If マッチ売りの少女~サラマンダーと魔法のランプ!?~

月夜野 星夜

If マッチ売りの少女~サラマンダーと魔法のランプ!?~

 昔々、ある国のある街にマッチ売りの少女がおりました・・・。


 ・・・ふと気が付いたら、私はマッチ売りの少女になっていた。足下から自分の体を眺めてみるが、まごうことなくマッチ売りの少女らしい服装で、おまけに手にはマッチをちゃんと持っている。


 これは困った・・・。このままでは私はマッチ売りの少女として死んでしまう。


 とりあえず、何か妙案がないかと必死に考えてみる。


 商品を売るにはアイディアが大事だ。出来れば看板娘みたいな綺麗な子も欲しい・・・。


 そこまで考えて、「あっ!」と思わず声に出してしまうほどのグッド・アイディアを思い付いた!


 童話の通りであるなら、確かこのマッチには不思議な力があったはず。


 私はマッチを一本取り出すと、『可愛らしい看板娘』を頭に思い描きながら、シュッ!とマッチを擦った。


 すると、まさしく童話に出てきそうな金髪碧眼の美少女がボフンッ!と目の前に現れた。


 「おおっ!」


 私は自分のアイディアが間違っていなかった事に感激した。


 目の前の美少女は、はにかみながら私を見つめている。さっそく私は彼女にマッチ売りを頼む事にした。


 「ええと、あのさ・・・」


 「はい・・・?」


 「悪いんだけど、私の代わりにこのマッチを・・・」


 そう言いかけた時だった。突然目の前の美少女は、フッ・・・、と煙の様に消えてしまった。


 「えっ!?」


 あまりに突然の出来事でしばし呆然としてしまったが、何の事はない。


 よく見ると、手に持っていたマッチが燃え尽きてしまっていた。


 「・・・そうか、マッチが消えちゃったら、魔法も消えちゃうんだっけ」


 うっかりしていた。しかし、そういった制約があるとなると、よく考えて使わないといけなくなってくるなあ・・・。


 私は再び考えた。


 「うーん・・・、あっ、これならどうだろう!」


 私はもう1度マッチを取り出すと、今度は『ランプ』を思い浮かべる。それもただのランプなんかじゃない。『決して魔法の火が消えない魔法のランプ』だ。強く深くイメージを思い浮かべながら、シュッ!とマッチを擦る。


 ボフンッ!と目の前に金色のランプが現れた。一見したところ何の変哲もないランプだけど、これでもう魔法の火が消える事はないはず・・・。


 私は恐る恐るそのランプにマッチの火を移す。


 ポワッとランプに魔法の火が灯る。


 本当に火が消えないかどうか、試しに息を吹きかけてみたり、思いっ切り振り回してみたりしたが、火はユラユラと揺らめくだけで、ちっとも消える気配はない。


 「よしよし」


 この結果に満足した私は再びマッチを擦って、さっきの美少女を呼び出した。


 消えない美少女(アリスと名付けた)と共に、今度こそマッチを売る為に街へと繰り出す。


 「マッチは如何ですかー!」


 「一時の夢が見られる、魔法のマッチですよー!」


 私達の呼び声に、街の人達が集まり始める。


 「夢が見られるマッチだって?」


 「ええ!このマッチは魔法のマッチなんです。燃え尽きてしまうまでの、ほんの一時の間ではありますがどんな夢でも見る事が出来ます」


 アリスが一生懸命、帽子をかぶった紳士に説明している。


 「本当かね?」


 「本当ですとも!試しに一本擦ってみて下さい」


 そう言うとアリスはその紳士にマッチを一本手渡した。


 「どうぞ、あなたが見たい夢を思い描きながらマッチを擦って下さいね」


 マッチを手渡された紳士は、しばらくの間しげしげとマッチを見つめていたが、半信半疑ながらも試してみてくれる気になったらしく、目をつぶりながらアリスに尋ねる。


 「・・・何でもいいのかね?」


 「はい!」


 「それなら、先にあの世に行ってしまった妻に会いたいものだ・・・」


 そう呟くと、その紳士はマッチを擦った。


 シュッ!


