ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

らんちたいむ



 「探すつっても魔界文字はさっぱりだからどうしたらよいのやら」


 イルザとは別の資料室で探す三人。人間であるグレンとスミレは魔界文字を読むことが出来ず、エルザの後ろで書物の山を見つめるだけだった。


 「・・・だったら私が二人に読み方を教えてあげる」


 エルザはずらりと並ぶ背表紙を人差し指でなぞりながら呟いた。


 「是非教えて欲しいです!」


 食い気味に目を輝かせてエルザの袖を掴むスミレ。バランスを崩しそうになったが、グレンが体を支えてくれたおかげで倒れずに済んだ。


 「危ない危ない。でもまあ、そいつはありがたい。これから先、文字を読む機会も増えそうだし、俺らでも何か力になれるかもしれないしな」


 うんうんと大きく首を縦に振るスミレ。小動物の様な所作に愛おしさを感じたエルザは、スミレの頭を少し強めに撫でた。


 「・・・でも、教えるのは帰ってからね。はい、この本を姉さんの所に持って行って」


 『人間』と『躍進する者エボブラー』と表紙に書かれている本をグレンとスミレに手渡す。グレンとスミレはパラパラと中身に目を通すが、やっぱり読めないかと同時にため息をついた。


 「読めるようになるか不安になるな」


 「・・・こうして会話できるのだから、文字が違うだけで文法とかは同じなのだと思うわ。だから大丈夫・・・たぶん」


 「今小声でたぶんって言ったな?」


 鋭い指摘にグレンから目を逸らすエルザ。逃げるように別の棚へ移動した。


 「やれやれ・・・。持っていくか」


 「はいです!」


 二人は隣の部屋へ移動した。


 閲覧用のテーブルでイルザは資料相手に睨めっこしていた。


 「イルザさん、資料持ってきたです」


 「そんなしかめっ面で読んでたら顔にシワが刻みつくぞー」


 余程集中していたのか、イルザは声をかけられて体をびくっとさせた。


 「シワなんて付かないわよ! えーっと、『人間』と『躍進する者エボブラー』ね」


 渡された資料の題名に目を通す。『人間』は恐らくスミレのことだろう。そして『躍進する者エボブラー』は神界器デュ・レザムスとは関係ないが、エルザが気を利かせてくれたのだろう。強くなりたいという気持ちは一緒なのだとイルザは感じた。


 「何か分かったことはあるです?」


 「そうね、ここから北に千年戦争の遺跡があって、恐らくだけど武器がごとに出現する石板がある、っていうことは分かったわ。スミレも一緒に行ってたみたいだけど覚えてる?」


 ブランの能力によって隷属化していたスミレの記憶は断片的であった。バラバラになったパズルのピースを探すように思い出そうとしてみたが、研究所での記憶しか思い出せなかった。


 「残念ながら思い出せないです。恐らく隷属化して間もない頃だったので、その影響で覚えてないかもしれないです」


 イルザの力になれなかったことに肩を落とすスミレ。


 「思い出せないのなら仕方ないわよ、落ち込まないで。そこでなのだけど、千年戦争の遺跡に行ってみようと思うの。石板には武器について書いてあって、妖精の輝剣アロンダイトについても何か分かるかもしれないわ」


 「手掛かりがあるなら行くのがよさそうだな。ところで、ブランが見た石板にはなんて書いてあったんだ?」


 「それが、文字が崩れていたみたいで詳しくは分からなかったのだけど、神界器デュ・レザムスにはそれぞれ神が宿っている。全部で十二種あって、すべて揃った時に何かが起こる。ってぐらいね」


 「神が宿るか・・・。ブランが暴走したのは実は神のせいだったりしてな」


 グレンは冗談っぽく言ってはみたものの、空気が少し重くなった。


 「その可能性は大いにあるのよね・・・。石板にそれらしいことが書いてあったし」


 『月の女神■■を喰らう 精神を乱すこと勿れ』イルザはこの部分に暴走の原因があると推測していた。文字が欠けている部分さえ判明できれば、神界器を扱うヒントになるかもしれない。


 主を失ったとはいえ、手元に極光の月弓アルテミスがある今。少しでも危険な目にあわないようにしたい。


 そこでイルザはグレンと出会った時を思い出した。今のグレンとは正反対ともいえる堅苦しい口調で妖精の輝剣アロンダイトの最低限の説明をしていた。一冊目のレポートには記述されていなかったのでスミレに尋ねてみた。


 「スミレは魔界に召喚された時、ブランに極光の月弓アルテミスに関して何か言わなかった?」


 隷属化される前のことは覚えていたので、今度はすんなりと思い出せた。


 「はいです。意識とは関係なく出てきた言葉なのですが、極光の月弓アルテミスの扱い方について、他の武器の存在について、そして魔界の王がまだ生きている、ということを言ったです」


 「魔界の王が生きているですって!?」


 予想外の言葉に思わず叫んでしまったイルザ。


 「いきなり大声出してどうしたんだよ」


 イルザの動揺に驚くグレン。


 「ごめんない、でもこの魔界に統治者がいたなんて聞いたことないわ。おとぎ話ではよく魔王が登場するけれど・・・」


 ここで石板の最期の部分を思い出したイルザ。


 『魔の王により封印す』おとぎ話の千年戦争でも魔王という存在は登場する。千年戦争が実際にあったのなら、魔王が存在していてもおかしくない。しかし、今も魔王が生きているということに疑問を抱く。なぜ魔界に君臨しないのか、なぜ人間であるスミレが知っているのか。次々と疑問が風船のように膨れ上がっていく。


 「おーい、今度は急に黙り込んでどうしたんだ」


 グレンに呼びかけられ我に返ったイルザ。グレンはイルザを覗き込むように顔を近づけていたので、その近さに心を取り乱して椅子ごとひっくり返った。


 「おいおい、止まったりひっくり返ったり忙しい奴だな」


 「うっさい! あんたの顔がブサイクすぎて驚いたのよ!」


 転んだことが恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤らめて反論するイルザ。


 「ブサイクは無いだろ! 本当は照れてたんだろ? 正直に言っちまえよ!」


 「ふっ、私があんたに対して照れるなんてエルザの食意地が無くなるレベルでありえないわ。それとも、グレンはナルシストなのかしら?」


 「妙な説得力を感じるから言い返せねぇ・・・。って俺はナルシストじゃあねぇ!」


 突然始まった痴話げんかにあたふたするスミレ。止めるべき、というか止めたいのだが、スミレが口を挟む余地は無かった。


 「・・・お腹空いた」


 イルザとグレンの間に地面から生えるようにエルザが現れた。突然現れたエルザに面食らったイルザとグレンは一時停止した。


 「・・・お腹空いた」


 「いや、二回言わなくてもわかったから」


 「はぁ・・・確かにそろそろお昼の時間ね。お弁当作ってきたからお昼にしましょ」


 スミレはこの三人の中で一番強いのはエルザなのではないか、とお腹を鳴らしているエルザを見ながら思った。





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