ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

蜘蛛の鋼巣(トイル・ダラニー)



 「あらよっと!」


 ガルムの爪や牙を身軽にかわすグレン。


 魔術は使えない、物理攻撃は効かない、立ち向かうは生身の人間。


 圧倒的ともいえる不利な状況でも、余裕の笑みを見せていた。


 (予想通り、規則的に動きすぎて行動が単純すぎる。スピードと攻撃力は恐ろしいが、動きを見切れば乗り切れる)


 右、右、と連続した爪による切り裂きから、左のフェイントを混ぜた切り裂き攻撃、そして避けられることを前提とした右からの薙ぎ払い。最後に突進と咬みつき。


 接近戦はこのパターンを繰り返す。機械的な動きをするガルムの攻撃はタイミングさえ見切れば簡単に避けられた。


 そして、一定の距離を置くと息を大きく吸い込んで“音響咆哮ソニック・ルージセメント”の態勢をとる。遠距離攻撃をさせないように立ち回りつつ、円を描くように位置を変えていく。


 「ほらワン公! 次はこっちだ!」


 挑発は聞いていないが、注意をこちらに向けるため声を上げる。


 攻撃の為にグレンへと距離を詰めるガルム。それと同時にグレンは地面に杭を突き刺し、攻撃のタイミングに合わせ、避ける。


 「遊んでやるよ」


 手を叩き、こっちに来いとジェスチャーを送る。


 再び同じように、距離を詰め、攻撃を始めるガルム。


 今度は杭を木へと突き刺し、攻撃を避ける。


 (そろそろ頃合いか・・・)


 ガルムの突進からの咬みつきを避け、大きく、遠距離攻撃を行わない程度に距離をとる。


 「ほら最後のお遊びだ! 来い!」


 変わらず距離を詰めるガルム。


 右、右、と連続した爪による切り裂き。


 続いて左のフェイントを混ぜた切り裂き攻撃。


 そして避けられることを前提とした右からの薙ぎ払い。


 最後の突進攻撃が終わり、咬みつきを仕掛けてくる。


 (今だ!)


 右手に仕込んでいた糸を強く引っ張った。


 ガルムは突然口を大きく開けたまま動きを止めた。


 上顎と下顎は糸で固定され、体の関節を固めるように糸が張り巡らされている。


 「“蜘蛛の鋼巣トイル・ダラニー”。本来なら金属で出来た糸を使うんだが、代用として魔鋼蜘蛛まこうぐもの糸を使わせてもらった。って、説明しても理解できないよなぁ。ワン公だもんなぁ」


 自慢の罠を寂しく独り言のように説明するグレン。虚しさに大きなため息を吐いた。




魔界に生息する魔鋼蜘蛛から作られる魔鋼まこういとは金属で作られた糸のように固く粘着性もある。魔界では建築資材としても使われる。


 「玄関の修理用の糸だが、罠にも十分使えるな」


 完全に捕縛されたガルムの周りをぐるぐる回りながら、罠の完成度を確認する。


 「悪いが、とどめは刺させてもらうぜ」


 右手に短剣型の“妖精の輝剣アロンダイト”を握り、エルザに精製してもらった“鴉喰からすばみはな”の毒が込められた魔宝石を刀身に付与する。


 「あばよ・・・」


 大きく開いた口。


 その奥へ、強力な毒が付与された短剣を投擲する。


 喉奥へ突き刺さった後、呼吸を大きく乱して白目を剥きながらその命は散った。


 グレンは罠を解除し、ガルムの拘束を解く。大地を踏みしめる力を失った肉体は地面に吸い寄せられるかのように倒れこむ。


 「・・・命をもてあそびやがって」


 機械的な動きをし。動物的な動きをしないガルム。この飼い主はガルムに改造を施したのだろう。


 グレンは命を弄ぶ様に奪う者が許せなかった。怒りと悲しみが入り混じる。


 「・・・今はそんなこと考えている場合じゃないな」


 エルザが走り去った方角を確認する。


 少し先の木にご丁寧にも道筋を辿れるように目視できる魔力の塵を残していてくれた。


 「わかりやすくて助かるぜ」


 グレンはエルザの痕跡を頼りに、イルザが囚われている館へと走り出した。









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