幻想自衛隊 ~我々は何を守るべきか~

メガネ2033

第8話 フランドール スカーレット

2023年8月16日am10:30 紅魔館 庭 (山本一曹視点)


状況からして壊れた扉の前に立っていた少女が〝フランドール スカーレット〟なのだろう。

だが直前に聞いた危険な能力故か誰一人として近づこうとはしない。否、不用意に近づけば危険だと言う信号が本能に働きかけているのだ


「ねぇねぇお姉様、楽しそうなことやってるね…私も混ぜてよ」


フランは少し俯いているのかその表情を伺うことはできなかったが、明らかに普通の状態でないのは直ぐにわかった


「フラン、おとなしく部屋に戻りなさい」


レミリアさんが静かに、だが反論は許さないという断固とした意志を込めて彼女の意思を拒絶した。


「やだよ、お姉様はそうやっていつも私だけ仲間はずれにする…もうたくさんだよ、お姉様…ナニシテアソブ?」


だが、それがいけなかったのかもしれない。レミリアさんの命令はフランの中で微かに保たれていた均衡を崩し彼女が狂気に飲み込まれるのには充分すぎたのだ


「仕方ない…パチェ、フランを水で囲って!」


レミリアの的確な指示に即座にパチュリーが反応する。恐らく水が弱点なのだろう。確かに思い返せば昔読んだ吸血鬼伝説の中に十字架やら日光やらに併せて流水が苦手だと記されていた気もする


それにしても自身の妹が正気でなくなったとはいえ、この対応はあまりにも必死すぎやしないか?


「任せて、水符『ペリーインレイク』」


パチュリーがそう叫んだ瞬間、フランの暴走によって舞い上がった砂ぼこりを吸ったとみえて激しく咳き込んだ


「パチェ何やってんのよ!!早く囲わないとフランがぁ」


「あのね、レミィ…人には急げることと急げないことが…あるのよ」


パチュリーは会話の途中でも咳き込んでおり流石に苦しそうだった。

恐らく喘息持ちなのだろう


このわずかな隙をフランは見逃さなかった

今がチャンスと言わんばかりに咳き込んでうずくまっていたパチュリーに向かって彼女は無数のカラフルな弾幕を放った


パチュリーもただ座して被弾するのを待っていたわけではなく、咳を無理やり抑え込み迫りくる弾幕を回避しようと試みたものの、圧倒的な物量で押しつぶしにかかるフランの弾幕を回避しきれずに被弾し沈黙してしまう


「仕方ない、フランの相手は私がするわ。咲夜、一刻も早く外来人を退避させなさい」


水を使った封印に失敗した為かレミリアの顔に焦りが浮かぶ


「お嬢様、私も加勢します」


「咲夜これは命令よ。だいたい外来人がフランの弾幕で死んだりしたら紫に何させるかわかったもんじゃないわ」


「わかりました……皆さん私から離れないようについてきてください」


「いえ、こちらは大丈夫ですから彼女の制圧を優先してください」


「しかし…」


「我々が持っているのは殺傷兵器ですから。正当防衛で彼女を攻撃することになったとしても無傷で無力化することは極めて難しいです。暴走してるとはいえ射殺したくはないのです」


三尉の言うことは至極真っ当だ。下手に俺達が加勢しては無駄な血が流れることになりかねない。俺達が国民から預けられたこの銃は国家の主権を守るためにあるのであって姉妹喧嘩の仲裁に使う為では断じてない


「わかりました。お心遣い感謝します」


咲夜はこちらに一礼すると直後に姿を消した。おおかた時間を止めてレミリアの加勢に向かったのだろう


「SITの皆さんは装甲車まで退避して下さい。我々が殿を務め撤退を支援します。それと松本、お前確か救命講習を受けてたな。パチュリーさんを装甲車まで運んで応急処置しろ」


「了解しました」


「各員、松本二曹を援護せよ。尚、発砲に関しては適切と思われる場合において許可するが、全責任は俺がとる。状況開始」


「「「応!!」」」


「フラン、どこからでもかかってきなさい」


「ヤット アソンデクレル、オネエサマハ イツマデモツカナ?」


「いくわよ、神槍『スピア・ザ・グングニル』」


「禁忌『レヴァーテイン』」


二人がこの呪文のようなものを唱えると、フランは炎に包まれた剣、レミリアは紫色に輝く槍が現れお互い相手に向け臨戦態勢に突入する


パチュリーを救出するため松本二曹が走り出したのと、レミリアのグングニルがフランに一撃を下さんと振り下ろされたのはほぼ同時だった。


戦いは苛烈を極めたが、そのおかげで松本二曹によるパチュリーの救出は銃を使うこともなく順調に推移した。

だが、膠着状態は長くは続かなかった。松本二曹がパチュリーを抱え装甲車に向かう途中、グングニルを振った後にできた一瞬の隙にフランが弾幕を撃ち込みレミリアを吹き飛ばしたのだ


レミリアはそのまま体勢を立て直すことができず紅魔館の壁に激突し再び起き上がることは無かった。あの勢いでは死んではいないだろうが戦闘不能は免れまい。もしかしたら気絶しているのかもしれないが、どちらにせよ形勢不利になった事は確かである


レミリアを助けるために突撃した咲夜も『時間停止』を駆使して戦ってはいるがあの様子では長くはもたないだろう


「三尉、どうしますか?」


「すぐにでも撤退したい所だが今焦って退けば総崩れだ。SITの撤退が完了するまで待て」


後ろを見れば咲夜が対空砲火に迫るような圧倒的な弾幕に叩き落されているところだった


「くっそ、でかい口叩いてたわりには全滅してるじゃねぇか」


「どうします、木島三尉」


「どうするもこうするもねぇよ、撤退だ。最早、機をうかがう余裕はない!」


しかし、フランが目の前に作った大穴を見て事態が変わった


「畜生、撤退は無理だ!応戦するぞ!!あの穴に入れ!」


全員が大穴の塹壕に入り点呼をとった時、俺は気づいてしまった


「三尉、咲夜さんやレミリアさんはどうするんです?」


「確かにあのままじゃ危険だ。咲夜さんだけでも保護する」


「この火力の中に突っ込むんですか!?」


自衛官として危険地帯に民間人を放置することはできないのだから三尉の判断は正しい。だが、理性ではそう分かっていても感情では別だ。あんな弾幕の中を突っ切って救助なんて無理だ


「仕方ないだろ。見殺しにはできん」


「そんな無茶な…」


「だが、誰かがこれを遂げねばならん。支援はしてやる、いけるか?」


上官にここまで言われて無理などといえるはずない。それに時間と共にチャンスは少なくなっていくばかりだ


「了解しました」


「合図をだしたら行けよ。いいな」


「わかりました。いつでもどうぞ」


「よし、これより自衛隊法第95条を根拠法規とし緊急避難として射撃を行う。10時の目標、吸血鬼、単連射、指名…撃てぇ!」







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