神聖具と厄災の力を持つ怪物
五十九
ミレイは一瞬、シングにどう話し掛ければいいか戸惑う。
だが、すぐに声を掛けようとする。
「ミレイ、僕は······」意外にも、シングの方から、喋ってきた。
「何?」
「まよ······いや······何でもないよ」
シングは言い掛けて、やっぱり話すのをやめる。
静かな雰囲気に包まれた。音がするのは、鳥の鳴き声等だけ。
程無くしてミレイは、話を切り出す。
「ねぇ、覚えてる? 数年前、あんたがあたしを助けてくれた事······」
「······覚えてるよ」
シングは辛そうに答える。
「ヴィンランド国の宴からの帰りで、野盗に襲われて······あんたが守ってくれたのよ。『ミレイに手は出させない!』って」
ミレイはそう話しながら、歩いていき、シングの横に座り込んだ。
「······」シングは暗そうな表情を見せる。
「だから、あんたが何で悩んでるのか知らないけど、あたしが支えるから······今度は······」
「だったら······も······めて······れ······い······な······」
「えっ、なんて······?」
「もう、止めてほしいんだ······支えるとか」
ミレイは、シングが何故そんな事を言うのか、理解できない。
「なんでそんな事言うのよ······?」
疑問に思い、問うが。
「ミレイはさ、もう僕より強いんだよ······守れない位······」
「······そ、そんな事」
「そうなんだよ······。僕はミレイより弱い······だから、もう無理なんだ」
シングは何処か、辛そうに表情を歪めている。
彼女に、こんな事を言う罪悪感からか、又は自分自身の情けなさが理由なのか。
もしくは、その両方か······。
シングはふと、彼女の方を一瞥する。すると驚きの表情を見せる。
ミレイが、目尻に涙を溢れさせていたからだ。
「そんな事言わないでよ······」
「ミレイ······」
「あんたは······半年前だって、三人の帝国兵にあたしが襲われそうになった時······助けてくれたじゃない······。だから、あたしだって、あんたを助けたい」
ミレイはそこで、シングに寄り添うようにくっつく。
「そう思うのは当然じゃない······」
ミレイは最後に、一言そう添えた。
すると、シングは暗い表情だが、真剣に何かを考え始めたように見える。
どの位の時が経ったのだろう?
ミレイにとっては、長いものに思えた。実際は、そんなに経過していないのだが。
程無くしてシングは軽く笑う。
「ははっ······そうだったんだ······」
ミレイは、その様子を見て疑問に思った。「······?」
シングは、真剣な眼差しで彼女を見据えると話し出す。
「僕はさ、ミレイより強くないと君を守れないんだと思ってた······。でも、そうじゃない」
シングはそこで、両腕を回し彼女を抱き締めた。
そのまま、続きを言い始める。
「ミレイの隣で······一緒に守り合えば良かったんだ。······ミレイ、今まで心配かけてごめんよ」
「そう······良かったわ······」
ミレイは何処か素っ気ない。何故なら、シングに抱き締められているからだ。
彼女の顔は、照れとどきどきから、朱色に染まっていた。
「それより······放してほしいんだけど······?」
「どうしてさ?」
「······」ミレイは黙ってしまう。
「訳を言ってくれれば放すよ」
そのシングの言葉に、ミレイは無言のままだ。
(······理由を言うなんて、そんなの無理よ······でも、思い切って······。いや、でもやっぱり、それは無いわ······)
その時ふと、脳裏にリアの言葉が浮かぶ。『戦いの時のミレイさんは、とても強いです······いつも、全力で······』
(······やっぱり、弱気なんてあたしらしく無いわね。決めたわ)
「······じゃあ、言うわよ。あたしは、あんたが好きなのよ······」
その言葉にシングは、信じられないといった表情をしている。
思わず聞き返す。
「今、なんて······?」
「だから、シングの事が好きって言ったのよ! 二度も言わせないでよ!」
ミレイの顔は、最高潮までに真っ赤になっていた。
「ミレイ、僕も好きだよ」
シングはそう言って、両肩を掴むと、彼女の口先に自分のを重ねる。
暫くしてシングは、口を離した。
ミレイは、言葉を失っている。
心地良い静かな時が、僅かばかり流れ。
それからミレイは、慌てた様子で質問する。
「で、でも、前にあんた、好きな人がいるって······」
シングは、溜め息をつくと答える。
「ああ、それはミレイの事だよ。やっぱり、気付いて無かったんだね」
「そうだったのね······」
ミレイは安心したのか、体の力が抜けた。
時が、少しばかり経過した。
「それじゃあ、行こうか」
「そうね。アジ・ダハーカを迎え討ちに······」
二人は立ち上がり、皆のいる森の外へと歩きだした。
コメント