神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

六十五





 「ミレイ、ありがとう。助かったよ」
 シングは、黒い火球から助けてくれたミレイに礼を言う。
 「当然よ。あんたがピンチの時は、あたしが助けるんだから」
 続けて、ミレイは話す。
 「それにしても、ただの魔法じゃないみたいね。見て、あれ······」

 彼女の視線を辿りシングは、燃えている草を見る。
 「うん、みたいだね。燃え尽きて何もないのに、まだ炎が」
 「もしかしたら、あれが厄災の力じゃない?」
 「ミレイの言う通りかもしれない」
 「あとは、どうするか、ね」
 「考えてる時間はないみたいだよ······」

 シングの言葉通り、アジ・ダハーカは動きを見せる。その周りには、魔法陣が展開されていき、黒い火球が放たれた。
 ミレイとシングは、更に相手の懐に向かって、駆けていく。

 後方にいたアイリスは、神罰の十字架の力で、光を黒い火球に向け撃ち放っていった。
 ヴェルストは、空中を魔法で飛行しつつ、攻撃を回避している。

 ミレイとシングは、アジ・ダハーカの右に回り込んでいた。
 「ミレイ!」
 すぐさまシングは声を上げる。
 「分かったわ!」
 ミレイは、大斧の刃の腹を上にして、横に構えた。
 シングは、その刃の腹に跳んで乗る。
 同時にミレイは、大斧を打ち上げながら叫んだ。
 「行ってきなさい!」
 シングは、その勢いと共に自らも跳躍する。
 上空へぐんぐん上昇していき、アジ・ダハーカの頭部を見下ろす程、その真上まで高く跳んでいた。
 更に落下しながら彼は、鋭光の槍を構え、下へ突き出していく。
 槍からは、光子状の棘が伸びていって、次の瞬間。

 アジ・ダハーカの頭頂部に、一本の光子状の棘が深く突きたつ。
 「咲き貫け!」
 シングが叫ぶと、内部から光子状の棘が無数に伸び貫いていった。
 「どうだ······?」
 だが、アジ・ダハーカの頭部はまだ動きを見せる。
 その頭を振って、シングを飛ばそうとしたのだった。
 「くっ!」
 彼は懸命に、鋭光の槍を握り締める。
 それでも、槍の柄から両手が離れそうになるが。

 シングの瞳は、諦めていないといった表情をしていた。
 彼はフッと軽く笑う。
 「まだだ!」
 鋭光の槍を握り締める手に、更なる力を込めた。
 「咲けっ!」
 まだ消えていなかった頭部内の光子状の棘から、更に伸び生えて貫く。
 その瞬間、シングは槍を手にしたまま、吹っ飛ばされる。

 「シング!」
 ミレイは、落下地点を予測して走り出していた。
 しかし、シングへ向かって、高速で近付く何かがあったのだった。


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