イジメは良くないよ?
イジメは良くないよ?
「・・・その男の子はイジメられていたんだ」
友也がぽつりぽつりと話し始めた。顔には懐中電灯の明かりが下から当たり、陰気な顔が怪談の雰囲気を強調しているように見える。
今僕等は林間学校の真っ最中。そして、お決まりの『百物語』をやっていた。
僕の所属する6の3全員参加だ。
とはいえ、先生達にはバレないように静かな声でやっている。
残念ながらロウソクも使えないので、懐中電灯をみんなで回して使う事にした。
懐中電灯をが回って来たら点けながら話して、話し終えたら消すという具合だ。
雰囲気はイマイチだったけど、それでもそこそこ盛り上がっていた。
次々に聞いた事のない怖い話が飛び出してきて、みんな中々怖い話を知っているんだなあと変なところで感心してしまった。
そうして今29人がやっと話し終え、ようやく最後の一人が話し始めたところなのだ。
大トリをやらされる羽目になったのは、クラスでイジメられている友也だった。
イジメっ子のリーダーである豊達に無理矢理参加させられた上に「大トリやらせてやるんだから最高に怖い話をしろよ!さもないと罰ゲームな!」とはやし立てられた結果だ。
友也はいつもそうするように泣き笑いのような困った顔で、ヘラヘラと笑いながら豊達の言う通りにするだけだった。
先程から声が小さいと「聞こえねーぞ!」と野次られ、少し声を大きくすると「先生来ちまうだろうが!」と怒られる。
そんな理不尽な言いがかりで何度も責められたせいか、友也は今にも消え入りそうな声で続ける。
「・・・それで、その子は・・・、呪いをかけたんだ。自分をイジメている子達に、自分の命と引き換えに殺して下さいって悪魔に頼んだ・・・。その後、学校の屋上から飛び降りたら、たまたま下にイジメっ子達がいて、その子達の頭や首の骨を折るかたちでその子は落ちたんだって・・・」
そこまで話すと、友也は申し訳なさそうに懐中電灯の明かりを消した。
「・・・それで?まさかそれで終わりじゃねーよな?」
豊が小馬鹿にしたように聞く。
「えっ、ご、ごめん、終わり、なんだ」
友也がヘラヘラと笑いながら困ったように謝る。
「はあ~?お前ふざけてんの?そんな面白くも怖くもない話でみんなが満足すると思ったのか?え?こらっ!」
豊が友也の頭を小突く。友也は「痛い、痛いよ豊君」と相変わらずヘラヘラしながら弱々しく呟くだけだ。
「なあ、今の話怖かったか?」
豊がクラスメイト見回して聞く。
「全~然!」
豊の取り巻き達が最初に答えた。それを皮切りにみんながニヤニヤと笑いながら答え始める。
「んー、怖くはなかったかなあ」
「話し方も下手だったしねぇ」
「罰ゲームじゃね?」
誰かがそう言い始めると、それに呼応するように「罰ゲームコール」が起こった。
「イエーイ、罰ゲーム!罰ゲーム!」
「罰ゲーム!罰ゲーム!」
「おい、聞いたか?みんながお前は罰ゲームだってさ」
豊は楽しそうに友也に告げる。
「何にしよっかなー?お前の罰ゲーム・・・、そうだ!お前の話の主人公と同じようにお前もここから飛び降りろよ」
友也のTシャツの袖の部分を引っ張りながら、豊は窓へと引きずって行った。
「や、やめてよ、豊君、イ、イジメは良くないよ?」
ヘラヘラとしながら、こびを売るような笑顔で友也は豊に懇願する。
「ああ?誰がイジメてるって?・・・これは罰ゲームであって、イジメじゃねーよな?」
豊が再びみんなを見回しながら聞いてくる。
「・・・うん、罰ゲームだよね」
「そうそう、罰ゲーム」
誰も友也の味方をしようとする者はいないみたいだ。
さすがに窓から飛び降りろって言うのはやり過ぎな気がするけど、ここは2階だし、それに下は草だらけなので大怪我はしないはずと、みんなふんでいるのかもしれない。
「ほら、飛び降りろよ。先生達には『寝ぼけて飛び降りちゃいましたー』って言えば中に入れてもらえるから大丈夫だって」
無責任な事を言いながら豊が友也の背中を押して、窓の所へ突き飛ばした。