 マッチを擦った瞬間、ボフンッ!と私達の目の前に美しい女性が現れた。


 その女性はフワフワと宙に浮きながら、紳士を愛おしそうに見つめている。


 「お、おおおっ!」


 驚きのあまり空中に手を差し出したまま固まってしまっている紳士の腕の中にその女性はバフッと飛び込み、二人は再会を懐かしむ様にギュウッ!と抱き締め合った。


 「あなた!」


 「お前・・・!」


 しばらくの間二人は涙ながら抱き締め合っていたが、やがてマッチが燃え尽きたらしく、その女性の姿は煙の様に消えてしまった。


 一部始終を目撃していた観衆から、どよめきと溜め息がもれたる。


 「・・・素晴らしい瞬間だった。・・・お嬢さん、そのマッチを一箱私に売ってもらえるかね」


 「はいっ!喜んで」


 「「ありがとうございましたー!」」


 マッチを買ってくれた紳士をアリスと二人で見送ると、周りにいた人々が私達にドッと押し寄せて来た。


 「わっ!?」


 「そのマッチを一箱くれ!」


 「俺にもだ!」


 「私も一つもらうわ!」


 「うわわわわっ!」


 「みなさーん、マッチは沢山ありますから!順番に、押さないでー!」


 ・・・30分後。


 「いやー!大盛況だったね!」


 「はいっ!」


 私は空になったマッチ箱入れの中を見ながら、満足感に浸っていた。


 「まだまだ夕方までには時間がありますし、場所を変えてもう一稼ぎしませんか?」


 アリスの提案に私も頷く。


 「いいかもね!それじゃあ、ちょっとマッチ箱補充してくるわ。ここで待っててくれる?」


 「はい、待っています。気を付けて行って来て下さいね」


 「うん、行って来まーす!」


 手をヒラヒラと振りながら歩き出した時だった。


 「・・・ん?」


 何だか通りの向こうが騒がしい・・・。


 何となーく嫌な予感がしたその瞬間、通りに並んだ家々の屋根の上に翼を持ったドラゴンが現れた!


 「なっ!?」


 で、でかい!しかもよく見ると、そのドラゴンは燃えるような真っ赤な姿をしている。体に負けない位の真っ赤なルビーの瞳をギラつかせ、口からは燃え盛る炎を吐き出している。


 「な、なななななー!何、あれー!?」


 「サラマンダーだー!!」


 私の問いかけに答えるかのように、街の人々が口々に叫びながら逃げ出してくる。


 「サッ、サラマンダー!?」


 あれが・・・。全てを焼き尽くすという炎のドラゴン。


 呆然と見上げている私の脳裏に、さっきマッチを買って行った一組の親子の姿が蘇る。


 小さな男の子を連れた母親が、男の子のおねだりに根負けして一箱買って行ったのだ。


 私はその親子の会話を必死に思い出してみる。


 確か・・・。


 「やったー!」


 「危ないから、お母さんがいるところでしか擦っちゃダメよ」


 「うんうん、大丈夫だよ!僕ね、一度でいいからドラゴンを見てみたかったんだ!」


 「はいはい、あまり危ない事しちゃダメよ。小さいドラゴンにしてちょうだいね」


 「うん!わーい!」


 「ああっ、ちょっと待ちなさい!」


 ・・・そうだ。そんな会話を交わしながら、その親子は通りの向こうに消えて行ったのだった。


 「ま、まさか・・・、あの子が言ってたドラゴンて、サラマンダーの事だったのー!?」


 「ど、どうしましょう!」


 アリスもオロオロしている。


 「だっ、大丈夫よ!マッチが燃え尽きたらサラマンダーだって消えるはず・・・」


 自分に言い聞かせるかの様に声を裏返しながらも言ったその台詞が終わらない内に、後ろでゴオォォー!という音が響き渡った。と、同時にあちこちから悲鳴が湧き上がる。


 「ふえっ!?」


 驚いて振り返ると、サラマンダーが地獄の業火を吐き散らしながら、街を焼き尽くしている姿が目に飛び込んで来た。


 「「きゃあああっー!!!」」


 パニックに陥りつつも、私はアリスと自分を守る為に慌ててマッチを擦った・・・!


 ・・・数時間後、バリアによって守られたアリスと私以外には人っ子一人いなくなった、廃墟と化した街を目の前にして私達は呆然と立ち尽くしていた。


 咄嗟の判断だった為、街の人々まで守る余裕はなかった・・・。


 私達の足もとには、魔法のランプがいまだに魔法の火を燃やし続けながら虚しく転がっている。


 「ど、どうしましょう・・・、私達・・・、何て事を・・・」


 「あはっ、あはははは・・・」


 直接的には私達のせいではないが、責任を感じてアリスは涙目になっている。


 まさかこんな事になるなんて・・・。アリスにはとても言えないが、街一つどころか国一つなくなっている可能性大だ。困った・・・。どうしたらいいんだろう・・・。


 「あっ!」


 その瞬間、私に名案が閃いた!


 「もしかしたら・・・!」


 「ど、どうしたんですか、いきなり・・・」


 私の推測が正しければ、魔法のランプに魔法の火を追加出来るはず・・・!


 訝るアリスをしり目に、私はついさっきまで私達がマッチを売っていた街を思い浮かべながら、マッチを擦った・・・!






 ・・・昔々、あるところに二人の女王様が治める国がありました。その女王様達の暮らすお城には、決して消える事のない魔法の火が灯ったランプが大切に保管されていました。


 そのランプの炎は今でも国を守る様に、赤々と燃え続けているそうです。


 めでたし、めでたし・・・(?)






























 

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