神聖具と厄災の力を持つ怪物
五十五
ノワールのその呟きに、反応する者がいた。
「······どうしたのですか? ノワールさん······?」
リアは、目元を手の甲で拭いながら問う。
「対象が動いた······」
「大変です! ミライさん達、起きてなのです!」
リアの声で、まずミレイが起きて、次々に他の三人も目を覚ましていく。
「何よ······? 何があった訳?」
「ミライさん、盗人が動き出したみたいなのです!」
四人は、寝惚けた表情を真剣なものに変える。
「ようやくって訳ね」
ミレイは壁まで歩いていくと、立て掛けていた断罪の大斧を肩に担いだ。
「オレ達の出番が来た訳か······」
ヴェルストがそう呟いた所で、ノワールは立ち上がる。
「早速だが、宿を出るぞ」
一同は、西の方角に歩いている盗人を尾行していた。
「あれが盗人な訳?」
ミレイは、頭部をフードで隠した盗人を見て問う。
「ああ、そうだ······ずっと奴の動向を使い魔で探っていたが、まるで待っている様だった······」
「待っているって······誰かを、なのですか?」リアが会話に入り込んだ。
「そうだ。それしか考えられんからな」
ノワールが答えた所で、アイリスは発言する。
「それにこの道、国境を越える門へ続いていませんか? しかも、帝国への······」
「その様だな······だが、まだ拘束するのは早いな」
次第に、西の門が見えてきて近付いてくる。
盗人は、一足早くに門で警備兵のチェックを受けると、程無くして門を越えていく。
ノワールやミレイ達も遅れて、警備兵のチェックを受けた。
その際。
「あれ? 君は何処かで見たことあるんだが······?」
警備兵の一人の若い男が、シングに質問する。
「気のせい······だと思いますよ······」
そう答えるシングの表情は暗かった。
何故なら、シングは元王子で、ランカスター国の亡き王都を守れなかった。
そのため、その事を思いだし、負い目を感じているのだろう。
「そうか、気のせいかな? ······はい、通って大丈夫ですよ」
ランカスターの警備兵の許可が下りると、一同は盗人をつけるため、歩きだした。
ミレイ達は長い橋を渡っていき、それを越えると、やがて左右に森林がある道に入っていった。
その時盗人の目前に、マントのフードを目深に被った、すらりとした人の姿が見える。
その者の近くには、白い馬もいた。
盗人は、皮の袋から何かを取り出す仕草をする。が、何も持っていない。
いや、徐々に、手に持つ何かが見え出してきた。
「あれは······!?」「もしや······!」
ミレイとノワールは、思わず声を上げる。
盗人の手に表れつつあるのが、金色の何かだったからだ。
程無くして、それは完全に表れた。
「あれが神聖具なのですか······?」
リアの問いに、ノワールは答える。
「ああ、あれが救済の杯だ······どうやら、隠蔽の魔法やらを使っていたみたいだな。だが······!」
ノワールは一呼吸置いて、再び声を上げる。
「取り返す!」
その瞬間、ノワールの姿が消えた。
地面に小さな土煙を起こして。
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