友也は窓ガラスにぶつかりそうになりながらも、何とか体勢を立て直す。
そうして、ヘラヘラと笑いながら困ったようにみんなを見回す。
その様子にイラついたのか豊が小声ながらも怒鳴る。
「遅ぇんだよ!早くしろ!」
その言葉に友也はオロオロしながらも、窓の下とみんなとを交互に眺めていたが、諦めたように窓を開け、もう1度だけこっちを振り向き、すぐに窓の下へ顔を向け直すとそのまま飛び降りた。
「うわっ、あいつマジで飛び降りたよ」
「やだー、信じらんない」
「バカじゃねぇの」
クラスメイト達は誰1人、友也に同情する事なく嘲笑を浴びせる。
豊が笑いながら下も確認する事なく、窓をバンッと閉めるとこう言った。
「さっ、寝ようぜ!」
その言葉にみんなクスクスと笑うと、先生達に気付かれないようにそれぞれの部屋に戻った。
僕は少し友也の事が気になっていたが、結局寝てしまった。
大変な事になったと知ったのは次の日だった。
次の日の朝になっても友也は部屋に戻っておらず、先生達やクラス総出で探したけれど、何処にも友也の姿はなかった。
警察まで出動する騒ぎになり、友也の両親も駆けつけて山狩りまで行われたが、とうとう友也は見つからなかった・・・。
僕等もさんざん警察や先生達や友也の両親に「何か心当たりはないか」と聞かれたが、誰も何も答える事が出来なかった。
そのまま月日は流れ、友也が見つからないまま僕等は小学校を卒業した。
そして、今日僕等は10年ぶりに再開する事となった。
「久しぶりー!」
「元気だったー?」
「変わってないねー!」
宴会場のあちこちから賑やかな声が聞こえてくる。
あんな出来事があった為、卒業後は何となくみんなで会う事を避けていたが、当時のクラス委員長だった綾乃が同窓会を開く事を提案してくれた。
綾乃から連絡が来た時には驚いた。
「もう私達も22才になるし、大学組ももうすぐ社会人になっちゃうでしょ?その前にみんなで1度会っておかない?・・・そのさ、もしかしたら、友也君も・・・現れるかもしれないしさ、なんてね・・・」
電話越しに綾乃が冗談めかした口調で喋る。
綾乃自身あり得ないと思いつつ話しているのが分かったけど、余計な事は言わずに僕は「・・・そうだね」とだけ答えた。
みんなも複雑な思いながら、「もしかしたら・・・」という望みに縋りたいのか、意外にも欠席者誰もいなかった。
・・・友也を除いて。
「・・・やっぱり、来るはずないよね」
分かっていたことだろうに、少し悲しげに綾乃が言う。
「・・・うん」
僕も俯きながら答える。
「本当、何処行っちゃったのかな?・・・友也君」
綾乃がこれまで幾度となくみんなで話し合ってきた事を、今度は誰に言うでもなく呟く。
その時だった。僕等の後ろから怒鳴る声が聞こえて来る。
「おいっ!せっかくの同窓会なんだから酒が不味くなるような話はやめろ!」
豊だった。
豊はいかにも気分を害したという顔で睨みつけてくる。
「何よ、友也君の事話すのが悪いっていうの!?」
驚いた事に綾乃は豊のねめつけにも負けず、言い返すした。
予想外だったのか、その事に多少たじろぎながらも豊は怒鳴った。
「当たりめぇだろ!あんな俺への当てつけみたく勝手にいなくなって、みんなに迷惑かけ続けてる奴の事なんか話してんじゃねえよ!」
少し酔っているのか、ただでさえ悪い目つきが更に鋭くなっている。
「誰のせいだと思ってんのよ」
「ああ!?みんなのせいだろ?お前等だってわかってんだろが」
「っ、それは、そうだけど・・・」
「ねえ!もうやめようよ、その話は終わり!ねっ?」
この場の空気が不穏になり始めたのを悟った女子達が間に入って、その場を何とか収めてくれた。
だけども1度険悪になってしまった空気はいかんともしがたく、結局あまり盛り上がらないまま夜の9時頃にはお開きとなった。
「ったく!ああ!下らねぇ!来なきゃ良かったぜ!」
吐き捨てるように豊が怒鳴りながら会場の外へ出て、歩き出した瞬間だった。
突然、ドシンッ!!!という轟音と共に豊の体は頭から砕け散ってその場にくずおれた!
