ダークエルフ姉妹と召喚人間
グレンの疑問
イラエフの森北東部。ブランが逃げた先である第二研究所へ向かうイルザ一行。イルザを先頭に、スミレと手負いのエルザを後方から守るグレンというひし形の陣形を組み、森を進んでいた。
「エルザさん、大丈夫です? 魔力が回復したとはいえ、あれだけの攻撃を受けたのです。歩くのは辛いと思うです・・・」
「・・・大丈夫。だけど戦うのは難しいかも」
乾燥させたオグリの実によって魔力を回復させたエルザは、なんとか歩ける状態だった。イルザの治癒魔術で傷は塞がっていても、激しい体力の消耗で今後の戦闘はしばらくできない。
「あいつとの決着は私とグレンで付けるわ。その間スミレはエルザを守っていて」
イルザは前方への警戒を解くことなく、振り向いてスミレの目をまっすぐと見つめる。
その視線は信頼が込められていた。
スミレはしっかりと受け取り大きくうなずいた。
「なぁスミレ、二つほど質問していいか?」
続いてグレンが口を開いた。
「はいです。私が答えられることなら全部話すです」
「オッケー。まず一つ目だ。スミレは俺みたいに・・・あれだ、神界器だっけか? 出せるのか?」
「出せるです」
そう言って“極光の月弓”を手に取ってみせた。
「そこは俺と同じか。やっぱり武器の力は劣化してるんだよな? 俺らそのあたり実験してないからさ。あの男ならいろいろ調べて知ってるだろ?」
「劣化、ではないと思うです。神界器は生きた武器、持ち主と共に進化していくです。そしてそれを守護する私達が扱える神界器は、私たち自身で進化させることが出来ないのです。つまり、主が強くなれば、私達人間の扱える神界器も主と同等の力を出すことができるです。」
「なるほどね、ってことはイルザがもっと強くならねぇと俺も強くなれねぇんだな。頼むぜイルザ」
悪戯にイルザに向けて笑って見せた。
「言われなくても分かってるわよ!」
ムキになって返事をするイルザ。なぜか“妖精の輝剣”をこちらへ向けていた。
「すまんすまん! 落ち着いてくれ!」
ふんっと言って剣を収めた。
「ふぅ・・・えーっとそれで二つ目の質問だ、何故ホルグも“極光の月弓”を扱えた? もしかして譲渡とかもできるのか?」
「はいです。私たち人間は主以外の魔族に仮契約として、神界器を手渡すことが出来ますです。ですが、仮ですので譲渡した時点の力までしか出せないです」
「となると、ホルグであれだけ使いこなせてるから、あの男はもっとヤベぇってことだな・・・」
それはイルザも薄っすらと察していた。ブランが扱う“極光の月弓”はホルグの時とは別格だった。
ホルグにギリギリ勝てたイルザは、今のままではブランに勝つことは敵わないだろう。
「それでも勝つのよ」
イルザは自分に言い聞かせるように呟いた。
「・・・ああ、そうだな。柄にもなく弱腰になっちまってたぜ」
頬を叩いて気合を入れ直したグレンの表情は吹っ切れている。
「頼むわよグレン。さぁ、もうそろそろかしら」
第二研究所まで何事もなく辿り着こうとしている。かえってそれが不気味であった。
「あ、質問は二つって言ったけどついでにもう一つ聞いていいか?」
イルザとエルザに聞こえないように小声でスミレに声をかける。
「・・・? どうぞです」
「人間界に居た頃の記憶ってはっきり覚えているか?」
グレンにとっては重大な質問だった。
スミレと出会ってから度々現れる頭痛、記憶に対する違和感。同じ召喚された人間同士、何かあるかもしれないとふんでいた。
「人間界・・・ですか。はっきりとは覚えてないですが、巫女のようなことをしていたのは覚えているです」
「スミレも記憶が曖昧なのか・・・」
「もしかして、グレンさんもです?」
スミレは意外なグレンの言葉に驚いた。
「ああ、だから聞いてみたんだが、謎が増えただけだったな。どうも神界器ってのはきな臭いな」
「・・・二人で何コソコソ話してるの?」
エルザに気づかれてしまったのでスミレとの会話はここまでにすることにした。
「なに、帰ったらパーティーでもしようって話してたんだよ。なっ?」
「は、はいです! 食べ物いっぱい作るって話していたです」
グレンの目配せに気づいたスミレは精一杯誤魔化した。
「・・・食べ物いっぱい。帰ったら絶対やろう!」
「お、おう。任せろ!」
何とか誤魔化せたらしい。
いよいよブランとの決戦が近づいてきている。今は自分の記憶よりも戦いに集中しなければならない。
グレンはもう一度頬を叩いて気合を入れ直した。
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