ダークエルフ姉妹と召喚人間
対決 イルザとヴェンデ
目の前に立ちはだかるのは赤銅の鎧。構えといった構えは取っておらず、それでいて隙がない。
「ルールは、そうだなぁ・・・。俺に一発でも攻撃が入れば嬢ちゃんの勝ち。っつーことでいいな?」
「一発入れればいいのね。わかったわ」
イルザは剣を構え、呼吸を整える。
ヴェンデとの間合いは四、五メートルと言ったところか。普通に間合いを詰めれば、確実に反撃を貰うだろう。
魔力を静かに練り熾し、闇属性下位魔術の身体強化"ディストード"を自身に使用する。間合いを一気に詰めるなら下位魔術で充分だと判断した。
ヴェンデも妥当な判断だと兜越しにイルザの魔力の流れを視る。
(センスは悪くないらしい。さて、問題はその技量と精神だが)
構えは、取らない。
隙は、見つからない。
どうやらヴェンデは攻める気は無いらしい。ならば、相手の体勢を崩して隙を作る他手段はない。
魔力が込められた脚で大地を蹴る。低姿勢でヴェンデの懐へ入り込み、体を捩って剣を胴と腰の隙間を狙い振り払う。それと同時に蹴りを足の間から外へ刈るように入れる。本命は後者の攻撃。
「技術が思考に追いついてねぇぜ」
(・・・えっ?)
気がつけばイルザの体は宙へ放り出されていた。世界がぐるぐると周り、地面へと打ち付けられる。
「なるほどねぇ、これが嬢ちゃんの神界器ね」
ヴェンデはイルザが懐へ入り込んだ瞬間、イルザの腕を掴み片手で剣を取り上げ、もう一方の腕を掴んでいる手でイルザが初めにいた場所に回転して投げ返した。
「くっ・・・!」
ヴェンデがマジマジと見つめる"妖精の輝剣"は蒼白の粒子となりその手から消え、再びイルザの手元へ帰る。
「もうちょい見たかったが仕方ねぇか」
残念そうに肩を竦めるヴェンデは言葉を続ける。
「攻め方は問題ねぇな、魔獣かなんかでそれなりに戦ってはきたんだろ。だが、所詮は知性のない獣。そんなトロい動きしてたら魔族どころか人間にも勝てはしねぇぜ?」
まるで採点するかのようにイルザに言い聞かせる。
「なんのつもりよ?」
「なぁに、ただのかんそーだよ、かんそー」
顔が見えないので表情は分からないが、余裕そうに、意地悪に笑ってる。気がした。
「次の攻め手はどうするんだぁ?  まさかアレが全力でしたー。なんて事は無いよなぁ?」
挑発するような動作でイルザの攻撃を誘うヴェンデ。いくら力量差があるとはいえ、馬鹿にされているようで頭にくる。ヴェンデはこう言っていた『殺すつもりでこい』と。
「死んでも文句言わないでよね」
"妖精の輝剣"に魔力を注ぎ、刀身が蒼白に輝く。
「ほぅ」
イルザの殺気を感じたヴェンデはついに構えをとった。
神界器は共通して、技を繰り出す時に特有の輝きを放つ。相手にこれから技を仕掛けると宣言しているようなものだ。しかし、それでいても圧倒的な力で相手をねじ伏せることが可能である。その為、ヴェンデは構えをとった。
「"真空斬"!!」
蒼白の剣は空を斬り、衝撃波となりヴェンデに向かって飛んでいく。
もちろん、それで倒せるとは思っていない。イルザは衝撃波を追いかけるようにヴェンデとの間を詰める。
(斬撃を飛ばしてくるか)
ヴェンデは向かってくる衝撃波を二連の回転蹴りで打ち消す。一連目は衝撃波を相殺、そして二連目は。
「はああああッ!」
衝撃波で身を隠していたイルザが斬りつけてくる。それを予測していたヴェンデは続け様に放った蹴りで剣を弾く。
蹴りによって弾かれた剣は弧を描いて宙を飛ぶ。すかさずイルザは手元に剣を戻し、連結刃へと変形させる。
一発さえ入ればいい。鞭となった刃をヴェンデに向けて振るう。
(面白ぇ剣じゃねぇか、だがまだまだぬるいな)
蹴り終わりの体勢から地を蹴り、空へと跳ぶ。イルザが振るった刃は空ぶった。
(あの体勢から飛んだ!?)
この一連の動作までおよそ一、二秒。イルザの攻撃をものともせず回避するヴェンデの判断の速さは達人とも呼べる域だった。
宙を舞うヴェンデは”"軍神の武鎧”"のガントレットに魔力を少量だけ注ぐ。着地地点はイルザの背後、赤銅に薄く輝く拳を腰まで引き、真っ直ぐ突く。
(ああ・・・、私、死んだ)
凄まじい殺気、闘気、魔力。それを全て含んだ拳がとても巨大なものに見えた。
抱いた感情は恐怖。いや、未練、後悔。違う、高揚感だ、死を間際にして気持ちが昂っている。
ヴェンデの拳が迫る、迫る。
「・・・・・・」
痛みは感じない。恐る恐る閉じた瞳を開く。目の前には赤銅の拳が触れるか触れないかのギリギリのところで止まっている。
刹那。
嵐の如く、風圧が遅れて襲ってきた。
イルザにダメージは無い。吹き飛ばされそうになったが、剣を地面に突き立てて耐えた。
「期待外れというか、期待通りというか・・・。ま、これ以上やり合っても嬢ちゃんに勝ち目はない。俺の勝ちってことで終わりだな」
”軍神の武鎧”を解き、だらしない姿へと戻ったヴェンデ。
そして、イルザの背後の景色は一変していた。芝生だった庭は土が剥き出しとなり、十メートル以上離れている森の木々は木っ端微塵となっていた。
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