ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

奴隷商人



 「終わったぞ~・・・」


 弱々しく、いかにも疲労困憊と主張する声でグレンが外から声をかける。


 時は既に日没を迎えていた。


 修理の進捗として、資材の確保、設計図の完成、罰ゲームの今日の分の薪割りと、充分といえる具合だった。


 本格的な修理は明日からになるだろう。


 居間と姉妹の部屋は無事だったので、しばらくの間は寝食はその部屋で過ごすことになる。


 「お疲れ様! 夕食の準備できたから入ってきなさい!」


 大きな鍋には木の実がたっぷり入ったシチューがぐつぐつと音を立てて煮込まれており、マイの実を粉末にして水でこねて焼き上げた、マイの粉パンが食卓に並べられていた。


 「この状況で旨そうな料理を作るんだから、イルザってすげぇよな」


 「褒めても何も出ないわよ。こんな状況だからこそ、しっかり食べなきゃ」


 シチューを入れた皿を並べていき、全員食卓に着く。


 「さて、改めて自己紹介といきますか。俺はグレン・フォードだ。一応人間だ」


 青髪の巫女装束を纏った少女に向かって、笑顔を向けながら自分の名を告げるグレン。


 「さっきもしたけど一応もう一度しておこうかした。私はイルザ。イルザ・アルザスよ。」


 「・・・エルザ。・・・イルザの妹」


 「って、もう食ってんのかよ」


 エルザの口には次々と忙しそうにシチューが運ばれていく。


 その食べっぷりに目を奪われていた青髪の少女は、はっ、と我に返り、全員に聞こえるように口を開く。


 「私は・・・スミレ・オーバンです。助けていただき、ありがとうです」


 スミレは席を立ち、深々とお辞儀をする。


 「あーあー! そんなことしなくていいから!」


 イルザは席に着くよう促す。


 「それにスミレを助けたのはエルザだから。そんなことより、どうして森にいたの? ここらじゃ魔獣の住む森で有名で誰も近付きたがらないのだけれど」


 魔獣除けの結界を張っているから実感は薄いが、結界の一歩外は魔獣が跋扈ばっこしている。


 「奴隷商人から逃げてきた・・・です」


 虚ろな瞳はさらに重く、暗くなり、静かに話す。


 「商人が支配する町があるです。私は、そこへ運ばれる途中で逃げ出したです。森は逃げるには絶好の場所と思ったですが、魔獣に襲われて気を失いました・・・です」


 「奴隷商人が支配する町・・・か。森の外に出ていなかったから知らなかったわ」


 「確か魔界って、国とか無かったんだろ?」


 グレンは確認としてイルザに問いかける。


 「ええ。基本的には、ね。力を持て余すやからは、自分の領地を作ったりするわ。恐らく、奴隷商人もその手の輩ね」


 「・・・スミレ、ここに住む?」


 シチューとパンを食べ終えたエルザは口を拭きながらスミレに尋ねる。


 「・・・仲間がいる・・・です」


 「仲間?」


 「はいです。私を逃がしてくれた人がいるです。その人を助けに行くです。」


 「助けに行くって、魔獣にがうろうろしてるんだぞ!?」


 グレンはスミレの無謀ともいえる発言に声を上げる。 


 「落ち着いてグレン。ねぇ、スミレ?」


 虚ろな瞳をイルザに向ける。


 「私たちも一緒に行ったらダメかしら? 魔獣除けの魔法石もあるし、戦う力もあるわ。あなた一人で行くより、成功する確率は高いと思うの」


 「そうこなくっちゃ!」


 指を鳴らし、期待していた言葉をかけたイルザにナイスとヤジを飛ばす。


 「・・・でも、危ない・・・です」


 「危険は承知よ。でもスミレを見ていたら放ってはおけない気持ちになっちゃうの。だから、その人を助けて、一緒に暮らそう?」


 「・・・・・・」


 虚ろな瞳を下に向け、無言になる。しばらくの静寂のあと、スミレは顔をあげた。


 「お願いします・・・です」


 ぺこりと、今度は浅めのお辞儀をするスミレ。


 イルザはその頭に優しく手を置き、よしよしと撫でる。


 「そうと決まれば家の修理は中断ね! 明日にでも出発しよう!」


 「・・・私も行く」


 「もちろん俺もな」


 エルザとグレンは笑顔を向けて親指を立てた。


 「ありがとう・・・です」


 「さぁ! 片付けて今日は休みましょう!」


 食卓を全員で片付ける。その姿は家族の様なほほえましい光景だった。


 スミレの心を除いては。





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