魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~
第6話 果たし状
「お兄様。起きてください、お兄様」
ん~~眠い。
正直まだ寝ていたい。
今日くらいは神様も許してくれるさ……。
でも俺は神を許さない!
……なんちゃって。
朝だからか、きちんと頭が働いていない。
でも俺はねぼけた眼を擦りながら、ベットから起き上がった。
「早く着替えて、ご飯を食べてくださいね」
そう言って部屋から出ていくカレンを確認して、俺は着替え始めた。
「ふぁ~ねむー」
なんか大事な夢を見てた気がするな……。
どんな夢だったっけ?
うーん、思い出せないな。
ま、いいか。
俺はすぐに着替えをすまし、リビングへと向かった。
「改めておはよう、カレン」
「はい。おはようございますお兄様」
既に席に座っているカレンに挨拶して、俺も席に座る。
カレンが座っている事からも予測出来ていたが、リビングの机の上にはもう今日の朝食が並べてある。
「遅れてごめんね」
「いえお兄様の為でしたら、いくらでも待ちますよ」
カレンは上品に微笑む。
朝からこうして可愛い妹が美味しい朝食を作ってくれるなんて――俺は幸せ者だな。
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
「いただきます」
俺達は手を合わせて、朝食を食べ始めた。
「そういえば明日は金曜日だから、カレンは初めての魔術戦があるんじゃないの?」
朝食を食べながら話題を振る。
明日は金曜日、1年生にとって初めての魔術戦の日だ。
そういえば俺は、そこでボコボコにされたっけな。
確か相手は――
「そうですね。今から不安で一杯です」
カレンの言葉に考えるのを辞め、会話に集中する。
「大丈夫さ。カレンは強い、それは俺が保証する。むしろ相手がかわいそうだね」
「お兄様にそう言って頂けると、私も嬉しいです」
「でも、怪我だけはしないでね。明日の事だけど、はは」
「はいっ」
もしかしたら今日怪我をするかもしれない俺がよく言えたな。
カレンのことを心配するのも大事だけど自分のことも大切だ。
昨日の今日とで何も無ければいいけど……。
「じゃあ、準備したら行こうか」
朝食を食べ終えた俺は席から立ち上がる。
……学院に行くか。
◇◇◇
だがフラグ通りには行かなかった。
カインは学校に来てなかったのだ。
それどころかヴェヘイルも来ていない。
取り巻きは……いるようだ。
今日は木曜日。
明日の魔術戦に向けて休む、という人はいる。
でもヴェヘイルやカインがそんなことをするか?
……まぁヴェヘイルは日頃からサボってるし、カインも一緒になってサボっただけか。
しかし、ヴェヘイルがいないからか誰も馬鹿にしてこない。
それとも昨日のアレが伝わっているのか?
どちらにせよ彼らはリーダーがいなければ行動を起こせないような人間達だろう。
馬鹿にしている訳じゃない。
それが正しい生き方だからだ。
強い人に従って生きていく――
弱い人間はそうしないと、俺みたいになるだけだ。
だから彼らは悪くない。
まぁ本当に強い人間ってのは、それを真正面から否定できる人間なんだろうけど……
俺はため息をつきながら席に着いた。
「お、おはよう……」
横から声をかけられる。
長く、燃える様な赤い髪――オリヴィアさんだ。
何故か様子はよそよそしい、っていうかどこか気恥ずかしそうだ。
こんな人だったっけ?
昨日は色々あったけど、元々は違ったような……。
「おはようオリヴィアさん」
とりあえず挨拶を返した。
「……オリヴィアでいいよ」
「いや俺がそんな呼び方って、申し訳ないよ」
「そんなことないわよ……昨日も助けてくれたじゃん」
「あれはたまたまで……」
そう言おうとした瞬間――
机から一枚の紙が落ちた。
ん?昨日なんか忘れて帰ったっけ?
俺もドジだな。
ってか何の紙なんだ?
手を伸ばし、紙を拾おうとした瞬間――俺は凍り付いた。
「……ッ!! これは、魔術戦の申し込み用紙!!」
そう、何故か俺の机に魔術戦の申し込み用紙が入っていたのだ。
カインの名と共に――
「これって、どういう……」
「……昨日のアレじゃない?」
もしかして昨日のアレを根に持ってこんな事をしたのか。
しかし……どうして魔術戦の必要があるんだ?
