ダークエルフ姉妹と召喚人間
反撃の青
「・・・またあの月」
エルザの守護方陣から二人が抜け出した後、その場に残ったエルザとスミレは小さく固まり、流れ弾が当たらぬよう防御に徹していた。
「“月女神の輝護”が発動してしまうと、“極光の月弓”は月光によって常に高出力で矢を射るができるです。発動させないのがベストですが・・・」
イルザとグレンの戦いを見守る二人。
(刃のない剣・・・私の為に・・・ですか)
殺したくない。その想いを汲んで、イルザとグレンは大きなハンデを背負って戦っている。
このまま何もせずに見ているだけでいいのか、再び葛藤する。
すると、戦っているイルザとグレンが青黒い霧の壁に取り囲まれてしまった。
「・・・姉さん!」
姿が完全に見えなくなってしまった。中で何が起きているのか見当がつかない。ただ無事に切り抜けることを信じることしかできない。
「・・・! プロテクション!」
索敵方陣を通り抜けた魔力の気配はスミレの喉元を狙ったが、間一髪のところで防ぐことが出来た。
「君は素晴らしい魔法使いだよ、実に憎い」
黄金に輝く弓を携え、“隷属の鍵”を仕掛けることに失敗したブランは怒りを隠そうとしなかった。
「・・・私はスミレを守ると決めたのよ。絶対に触れさせはしない」
エルザはスミレを後ろに隠し、確固たる意志を告げる。杖を構え周囲には紫電が迸る。
「その少ない魔力でどうするというのかね? その程度なら幻獣召喚はおろか、上位魔法も充分に発動することはできまい」
ブランに全て見抜かれていた。今のエルザは大型の守護方陣や索敵方陣など、支援魔法に魔力を消費しすぎていた。使うことのできる魔法は中位以下、それも長くはもたない。
「・・・それでも私は戦う。あなたの間違いを正すため、スミレの気持ちを無駄にしないため。戦うと決めたの」
「ふん、どいつもこいつも私の考えが間違ってるとほざく。君達姉妹と人間は私の寵愛の対象外だ。スミレと剣さえあれば問題ないのでね、全力で排除させてもらうよ」
心臓を締め付けるような鋭い殺気を放つブラン。それだけで足がすくみ、手が震える。圧倒的な絶望の中、小さな勇気が一歩を踏み出した。
「なんの真似かね? スミレ」
今にも青い瞳から涙が零れそうなスミレは、黄金に輝く弓矢をブランに向けていた。
「誰も、殺しも殺させもしませんです! イルザさん、エルザさん、グレンさん、そして主様も! もう命が消えていくのを見たくないのです!」
零れそうだった涙は静かに頬を伝う。
「愚かな。邪魔をする者に愛は不要なのだ、さらにこの聖戦には犠牲がつきものなのだよ。武器を手に入れるには、紋章を肉体から切り離さなければならない。そこに戦いが生じるのは必然だろう?」
やはりスミレの言葉はブランに届かない。
「だから、だから私は主様の計画を阻止するです。魔界の王になったからと言って愛が得られるわけがないのです! 主様は間違っているのです!」
ブランはしばらく言葉を返さなかった。ただ静かに、怒りを胸に燃やしていた。
異様な空気を察したエルザは警戒する。
「貴様は、貴様までも私の愛を愚弄するか。貴様の感情は邪魔だ。私の能力を持って消させてもらう」
「させないです。主様が分かってくれるまで、私は戦うです」
スミレは弓の弦を強く引く。
それより先に攻撃を仕掛けたのはエルザだった。エルザは杖を振り、雷の下位魔法ボルティックをブランに向けて一直線に飛ばす。
「無駄だ」
ブランは素早く弦を爪弾くと、魔力矢が雷を割いた。下位魔法程度では神界器に対抗することは不可能である。
「まずは貴様からだ、電撃娘。貴様の雷ごと射貫き体液全て喰い尽くしてやろう」
「・・・気持ち悪いわ。だけどやられるわけにはいかないわ。・・・時間稼ぎ程度だけれども止めてみせる」
そこに構えを解いたスミレがエルザに小声で話しかける。
「エルザさん、少しでいいです。主様を引きつけてもらえないですか」
スミレに何か策があるのだろう。スミレを信じると決めた、それに使える魔力も限られている。この状況で頼れるのはスミレしかいない。
「・・・わかったわ、任せて」
親指をあげて笑顔を見せる。
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