配、向かってくる死の塊。今生きていることを認識することに精一杯である。


 「おいイルザ!  しっかりしろ!」


 イルザの肩を揺らして意識を取り戻そうとするグレン。


 「あちゃー。それなりに修羅場くぐってると思ってたんだが、ちとやり過ぎちまったかねぇ。安心しなぁ少年、気絶してる訳じゃねぇから嬢ちゃんはもうじき戻ってくる」


 頭を掻きながら反省の色を浮かべるヴェンデ。そうこうしているうちにイルザの意識は戻った。


 「私・・・、生きてる・・・?」


 「当たり前だ!  痛いところとか傷は無いか?」


 「え、ええ、大丈夫」


 体に異常は無い。至って無傷。


 「ヴェンデとの戦いはどうだったっスか?」


 さっきまでの真剣な表情とは裏腹に、無邪気な笑顔を向けてイルザに感想を求めるアウラ。


 「死を・・・覚悟したわ。それも今までとは比にならないくらいの恐怖を覚えたわ」


 ほうほう、と頷くアウラ。イルザは言葉を続ける。


 「だけど、どこか楽しんでいる自分が居たの。神界器デュ・レザムスを手に入れてから、たまに薄らと感じていたのだけれど。さっきの戦いで明確になったわ・・・」


 今まで誰にも話さなかった心の奥底に隠していた気持ちが溢れてくる。言葉にすることでもやもやしていた気持ちが形となり、イルザ自身が再認識する。


 「少なからず神界器デュ・レザムスの影響を受けているのは間違いねぇな。もともと戦うことが生きがいとも言える闘鬼オーガは別として、比較的温厚なダークエルフが好戦的ってのが証拠だな」


 イルザの感想を聞いて冷静に分析するヴェンデ。


 「でもまぁ、それに気がつけたら問題は無ぇだろう。嬢ちゃんの精神力は強い。だから神蝕しんしょくされることも無ぇな」


 「・・・神蝕しんしょく?  って何?」


 静かにイルザ達の様子を窺っていたエルザが口を開いた。神蝕しんしょく、という言葉でおおよその事は想像がつく。しかし、知っている本人が目の前にいるのならば、正しい知識として得ておく必要がある。


 「あー・・・アウラ、後は頼んだ」


 「えー!  面倒な事を全部ボクに押し付けるのやめて欲しいっスよ!」


 「役割、放棄。アウラ、惨め」


 意地悪な笑みを浮かべるコルテをよそに、大きくため息をついておほんと咳払いをしてから説明を始める。


 「ボク達みたいな召喚された人間にはこれといった害はないんスが、持ち主である魔族の方はじわじわと強い衝動に自我が侵食されるんス。過去に神蝕しんしょくされた魔族が居たんスけど、それはそれは、酷い化け物になったっス」


 アウラの説明で思い当たる節があった。


 ブランの最期。


 元の姿を留めていない化物。


 スミレがエルザの裾を掴む。救いたかった主を救えなかった悲しみがスミレを再び支配する。


 心無しか、コルテの表情がごく僅かであるがぴくりと動いたのをエルザは見た気がする。


 「・・・姉さんは本当に大丈夫なの?」


 「ってーわけでヴェンデ、さすがにその辺は同じ魔族が応えるべきだと思うんスが?」


 「そうだなぁ、ま、大丈夫さ。戦ってわかった」


 「いや、もうちょい根拠とか教えてあげた方がいいっスよ?」


 「そうなのか?」


 「そうっスよ」


 「・・・・・・」


 結局これもボクが代弁っスか、と今までで一番のため息をつくアウラ。なんだかんだで良いコンビなのだとイルザ達は二人のやり取りを見て微笑んでいた。


 「イルザさん、戦っている中でヴェンデの神界器デュ・レザムスが欲しい的な強い衝動に駆られたっスか?」


 少し振り返ってみる。鎧の攻略法を考えるだけで特に欲しいという感情が湧いた記憶はない。内から湧いてくるというかは、外から迫る恐怖の感情の方が強かった。


 「いえ、一切と言ってもいい程度には記憶にはないわ」


 「それがミソっス。精神力がない、あるいは欲望に溺れた魔族は、体力、精神力を大きく減らす戦いの中で神蝕しんしょくの影響をごっそり受けるっス。ヴェンデが大丈夫といった理由は、イルザさんが戦いの中でも影響を受けていなかったから。というのが根拠っスね〜」


 「イルザさん、安心。正しい、使い手」


 コルテも箔を押してくれる。ヴェンデもアウラの説明に口を出さないので、間違ってないのだろう。


 「だが、まだまだ弱い。戦いの技術も精神力もな。だから俺が鍛えてやるよ」


 突然のヴェンデの申し出に驚く一同。


 「いや、おっさんらは追ってる奴がいるからこの森に来たんだろ?  急がなくていいのか?」


 ヴェンデがこの森に来た理由を知っているグレンが問う。


 「追ってるつっても今すぐとっ捕まえるってぇ訳じゃねぇんだ。どちらかと言うと追跡してる事を悟られないようにこの森を使わせてもらってっから、時間は気にしてねぇ」


 「こちらとしてもありがたいのだけれど・・・。本当にいいのかしら?」


 「大丈夫っスよイルザさん。たぶんヴェンデが考えてるのはイルザさん達を強くして、強くなったイルザさんと戦いとかそんなとこっスから」


 たははと笑いながらアウラは困ったような嬉しいような表情を見せる。


 「戦闘狂、困り者」


 「まぁボクらは慣れてることっス」


 行き詰まっていたイルザ達の鍛錬は思わぬ来訪者のおかげで風向きが大きく変わろうとしていた。





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