神聖具と厄災の力を持つ怪物
七十七
「荒ぶれ!」
緊張感を破るように、ヴェルストの声が上がる。
すると、神聖具、光魔の指輪を通して、魔法が発動した。
ダガーに纏わせていた風が、暴れるように激しくなっていき巨大化する。
ミレイも、断罪の大斧の刃に光を纏わせ、その武器を下段に構えた。
勢い良く光の刃は大きさを増していく。
その時、彼女の瞳が一瞬······赤くなった気がした。
ヒュドラは、九つの頭全ての口を大きく開く。次に、おどろしい紫色の液体を広範囲に吐き出していった。
「あれは、厄災の力! リア!」
シングは、リアの方に振り向く。
「任せてなのです!」
リアは、救済の杯を掲げる。
すると、紫色の液体のみを光が照らし、消滅させていった。
あとには、光の粒、あられみたいなものが降り注ぐ。
次にミレイは足に力を込めた。
「やあああああ!」
気合いと共に助走を付け、ヒュドラの前肢を、上へあっという間に駆け抜けていき、肩に到達する。
ヴェルストも、「ウィンド・ブレイド!」と叫びを上げ、助走を付けると跳躍した。
ミレイも、断罪の大斧を水平に構え直すと、低く前へ跳ぶ。同時に、光の巨刃を纏わせた大斧を、前へ振るっていく。
跳躍していたヴェルストは、ヒュドラの首に狙いを付け暴風の剣で凪ぎ払う。
そのままミレイとヴェルストは、同時にヒュドラの首を切ったのだった。
全ての頭部を失った災厄の怪物は、力なく地面に沈み込む。
「これで······」ミレイは、今度こそディザスターの戦いは終わったのだと思った。
だが、気を引き締め直す。
(いや、まだこれからよ······! まだ帝国軍が······)
ミレイ達は、戦場に注意を向ける。
「何よ······圧してるじゃない」
彼女の言葉通り、王国軍は優勢だった。
だが、帝国の指揮官は不敵に笑みを浮かべていた。
「そろそろ頃合いだな······おいっ!」
その時、何かが、数十人の王国兵を吹っ飛ばした。
いや瞬間、赤い血液が散っていた。
恐らく、斬られたのだろう。
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