魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第25話 奈落の底


「……うぅ……」

 ……痛い。
 身体のあちこちが痛む。

 あれからどれだけ落ちたかなんて分からない。
 しかし、俺は生きていた。
 運がいいのか。
 それともあの少女の魔術か。

「……っくそ」

 何はともあれ、このままではマズい。
 俺は立ち上がった。

 ズタボロの服にボロボロの体。
 杖は無くした。
 ランプは割れている。
 持っているものといえば、ゴブリン共の魔石を入れた袋だけ。

「はは……最悪だな」

 ランプも使えないから、辺りは暗い。
 目の前もわからない程だ。
 だから俺は近くの壁に手を当て、壁伝いに進む。

 しかし、一歩一歩と歩く度に身体が痛む。
 今すぐ横になりたい。
 だからこそ歩く事に集中しないと。

「はぁ……はぁ……」

 俺は手掛かりも無いまま、延々と歩き続けた。
 でも、どれだけ歩けど歩けど何もない。
 ダンジョンなんだから何かあってもいだろうに……。

「……ィィ」

 何かが聞こえた。
 おそらくはモンスターの鳴き声。
 何かとは言ったけど、モンスターは求めてない。
 今戦っても、十中八九勝てない。
 俺はその場で丸くなり、音を立てないようにした。

「……」

 しばらくすれば、その声の主はどこかへと過ぎ去っていった。
 ……でも、もう立ち上がる気力がない。
 俺は丸まった体勢のまま、聞こえてくる音をただただ呆然と聞いていた。

 その後も数多の音が近づいては離れていく。
 中には地面を揺らすような大きな足音さえある。
 それらに気付かれないように音を立てたくないが――

 ぐぅ……。

 腹が鳴った。
 辺りにモンスターはいないだろうから聞こえてはいないと思う。
 だけど空腹なのに変わりはない。

「何か……食べなきゃ死ぬな」

 しかし持っているのは魔石だけ。
 流石に……食べられそうにないな。

 モンスターの肉でも食うか?
 しかし、この階層のモンスターを倒せるか?

 どこまで落ちたかは分からない。
 しかし、おそらくは誰も到達さえしていない領域。
 助けは来ないだろう。
 なら何かを食べなきゃいけない。

「……魔石っていうのは、モンスターの生命力なんだよな」

 もしかしたら、これを食べれば生きていけるか?
 しかし、ゴブリンのものとは言え、その魔石は小石ほどの大きさはある。

「……なら」

 カンッ。

 軽く地面に魔石を打ち付けてみた。
 でも壊れる気配はない。

 仕方ない。
 このまま食べるしかない。
 俺は魔石の一つを口に放り込んだ。

「……んっ、んっ!」

 魔石のトゲがのどを痛める。
 その大きさでのどが圧迫される。

 しかし、俺はその魔石を腹へと収めた。
 すると、

「……っ! これは……」

 自然と力が湧いてくる。
 これなら……まだ歩ける!

 魔石を食べた人間なんて前代未聞だし、味や喉越しは最悪だ。
 しかし、それで命が繋げるなら安いもんだ。

 俺は再度立ち上がり、何かを探して歩き始めた。
 先程よりも足は軽い。
 魔石を食べれば食べる程、感覚は楽になっていく。

 俺はカインの血で覚醒したし、強くなったけど……もしかして魔石でもいけるのかもな。
 でも魔族の血に比べたら大したことは無い。
 その力を微かにしか実感できないからだ。

 しかし、どれ程歩け……

「……ッ!」

 考えていたら、何かと目が合った。
 いや、正確には目のようなものと、目が合った。

 曲がり角のすぐ側。
 そこにいるのはドラゴンほどの大きさを持つ、巨大なミスリルの塊。
 同じくミスリルで巨大な手足が作られ、顔と思わしき四角い部位から赤い光を放つ。

 これが何かは分かる。
 ゴーレムだ。
 それも最上級の――

「っくそ!!」

 俺は走り出した。
 当たり前だ。
 あんなのに勝てるわけない。

 しかし、逃げ切れるかもわからない。
 だがただ闇雲に走った。

「はぁはぁ! はぁはぁ!」

 それから数分間、後ろを一切振り返らずにただただ走った。
 恐怖からか不思議と疲れは無く、生への渇望だけが俺の両足を動かしていた。

 そして再び足を止めた時。
 どれ程走ったかは分からないが、背後にゴーレムがいないのを確認して、胸をなでおろした。

「はぁ……はぁ……」

 もう嫌だ。
 帰りたい。

 俺は腰を下ろした。
 そして壁に背を預けようとした瞬間――

 俺はその場に倒れ込んだ。

「……え?」

 少し驚いてから気が付いた。
 俺が背を預けたのは壁では無く、扉だった。

「っしょっと」

 不思議に思った俺は立ち上がり、中の様子を見てみた。

「ここは……?」

 何故か部屋の中には、ほんの僅かに光が灯っている。
 魔石を用いた恒久的な明かりだろう。
 しかし、それによって部屋の中の様子はよくわかる。
 大量の本棚に収められた本と、テーブルに幾つも置かれた何かの実験器具。
 よく見てみれば、服や食器といった生活用品も存在する。
 ……おそらくこのダンジョンの主だった者の部屋だろう。

「何か脱出の手掛かりになるものがあればいいけど……」

 まず俺は中央の机に広げられて置かれている本に手を伸ばす。
 そしてそれを軽く読んでみる。

 ――――――――――

 この文章は、俺が帰れなかった時の為に残しています。

 とりあえず、ここまで来てくれてありがとう。
 そしてこの文章を読んでいるって事は、俺は帰れなかったのでしょう。
 それは俺にとっても残念な事だけど、あなたが悲しい顔をする方が俺にとっては残念です。
 どうか俺の事は忘れてください。

 ――――――――――

「……なんだ、これ? 日記か?」

 本に対して首を傾げていると――

 突如、足元が光り出した。

「!? 何なんだよさっきから!?」

 その光は俺を中心に、地面に赤い魔方陣を描き出す。
 更に光は俺の身体をも包み込み、身体に浮遊感を与えていく。
 そして、ついには目の前さえ赤一色に染まる。

「……っ!」

 俺はこの魔方陣について、見覚えがあった。
 昔読んだ古代魔術の本に乗っていたはずだ。
 これは、おそらく――

 ――転移陣!

 そう思う頃には俺の身体は違う場所にいた。

 こうして、俺の長い一年が始まった――

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