神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻





 夜が開け、朝になった。

 食事を済ませ、リアを除いた四人は出発の準備をしていた。
 リアは、浮かない様子でミレイ達を待っている。

 傍らには、師匠である魔法使団長のレナードもいた。
 彼はリアへ声を掛ける。

 「やはり、別れるのは辛いですか?」
 その言葉に対して、リアは瞳に涙を溜める。
 「はい······なのです······」
 「リア、辛いと思いますが、いつか別れは来ます。日々に変化・・があるように」
 レナードがそう諭すと、四つの足音が響き近付いてくる。

 「レナード、あたし達は行くわ」
 ミレイはそう告げた。
 「お世話になりました、レナードさん」そう礼を言うのはシングだった。
 アイリスは、「レナードさん、よろしくお願い致しますね」と頭を下げた。
 ヴェルストは、特に何も言わなかった。

 「了承しました。私の移動魔法でグラシア国まで送りましょう」
 レナードは、アイリスへ返答すると、次にヴェルストへ向き直った。
 「ヴェルスト・ハーディ。良いのですか? あなたなら、魔法使団に入る選択肢もあるのですが」
 その問いにヴェルストは。
 「性に合わねぇんだよ。そうゆうのはな。オレは、モルガナと旅へ出るつもりだ」そう答えた。

 「そうですか、雷轟の魔女と······」
 レナードは、おしいとでも言うように、苦笑を浮かべる。
 優秀な人材を逃したからだろうか。

 程無く、別れの時が来た。

 「それでは、どなたからお送りしましょうか?」
 レナードの言葉に対し、まずミレイが答えた。
 「あたしとシングはいいわ。馬を貸してくれれば、それで出発するから」

 「オレも構わねぇ」
 ヴェルストも拒否する。
 となると、残りはアイリス一人だけ。
 「では、お願い致します」と彼女は答えた。

 「それでは······」レナードは呪文を唱えていく。
 その中で、ミレイ達は別れを告げる。
 「アイリスさん、元気で」
 「アイリス、あんたのこと初めは、気に入らなかったけど。今は良い仲間よ、忘れないわ」
 シングとミレイは、そう話し掛ける。
 「皆さん、私もです」

 ふとミレイは、リアへ声を掛けた。
 「ほら、リア。あんたも」
 リアは俯きながら、たどたどしく言葉を紡ぐ。
 「ア、アイリスさん。元気で······なのです」
 アイリスは笑顔で答える。
 「ええ、リアさんもお元気で」

 そこで、レナードの詠唱が終わり、アイリスは輝きに包まれて消えて行った。
 すると、ヴェルストは歩き出した。
 「じゃあな」
 「『じゃあな』って、何か言うことあるんじゃない!?」
 ミレイがそう突っ込むと、彼はすぐ返した。
 「んなもんねぇ。だがな、お前らといて退屈じゃあなかった。じゃあな、牛女」

 「もう、呪いも解けてるし牛女じゃ無いわ! 待ちなさい、アホ毛男!」
 ミレイの言葉に応えるように、ヴェルストは振り返らず手を上げた。

 それから、馬の準備が済むと、シングは先に跨がる。
 「リア、元気で。僕達も行くよ」
 シングの言葉に、リアは答えない。
 先程から俯いたままだ。
 その時ミレイは、彼女へ近寄り抱き締める。優しく、包むように。

 「リア、あんたといて楽しかったわ」
 「そんな事言わないでなのです······」
 「言わせなさいよ。······あんたがいなかったら、シングに想いを伝えることも出来なかったって思ってるわ」
 そう伝え、ミレイは離れる。
 次にシングの跨がる馬へ乗った。
 「リア、また会いましょ」

 リアは突如、馬へ近寄ると俯かせていた顔を上げた。
 その顔は、瞳から頬まで涙が伝っていた。
 「ミレイさん、リアだってリアだってっ! 楽しかったのです! ホントに楽しかったのですぅ······」
 「リア、あたしもよ」
 ミレイもつられて、涙を流す。

 ミレイは、シングが手綱を握る馬に乗って、走り去っていった。


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