魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第2話 二日目

 
 チュンチュン。
 鳥の声で目が覚める。
 もう朝だ。
 そういえば昨日――
 ベッドを見てもカレンはいない。
 俺は着替えて、リビングへと向かった。

「おはようございます、お兄様」
「おはよう」

 カレンはキッチンで料理に勤しんでいた。

「そういえば、昨日……」
「な、なんのことですかっ!?」

 明らかに動揺している。
 この様子なら問い詰めない方がいいだろうな。

「いや、なんでもないよ。それより、今の俺の目どう?」

 キッチンのカレンは振り返り、端正な顔を俺に向けた。

「……赤いまま、ですね」
「そうか」

 別にそこまでショックではない。
 むしろかっこいいとまで思っている。
 でも両親とカレンとの繋がりが薄れた気がして、少し寂しい。

 寂しさを感じながらも、カレンが作ってくれた朝食を食べ、俺達は学院へと向かい始めた。

「お兄様、今日のお昼の事なんですけど」
「どうしたの……あっ、そういえばお弁当まだ鞄に入れてなかった!」
「いえ、それでしたら私がお兄様の分も持ってきてはいるんですが……」
「良かったぁ~。……お昼がどうかしたの?」
「お兄様、今日お弁当一緒に食べませんか?」
「うーん、構わないけど……」

 提案自体は嬉しいけど……。
 それでカレンが目をつけられたら嫌だな。
 どうしようか?
 そう考えていると……

「カレンちゃーん!」

 後ろから声をかけられた。

 振り返ってみると、青いショートヘアの子が駆け寄って来ている。
 背丈は低め、体の線も細い。
 輝く青い瞳からは、どこかエネルギーを感じる。

「おはようございます。アメリアさん」
「もう。同い年なんだし、"さん"なんてつけなくていいよ」
「そんな訳にはいきませんよ」

 活発なアメリアと呼ばれた少女に対し、カレンは上品に受け答えしている。

「ことろで、この人は?」

 アメリアは俺に視線を飛ばす。

「私のお兄様です」
「あっ! そうだったんですか! 私、アメリアっていいます。よろしくお願いします」

 そう言いアメリアは頭を下げた。
 カレンに初日から友達が出来ていたなんて、嬉しいな。

「こちらこそよろしくね」
「はいっ!」
「ところで、カレンは学校ではどうなの?」

 ここは是非兄として聞いておきたい。

「それはもう人気者ですよ! 男子たちなんて初日で話しかけづらいからって、ずーっとちらちら見てましたし」
「ちょ、ちょっとぉ……」

 アメリアは楽しそうに笑っている。
 カレンは顔を赤らめ恥ずかしそうだ。
 どっちに乗ろうか悩むな……。

「まぁカレンは可愛いしな!」

 俺はアメリアに乗った。

「そうですよね!」
「お、お兄様……」

 カレンは顔を真っ赤にして、俺の袖を掴む。

「カレンちゃんもお兄さんの前では可愛い所見せるんだね、にしし」
「茶化さないでくださいよっ」
「ごめんごめん。カレンちゃんが可愛くて、つい」

 楽しいと時間はすぐに過ぎてしまうのだろう。
 そうこう話して内に、校門はすぐ目の前だった。

「じゃあ、俺こっちだから。二人共頑張ってね」
「はい。では失礼します、お兄様」
「またお話ししましょうね先輩」

 俺は二人と別れ、校門を入って右手奥にある校舎へと向かう。

 他にも様々な建物が存在するが、基本的なバルザール魔術学院の校舎は4棟。
 教員達のいる中央本館と、それを囲うように建つ3棟の教室棟。
 教室棟は学年ごとに1棟となっていて、俺が向かったのは当然、2年の校舎だ。

 俺は2階へと上がり、2年4組の教室を開けた。

「よぉ~バカベル~。いい朝だなぁ~」

 朝からヴェヘイルに馬鹿にされる。

「どうしたんだぁ~その目。イメチェンか? ギャハハハ!!」
「……」

 無視して俺は自分の席に座った。
 すると、

「無視とか、バカベルの癖に生意気だな。今週俺と魔術戦でもするか?」

 ヴェヘイルの仲間が近寄って来た。

 その男は短い茶の髪に黒い瞳。
 更にガラの悪そうな目つきをしていて、隙があれば右手に着けた大量の腕輪の音をちゃらちゃらと鳴らす。
 こいつの名前はおそらく――カイン。

「やめとけよぉ~。最下位のバカベルと魔術戦しても意味ねぇぞぉ~。ギャハハハ!!」
「それもそうだな。ハハハハハ!!」

 魔術戦――
 それはこの学院での順位を決める試合のことだ。

 魔術戦が出来るのは、各週金曜日の一回だけ。
 そして魔術戦後は、倒した相手の順位を加味して、魔術戦管理委員会が順位を決める。
 相手の順位が高ければ一気に上がるし、逆に低ければ大して変わらない。
 俺の順位は――最下位。
 勝った所で意味は無い。

「……」
「そんな眼なのに根性無いのか? ほらほら、バカベル君がどうしても、っていうのならしてあげてもいいぞ」
「お前それぇ~ボコる言い訳だろぉ~。ギャハハハ!」
「ハハハハハ!」

 二人は大きな笑い声を上げる。
 それに釣られるかのように他の奴らも笑い出した。

 ……しかしまぁ、よくも朝からこんなに大声が出せるな。
 魔術師じゃなくて歌手にでもなった方がいいんじゃないか?
 俺が言葉に出来ない罵倒を心の中で呟いていると、嘲笑に包まれた教室の扉が――ガラガラ、と開かれた。

 そこにいたのは、今登校してきたであろう3人の女子生徒。
 真ん中に立っている子は昨日の赤髪の子だ。
 彼女はこの状況を見るなり――

「やめなよ皆!」

 また止めに入ってくれた。
 こうして躊躇いも無く俺を助けてくれるのは有難いが、

「うるせぇなぁ~」
「オリヴィア、お前俺より順位が上だからって調子に乗るなよ」

 ヴェヘイルとカインの機嫌は一気に悪くなった。

「調子に乗ってるのは二人の方でしょ。弱い者いじめは楽しい?」
「あぁ勿論楽しいぜ。でもお前をいじめられたらもっと楽しいかもな」
「なら、やってみる?」
「あァ? いつでもかかってこいや」

 オリヴィアと呼ばれた赤髪の子とカインは睨みあっている。
 ……まずいな。
 一触即発の雰囲気だ。
 なら――

「……あ、ごめん」

 突然、がしゃん――と俺の筆箱が落ちた。
 いや落としたのだ。

「ッチ。 覚えとけよ」

 白けてしまったのか、不満そうに二人は席へと戻って行く。
 作戦は成功だ。
 俺は内心でガッツポーズしつつ、散らばった筆箱の中身を拾い始めた。

「……ごめんね」

 オリヴィアさんは筆記用具を拾いながらも謝ってきた。

「そんな。君は悪くないよ」
「何にも、してあげられてないし……」
「そんなことないよ、さっきも助かったし」
「でも……」

 ――キーンコーン。

 と始業の鐘がオリヴィアの言葉を遮る。

「ほら、授業始まるよ」
「……うん」

 オリヴィアはしぶしぶと自分の席へと向かった。

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