何が起きたのか理解できないまま、あちこちから暗闇を引き裂くような悲鳴があがる。
仄かな月明かりに照らされた豊の亡骸の上に、たった今空から落ちて来た何かが蠢いている。
それはゆっくりと起き上がると、驚きのあまり身じろぎ1つせずに凝視している僕等の方を振り向いた。
・・・その何者かは子供の姿をしていた。
顔は見えなかったが、どこか見覚えのあるフォルムだった。
その子供はニタリと笑うとこう言った。
「・・・だから言ったんだ、『イジメは良くないよ?』って、ね、豊君・・・」
心なしか、ひどく懐かしい声を聞いた気がした・・・。
友也がぽつりぽつりと話し始めた。顔には懐中電灯の明かりが下から当たり、陰気な顔が怪談の雰囲気を強調しているように見える。
今僕等は林間学校の真っ最中。そして、お決まりの『百物語』をやっていた。
僕の所属する6の3全員参加だ。
とはいえ、先生達にはバレないように静かな声でやっている。
残念ながらロウソクも使えないので、懐中電灯をみんなで回して使う事にした。
懐中電灯をが回って来たら点けながら話して、話し終えたら消すという具合だ。
雰囲気はイマイチだったけど、それでもそこそこ盛り上がっていた。
次々に聞いた事のない怖い話が飛び出してきて、みんな中々怖い話を知っているんだなあと変なところで感心してしまった。
そうして今29人がやっと話し終え、ようやく最後の一人が話し始めたところなのだ。
大トリをやらされる羽目になったのは、クラスでイジメられている友也だった。
イジメっ子のリーダーである豊達に無理矢理参加させられた上に「大トリやらせてやるんだから最高に怖い話をしろよ!さもないと罰ゲームな!」とはやし立てられた結果だ。
友也はいつもそうするように泣き笑いのような困った顔で、ヘラヘラと笑いながら豊達の言う通りにするだけだった。
先程から声が小さいと「聞こえねーぞ!」と野次られ、少し声を大きくすると「先生来ちまうだろうが!」と怒られる。
そんな理不尽な言いがかりで何度も責められたせいか、友也は今にも消え入りそうな声で続ける。
「・・・それで、その子は・・・、呪いをかけたんだ。自分をイジメている子達に、自分の命と引き換えに殺して下さいって悪魔に頼んだ・・・。その後、学校の屋上から飛び降りたら、たまたま下にイジメっ子達がいて、その子達の頭や首の骨を折るかたちでその子は落ちたんだって・・・」
そこまで話すと、友也は申し訳なさそうに懐中電灯の明かりを消した。
「・・・それで?まさかそれで終わりじゃねーよな?」
豊が小馬鹿にしたように聞く。
「えっ、ご、ごめん、終わり、なんだ」
友也がヘラヘラと笑いながら困ったように謝る。
「はあ~?お前ふざけてんの?そんな面白くも怖くもない話でみんなが満足すると思ったのか?え?こらっ!」
豊が友也の頭を小突く。友也は「痛い、痛いよ豊君」と相変わらずヘラヘラしながら弱々しく呟くだけだ。
「なあ、今の話怖かったか?」
豊がクラスメイト見回して聞く。
「全~然!」
豊の取り巻き達が最初に答えた。それを皮切りにみんながニヤニヤと笑いながら答え始める。
「んー、怖くはなかったかなあ」
「話し方も下手だったしねぇ」
「罰ゲームじゃね?」
誰かがそう言い始めると、それに呼応するように「罰ゲームコール」が起こった。
「イエーイ、罰ゲーム!罰ゲーム!」
「罰ゲーム!罰ゲーム!」
「おい、聞いたか?みんながお前は罰ゲームだってさ」
豊は楽しそうに友也に告げる。
「何にしよっかなー?お前の罰ゲーム・・・、そうだ!お前の話の主人公と同じようにお前もここから飛び降りろよ」
友也のTシャツの袖の部分を引っ張りながら、豊は窓へと引きずって行った。
「や、やめてよ、豊君、イ、イジメは良くないよ?」
ヘラヘラとしながら、こびを売るような笑顔で友也は豊に懇願する。
「ああ?誰がイジメてるって?・・・これは罰ゲームであって、イジメじゃねーよな?」
豊が再びみんなを見回しながら聞いてくる。
「・・・うん、罰ゲームだよね」
「そうそう、罰ゲーム」
誰も友也の味方をしようとする者はいないみたいだ。
さすがに窓から飛び降りろって言うのはやり過ぎな気がするけど、ここは2階だし、それに下は草だらけなので大怪我はしないはずと、みんなふんでいるのかもしれない。
「ほら、飛び降りろよ。先生達には『寝ぼけて飛び降りちゃいましたー』って言えば中に入れてもらえるから大丈夫だって」
無責任な事を言いながら豊が友也の背中を押して、窓の所へ突き飛ばした。
友也は窓ガラスにぶつかりそうになりながらも、何とか体勢を立て直す。
そうして、ヘラヘラと笑いながら困ったようにみんなを見回す。
