ダークエルフ姉妹と召喚人間
突破
「まるで岩石に向かって斬りつけてるみたいだな! ・・・っと」
結晶化で固めた拳をバック転で避けるグレン。
「表面しか斬れてないわね・・・まだ行けるかしら? 息が切れてるみたいだけれど?」
「へっ、それはお互い様だろ? 来るぞ!」
両の手を結晶化させながら突進してくる。
イルザとグレンは剣を構え、拳を受け流し、ガルビーストの背に一太刀いれる。しかし、それもまた表面の皮膚に傷をつけた程度でしかなかった。
「攻撃は単調だが、防御力が厄介すぎる。本当にあの化け物を倒せるのか、スミレは」
「つべこべ言わず時間を稼ぐのよ!」
「わーってるって! ・・・危ない!」
グレンの直感が危険を察知し、イルザを押し倒す。背後には“音響咆哮”の跡が残った。
「間一髪・・・あっ」
グレンの左手にはこの世のものとは思えない柔らかい感触があった。
「・・・早くその手をどけなさい」
「すまんすまん。 っげ、またか!」
グレンは素早く連結刃へと変形させ、剣先をホール二階のシャンデリアへ絡ませ、イルザを抱えて跳躍した。
ガルビーストの咆哮が響く。二発目の“音響咆哮”もギリギリ避けることが出来た。
エントランスホール二階へと着地と同時にスミレの声が響いた。
「イルザさん、こっちです! グレンさんはほんの少しでいいので、ガルビーストの動きを止めてくださいです!」
「やっとね。だけど、スミレの場所まで結構な距離があるわ・・・」
スミレとエルザが狙われないように少しずつ距離を離しながら戦っていたせいもあり、ガルビーストを避けて通るには難しい距離だった。
「ここは俺に任せろ。俺がガルビーストを引きつけるから、イルザはその隙に連結刃で一気に進め」
「わかったわ、任せたわよ! あとで一発殴らせてね」
「なんでだよ!」
「私の胸触ったでしょ! ほらさっさと行く!」
「あれは事故だろ! くそお!」
理不尽な宣告を受けたグレンは不満をたれながら、一階へと降りて行った。
「お前のせいで殴られる羽目になっちまったぜ。覚悟しろよ!」
ガルビーストは降りてきたグレンをその目で捉え、再び突撃する。
連結刃だった刃を長剣へ変形させ、構えをとる。
「スミレの言うことが本当なら俺にもアレが出来るはずだぜ。・・・真空斬!」
青白く輝くグレンの“妖精の輝剣”から衝撃波が生まれ、ガルビーストの目に向かって飛んでいく。
真空斬はガルビーストの目に直撃し目を潰した。
「今だ! 行け!」
目を潰されたガルビーストは一瞬、動きを止める。
イルザはその隙に剣を連結刃へと変形させ、スミレの真上にあるシャンデリアに剣先を絡ませ、大きく跳躍し、無事着地する。
「お待たせ。それでどうするの?」
「イルザさんの“妖精の輝剣”を“極光の月弓”で射出するです。一人で矢を射ることは出来ないので一緒に弦を引いてほしいです」
「“妖精の輝剣”を!? ・・・ええ、わかったわ、やりましょう」
スミレの意外な提案に一瞬驚いたが、スミレの真剣な眼差しを見て本気なのだと感じた。
イルザは長剣に変形させた“妖精の輝剣”をスミレに渡した。
「照準は自動で合わせてくれるです。後はグレンさんが動きを止めてくれればいつでも撃てるです」
月光を吸収しきった“極光の月弓”は黄金に強く輝き、弓の形が天使の翼のように変形していた。
(あっちの準備は終わったみたいだな・・・そろそろ頃合いか)
グレンは目を再生させたガルビーストを引きつけるため、斬っては逃げるを繰り返しながら様子を見ていた。
(動きを止めるっていっても一瞬しか止めれねぇが大丈夫なのか?)
再び刃を連結刃へと連携させる。
連結刃を鞭のように振るい、ガルビーストの全身へと巻き付ける。
「これでどうだ!」
「動きが止まったわ!」
「今です! ・・・“断罪の月光・妖精”」
蒼白に輝く剣の矢に黄金の魔力が纏い、弦を離したと同時に光の速さで射出された。
ガルビーストは光速の矢を認識した。確実に心臓へ向かってくるそれを防ぐために筋肉の結晶化を意識する。だが脳の伝達は光の速さを超えることはできなかった。
矢はガルビーストの胸部を貫通し、大きな風穴を空けた。
巨体は膝から崩れ落ち、肉体は粒子となって生命を失った。
「本当にやりやがった・・・」
間近でその光景を目の当たりにしていたグレンは、一瞬の出来事が数分のことのように感じていた。思わず腰が抜けて、その場に座り込んだ。
「・・・。やったですか・・・?」
「ええ・・・何とか倒せたみたいね・・・」
イルザ達もまた予想以上の威力に呆気にとられていた。
神界器の合わせ技。巨獣を一瞬で消し去るほどの威力を放ったそれに恐ろしいものを感じたイルザ。
これなら確かに、神界器を統べた者が魔界の王になれるというブランの言葉にも納得がいく。
ますますブランに神界器を渡すわけにはいかなくなった。
ボロボロになったエントランスホールを見渡しながらイルザは思っていた。
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