俺を痛めつけたいなら魔術戦以外ですればいいし、何より最下位の俺と戦った所で上がる順位なんて、たかが知れてる。
「ちょっと貸してくれる、アベル君」
オリヴィアさんに半ば無理矢理、用紙を取られる。
もう先程のしおらしさは欠片も無い。
やっぱこういう性格の人だったよね。
すごく可愛いな、と思った自分がなんだが恥ずかしい……。
いや、別にオリヴィアさんが可愛くないとかそういうことじゃないよ!
むしろ他の人に比べて圧倒的に可愛い方だと思うし……
「もしかすると、これは……」
オリヴィアさんはすごく真面目に用紙を見つめている。
下らないことを考えてた自分が情けない……。
「『解除(ディスペル)』」
そう詠唱すると、オリヴィアさんの人差し指の指先に光が纏われる。
……『解除』か。
物や武器に付与された魔術を解除する魔術だ。
知らない訳じゃないが、使用者の少ない珍しい魔術の一つだ。
魔術自体はそれ程難しいものじゃないが、何の魔術が付与されているかは知らないと解除出来ないから、知っているだけでは意味がない。
そのせいか、今では使う人なんてほとんどいない。
しかし……オリヴィアさんはよく知ってるな。
多分オリヴィアさんは、座学の成績も良いのだろうな。
「この魔術には確か……こうね!」
オリヴィアさんは用紙の上に、紋章を描くように指を滑らせた。
すると徐々に文字が浮かび上がってきた。
そこには――
――――――――――
【序文】
これは魔術的誓約であり、何人も犯しがたいものである。
犯した際には、その者の身を3年間奴隷身分へと落とす。
【第一項】
この戦いに敗れた際、アベル・マミヤはバルザール魔術学院を退学となる。
なおその際、再入学は不可能とする。
【第二項】
カイン・エギエンが敗れた場合の誓約は求めない事とする。
以上の二項をここに誓う。
――――――――――
と書かれていた……。
「……こ、これは!? 誓約!?」
誓約とは主に魔術師同士が結ぶ絶対不可侵の約束事である。
この文には魔力が宿り、もし俺が負ければ必ず退学になるだろう。
サインをしていたら、の話だが。
だが俺には衝撃がでかい。
神になる為にも俺は首席で合格しなくちゃいけない。
なのに、もしここでサインをして、もし負けていたら……?
「……ええ、そうみたいね。サインをする前で本当に助かったわ」
「この為に魔術戦を誘ってきたのか……それもこういう形で」
確かに最下位の俺なら順位を上げるために戦いを承諾するかもしれない。
しかし口約束だと誓約がバレてしまうから、
こうして紙に隠蔽したのだろう。
……正直、気にくわないな。
「魔族の『文字隠蔽(ハイドカバー)』……やり方がいやらしいわね」
「そうだね……でもなんでオリヴィアさんはそんなことを知っているの?」
正直言ってこの隠蔽は高度過ぎる、文字を隠す隠蔽魔術なんて聞いたことない。
うーん……それが魔族の魔術だ、って言われれば納得できるけど、それを何でカインが使えてるのかも気になる。
そして、それを何故オリヴィアさんがこれを見抜けたのか……。
「い、いや! たまたまよ! たまたま本で読んだことがあっただけよ!」
「そうだったんだ。『解除(ディスペル)』もそうだけど、オリヴィアさんは物知りだね」
「ま、まぁ、勉強して来たからね!」
失礼かもしれないけど……こうやって慌てているオリヴィアさんの方が可愛いな。
いつも凛としててクールだからかな?
「っと、それより……ありがとうオリヴィアさん」
俺は思い出したかのように頭を下げた。
学院退学の危機を救ってくれたんだから当然だ。
「……っ! いいわよ、それくらい……」
「本っ当に感謝してるんだ。俺、まだこの学院にいなくちゃいけなくて、だから……」
「なら! そ、その……これから私の事、オリヴィアって呼んでくれない……?」
オリヴィアさんはスカートの裾を掴んで下を向いている。
もっと高い要求でもいいんだけど……。
でも、それくらいでいいなら――
「わかったよ、オリヴィア」
季節は4月中旬。
肌寒さの残る中、俺の最初の戦いは始まった――――
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