魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第16話 怪しい男


「うぅ……」

 俺が目覚めたのは柔らかいベッドの上。
 しかも見覚えがある。
 ここは……医務室だ。

「起きたかの?」

 声をかけてくれたのは緑の髪を伸ばし翡翠の瞳を輝かせる少女。
 ハイトウッド先生だ。

「なんで先生が? オリヴィアや三つ編みのあの子は?」
「もう遅いし帰らせたのじゃ。そろそろ学院も閉まるし、お主も早く帰るのじゃ」
「はい、ありがとうございました」

 俺はベッドから降りて医務室から出て行こうとする。
 そして扉に手を触れた時、

「アベル、忘れておるぞ」

 ハイトウッド先生が一冊の本を突き出す。

 その本は俺が図書館に向かった理由。
 学院ダンジョンについての本だ。

「すいません完全に忘れてましたね、はは」

 俺はその本を受け取り、次はきちんと医務室から出た。
 そしてそのまま校舎から出て、

「ありがとうございました」

 ハイトウッド先生に一礼して、暗い夜道の中を家へと帰り始めた。

 にしても今日は辛かったり、楽しかったりの繰り返しだったな。
 でも結果的には眼福と言えるし、すごく良い一日だったと思う。
 そして今日分かった、どうでもいいかもしれない二つの事がある。

 一つはあの三つ編みの少女について。
 ……彼女は着やせするタイプだ。
 制服の魔術衣装の中にかなりのものを秘めている。

 もう一つはオリヴィアの事だ。
 オリヴィアの引き締まった太ももの上にあるスカートの中の桃源郷。
 その色は――

「ん? 誰だ、あいつ」

 考え事をしながら帰っていると、俺の家の前に誰かが立っているのが見える。

 暗い中、目を凝らしてみてみれば、それはどうやら背が低めの小太りの男のようだ。
 その黒い髪はおかっぱにしており、顔付きもどこか下品だ。
 そして何故か服装は青い魔術衣装――こいつはバルザール魔術学院の生徒なのか。

 ……しかし何で俺の家の目の前に立っているんだ?

「あのー、何をしているんですか?」

 俺は気になるので話しかけてみた。

「んん!? お、お前は誰だ!?」

 男はあからさまに慌てふためく。
 先程までのオリヴィアや三つ編みの少女の可愛い慌て方と比べて、落差がひどい。

「俺はここに住んでる者なんだけど」
「なにっ! ここに住んでるのはカレンちゃんだぞ、嘘をつくな!」

 何故か怒られた。

「いや、俺はカレンの兄なんだけど……」
「……ほ、本当なのか?」
「本当だよ」
「あんなに可愛いカレンちゃんの兄なのに……何だかぱっとしない奴だな」

 ……む。
 ちょっとイラっとするな。
 でもここは我慢だ我慢。

「本当に兄だよ。で、俺とカレンの家に何の用なんだ?」

 俺は少しきつめに言ってやった。

「し、知るか! た、たまたま通りがかっただけだ!」

 男はそう言い残し、足早にその場を離れて行く。
 ……明らかに怪しい奴だな。

「おい、ちょっと待――」
「お兄様?」

 俺が呼び止めようとした瞬間、家の扉が開かれ、カレンがひょこっと顔を出した。

「あぁ、カレン」
「どうかなさったのですか? 何やら口論をしていたように思われましたけど……」
「それが家の前に……あっ!」

 ……逃げられた。
 眼に入る範囲に先程の男はいない。
 もう時間も遅いく暗いし、今から探してもそうそうに見つからないだろう。
 くそ……仕方ないな。

「気にしないで、カレン。それより早く夕食にしよ」
「はいっ! ちょうど作り終えた所なんです、冷めないうちに食べてください」

 俺はカレンの笑顔に引っ張られるように家の中へと入った。
 その際に、もう一度だけ振り返ってみたけど、やっぱりあの男はいなかった。
 ……なんだか、嫌な予感がするな。

 しかし何を考えようと腹は減っている。
 俺は大人しくリビングに行って、カレンとの夕食と談笑を楽しんだ。
 もちろんカレンにオリヴィアや三つ編みの子との、少しエッチな出来事は黙っておいた。

 その後バイトに向かい、働いたのち家に帰った俺は疲れ果てながらお風呂に入った。
 風呂から出れば着替え、歯を磨き、俺は自分の寝室へと入った。

「……よいしょっと」

 身体も疲れているし、心は……すごく元気だけど、まぁ眠いので俺はベッドの中へともぐりこんだ。
 そしてベッドの中で一冊の本を開く。

 それは図書館で借りる予定だった本。
 学院ダンジョンについての本だ。
 俺はそれをまどろみながらもきちんと読み通した。

 ――――――――――

 学院ダンジョン――
 それは悠久の昔、今より500年程前に3人の賢者が、当時まだ栄えていなかった王都グヴィデンラントに作ったダンジョンだ。

 (この本が書かれたのは今から100年前だから……正確には600年前の事だな)

 彼等は地下にこもり、何の目的かダンジョンで研究にふけっていたという。
 そして時は流れ、魔族との戦いが激化し、ダンジョンや賢者達の存在は長らく忘れ去られていた。

 しかし一説には聖杖の勇者が再び学院ダンジョンに訪れ、何の目的かその地下で研究にふけっていたという。
 だが聖杖の勇者は、正史では魔族の生き残りとの戦いの結果死んだとされている。
 学院ダンジョンにこもったという情報は嘘と考えるべきだろう。

 ……確かめようににも学院ダンジョンの攻略は難しい。
 特に4階層以降、あれはおよそ人間が踏破し得る難易度ではない。
 後世にて高名な魔術師が踏破し、聖杖の勇者の手掛かりが得られることを願う。

 ――――――――――

 ざっと要約するとこんな所か。
 特にモンスターの情報については書いてなかったし、それ程有益な情報があったわけでは無いな。
 ま、いいか。
 ……今日はもう寝よう。

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