神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

九十四





 「ヴェルスト、あたし達も!」
 ミレイに促され、ヴェルストは自身含めた五人を魔法で下降させていく。

 すると、ウロボロスの身体に異変が起こる。一部が闇化していってるのだった。
 どうやら、安全に着地するつもりらしい。

 「そうはさせません!」
 アイリスは叫ぶ。と同時に、杖を掲げた。
 「光よ!」

 眩い輝きで、ウロボロスは照らされ闇化がとけて実体へ戻っていく。

 実体のまま落下していくウロボロス。
 それを追うが如く下降する五人。

 やがてウロボロスは、土煙を上げ落ちたのだった。

 ミレイ達も地面に着地する。
 土煙が舞い乱れる中、五人は警戒を怠らない。
 突如、駆ける音が響いた。土煙の中から、ウロボロスが現れる。
 次に身体を回転させ、尻尾を鞭のように振るってきた。

 尻尾の攻撃を、ミレイは大斧の腹で受け止める。そこで彼女は、空けた片手で尻尾を掴むと、渾身の力を込め上へ投げ飛ばした。

 「シング、行くわよ!」
 「うん!」
 ミレイとシングは武器を構える。
 ミレイの断罪の大斧は、急速に強い光を纏っていく。
 その時、彼女の瞳は真っ赤に染まっていた。

 ウロボロスは落下していく中で、闇の球体エネルギーを貯め放つ。
 「リアを忘れてないですか?」
 リアは、救済の杯を掲げ、その攻撃だけを打ち消した。

 「まだ、足掻くわけ? ヴェルスト!」
 ミレイに促され、ヴェルストは風魔法で風圧を起こし、彼女を上空へ飛ばした。
 ウロボロスは、尚も足掻こうとする。
 次は闇のブレスを放とうとする。がシングは、槍から光子の棘を勢い良く伸ばしていき、口内を貫いた。

 その攻撃で、ウロボロスのブレスは不発に終わる。
 ミレイは順調に、落下してくるウロボロスへ向かって飛んでいくが、途中で勢いが弱まっていく。

 「お任せを!」
 アイリスは神罰の十字架を掲げる。
 すると、ミレイの両足へ向かって、一つの巨大な光の拳が放たれる。
 巨大な光の拳が足にぶつかると、再び勢いをつけ、ウロボロスの方へ飛んでいった。

 落下してくるウロボロスと、上へ向かい飛んでいくミレイ。

 距離が縮まった時──。

 「これで終わりよ!」
 ミレイは大斧を振るう。その刃から、光の超巨大な斬撃が放たれ、ウロボロスを両断していく。

 ウロボロスは堪らず、金切り音に近い咆哮を上げていった。
 身体全体を両断しきった時、咆哮は止み最後のディザスターは消滅していく。

 ミレイは落下していく中で、ようやく終わったのだと思った。
 地面に落下する寸前で、ヴェルストの風魔法で無事に着地する。
 仲間達が駆け寄ってくる。

 「やったのですぅ! ミレイさ~ん!」
 リアがミレイに抱き付いてきた。
 シングも爽やかな笑みで。「やったね、ミレイ」

 「シング······。あんた達のおかげよ。みんなの力があったから······」
 「なに、らしくねぇ事言ってやがる」
 そう素直に受け取らないのはヴェルスト。
 「あんたねぇ、人がせっかく礼を言ってるのに······」

 その時、ミレイに異変が起きた。
 再び瞳の色が真っ赤に染まっていた。
 血液と見違うほどに。

 ミレイの表情に違和感を覚えたシングは、声を掛ける。
 「どうしたの、ミレイ?」

 ミレイには今、あの声が聞こえていた。ディザスター、ミノタウロスの声······。
 汝、我になる時来たり······汝、我になり、災厄をもたらすだろう······。

 「あんた達、離れなさい!」
 ミレイの必死な声で、誰もが驚く。
 「ミレイ?」
 「ミレイさん······?」
 シングとリアは、名を呼ぶ。
 「お願いだから、離れて······」

 リアは離れていく。
 シングやヴェルスト、アイリスも同様に。
 「い、いやあああああっ!」
 ミレイは頭を押さえつつ、叫び声を上げていく。


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