その様子にイラついたのか豊が小声ながらも怒鳴る。
「遅ぇんだよ!早くしろ!」
その言葉に友也はオロオロしながらも、窓の下とみんなとを交互に眺めていたが、諦めたように窓を開け、もう1度だけこっちを振り向き、すぐに窓の下へ顔を向け直すとそのまま飛び降りた。
「うわっ、あいつマジで飛び降りたよ」
「やだー、信じらんない」
「バカじゃねぇの」
クラスメイト達は誰1人、友也に同情する事なく嘲笑を浴びせる。
豊が笑いながら下も確認する事なく、窓をバンッと閉めるとこう言った。
「さっ、寝ようぜ!」
その言葉にみんなクスクスと笑うと、先生達に気付かれないようにそれぞれの部屋に戻った。
僕は少し友也の事が気になっていたが、結局寝てしまった。
大変な事になったと知ったのは次の日だった。
次の日の朝になっても友也は部屋に戻っておらず、先生達やクラス総出で探したけれど、何処にも友也の姿はなかった。
警察まで出動する騒ぎになり、友也の両親も駆けつけて山狩りまで行われたが、とうとう友也は見つからなかった・・・。
僕等もさんざん警察や先生達や友也の両親に「何か心当たりはないか」と聞かれたが、誰も何も答える事が出来なかった。
そのまま月日は流れ、友也が見つからないまま僕等は小学校を卒業した。
そして、今日僕等は10年ぶりに再開する事となった。
「久しぶりー!」
「元気だったー?」
「変わってないねー!」
宴会場のあちこちから賑やかな声が聞こえてくる。
あんな出来事があった為、卒業後は何となくみんなで会う事を避けていたが、当時のクラス委員長だった綾乃が同窓会を開く事を提案してくれた。
綾乃から連絡が来た時には驚いた。
「もう私達も22才になるし、大学組ももうすぐ社会人になっちゃうでしょ?その前にみんなで1度会っておかない?・・・そのさ、もしかしたら、友也君も・・・現れるかもしれないしさ、なんてね・・・」
電話越しに綾乃が冗談めかした口調で喋る。
綾乃自身あり得ないと思いつつ話しているのが分かったけど、余計な事は言わずに僕は「・・・そうだね」とだけ答えた。
みんなも複雑な思いながら、「もしかしたら・・・」という望みに縋りたいのか、意外にも欠席者誰もいなかった。
・・・友也を除いて。
「・・・やっぱり、来るはずないよね」
分かっていたことだろうに、少し悲しげに綾乃が言う。
「・・・うん」
僕も俯きながら答える。
「本当、何処行っちゃったのかな?・・・友也君」
綾乃がこれまで幾度となくみんなで話し合ってきた事を、今度は誰に言うでもなく呟く。
その時だった。僕等の後ろから怒鳴る声が聞こえて来る。
「おいっ!せっかくの同窓会なんだから酒が不味くなるような話はやめろ!」
豊だった。
豊はいかにも気分を害したという顔で睨みつけてくる。
「何よ、友也君の事話すのが悪いっていうの!?」
驚いた事に綾乃は豊のねめつけにも負けず、言い返すした。
予想外だったのか、その事に多少たじろぎながらも豊は怒鳴った。
「当たりめぇだろ!あんな俺への当てつけみたく勝手にいなくなって、みんなに迷惑かけ続けてる奴の事なんか話してんじゃねえよ!」
少し酔っているのか、ただでさえ悪い目つきが更に鋭くなっている。
「誰のせいだと思ってんのよ」
「ああ!?みんなのせいだろ?お前等だってわかってんだろが」
「っ、それは、そうだけど・・・」
「ねえ!もうやめようよ、その話は終わり!ねっ?」
この場の空気が不穏になり始めたのを悟った女子達が間に入って、その場を何とか収めてくれた。
だけども1度険悪になってしまった空気はいかんともしがたく、結局あまり盛り上がらないまま夜の9時頃にはお開きとなった。
「ったく!ああ!下らねぇ!来なきゃ良かったぜ!」
吐き捨てるように豊が怒鳴りながら会場の外へ出て、歩き出した瞬間だった。
突然、ドシンッ!!!という轟音と共に豊の体は頭から砕け散ってその場にくずおれた!
何が起きたのか理解できないまま、あちこちから暗闇を引き裂くような悲鳴があがる。
仄かな月明かりに照らされた豊の亡骸の上に、たった今空から落ちて来た何かが蠢いている。
それはゆっくりと起き上がると、驚きのあまり身じろぎ1つせずに凝視している僕等の方を振り向いた。
・・・その何者かは子供の姿をしていた。
顔は見えなかったが、どこか見覚えのあるフォルムだった。
その子供はニタリと笑うとこう言った。
「・・・だから言ったんだ、『イジメは良くないよ?』って、ね、豊君・・・」
心なしか、ひどく懐かしい声を聞いた気がした・・・。
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