神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

九十九





 それから──七日が過ぎた。
 ミレイにとって、いや······彼女ら彼らにとっても、時はあっという間に過ぎた。
 世界を救ったミレイ達は、栄誉を讃えられ、勲章を頂いた。
 それに祝賀会が開かれ、パーティーさながらだった。

 会話をする者達でひしめく場の中で、一人ヴァルコニーへ出る人がいた。

 ミレイだった。ドレスに身を包み、いつもと違って見える。
 ミレイは一息つくと、呟く。
 「ようやく、終わったのね」

 その時、後方から近寄る足音が響いた。

 ミレイは振り返り。
 「何、あんたも休憩?」
 そこにいたのはシングだ。
 「うん、それもあるけどさ。ミレイと話がしたくて」
 「そう。で何よ?」

 促され、シングは話を切り出す。
 「ディザスターを倒していく中で色々あったなと思って。ミレイには特に助けて貰ったしさ。僕の目を覚まさせてくれた」
 「······そうね。あんたが何を悩んでるか分からなかったし。大変だったわ」
 「ミレイ、ありがとう。君のおかげで、強くなれた気がするし、大切なことを気付かせてくれた」
 一瞬、シングは笑みを浮かべるが、すぐ真剣な表情になる。

 すると。

 ミレイの手にそっと触れた。

 「だから、ミレイをこれからも護っていくから。だから、君にも支えてほしい」
 ミレイは、顔を若干赤らめる。
 「決まってるじゃない。あんたのことを護る力はもう無いけど、代わりに支えていくから」

 「ミレイ」
 シングの顔がミレイの顔へ近付いていく。

 その時。
 「あわわっ、しちゃうのです······。あと少しなのです······」
 小さくリアの声がした。
 それは二人の耳に、ちゃんと届いていたのだった。
 すると、近付きつつある二人の顔は、動きを止める。すぐにミレイは、隠れているリアの方へ向く。
 「何やってんのよ、リア。出てきなさい」

 「何故、気付いたのですか?」
 驚いた様子で、リアが姿を見せる。
 「声、聞こえてたわよ。それにしても、アイリス······あんたまで······」
 ミレイはあきれた顔を見せた。
 「お二人が気になったものでして」
 アイリスは笑顔を浮かべる。

 「ミレイさん、続きはいいのですか? 気にせずどうぞなのです」
 リアの唐突な言葉に対し。
 「出来る訳ないじゃない!」
 否定するミレイに、リアは提案する。

 「ならリアが責任取るのです! リアとするのですよ!」
 リアはミレイへ近付くと、肩を掴み顔を近付けようとする。
 「あんた、何しようとしてんのよ! やめなさいよ、リア!」
 ミレイは拒もうと離れようとする。

 だがミレイに、かつての力は無いので離れられなかった。


 四人がヴァルコニーにいる中。

 その上の屋根に、仰向けになっている者がいた。ヴェルストだ。
 彼は、空を眺めていた。
 きらめく星の群れの中で、一つの星が流れる。
 「出発は明日か······」
 ヴェルストは言葉をもらす。

 そう······彼ら彼女らは明日、違う道、それぞれの日常に戻るのだった。


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