神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

八十五





 「ミレイさぁ~ん、落ちるのですぅ~!」
 落下しながら叫ぶリアは、必死にミレイにしがみついている。

 下の階に着地すると。

 「まだまだ、いくわよ!」
 ミレイは、大斧を降りかぶってから、床へ叩き付ける。
 すると床が崩壊し、再び落下。

 「やあああなのですぅぅぅ~!」
 リアは叫ぶのだった。



 その床を壊して、近道するのを何度か繰り返し、ようやくミレイは大斧を振るうのを止める。
 「一階に着いたみたいね」
 「うぅ、ミレイさん······」
 リアは、ミレイの足にすがり付いたまま、へたり込んでいる。
 「さあ、行くわよ!」



 五人は、扉の前にいた。
 ミレイは、静かに扉を開けていく。
 すると、僅かな灯りに照らされて、下へ続く螺旋階段があった。



 幾程、下りただろう。

 ようやく、階段の終わりが下の方に見えてきた。
 ミレイ達は、静かにかつ出来るだけ早く下っていった。

 下りきった時、目の前に扉がある。
 すぐにミレイは、扉を蹴り壊した。
 扉は、吹っ飛んでいく。

 「誰じゃ!?」
 「そこまでよ! あんた達!」
 ミレイは、広い地下室へ足を踏み入れていく。
 残りの四人も続いた。
 その中は、多数の魔法使いらしき者達がいて、何かを囲んで詠唱をしていた。
 何かは、良く見ると魔法陣だった。
 「くっ、あやつらは何をしてるんじゃ!」
 黒いローブを纏った老人男性が声を上げる。

 「ここにいるぞ」
 突如上から、顔の下半分を布で隠した身軽な服装の者達が、複数現れた。
 「遅い、何をしておった!」
 老人男性の言葉に、男は答える。
 「勘違いするな。我ら密偵は、皇帝陛下に従っている。お前にじゃない」

 「話は終わりかぁ?」
 ヴェルストはいつの間にか、距離を詰め攻撃を仕掛けた。
 風を纏ったダガーナイフ二本で、首を狙い密偵を切り伏せていく。
 あっという間に密偵は、先程喋っていた男だけとなった。
 「貴様、良くも仲間を!」

 密偵の男は、斬りかかる。
 ヴェルストは、横に動いてかわす。
 「んっ? てめぇ、何処かで?」
 「何の事だ、我はお前を知らぬ」
 「間違いねぇ。······てめぇは、五年前、ヴィンランド国の王宮にいた奴だよなぁ?」
 「ああ、そんな事もあったな······」
 密偵の男は、何かに気付く。

 「もしやお前は、あの宮廷魔法使いだった女の知り合いか?」
 「オレは、昔宮廷魔法使いだった女の弟子だ······」
 ヴェルストは、ナイフを持つ手に力を込めていた。
 「そうか、お前があの女の弟子だったとはな。ならば、同じく墓に埋めてやろう」

 ヴェルストは、凄い眼光で睨み付ける。その目には、殺意ではなく怒りが滲んでいたが。
 「オレはな、ずっと許せなかったんだよ。師匠を毒殺した奴をな。なんせ、オレの居場所を奪いやがったんだからな!」
 ヴェルストは、ダガーナイフ二本を構える。


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