神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

二十七





 ミレイとリアは浴場から上がり、衣服を身に付けると、通路を進んで出入口に向かっていく。

 程無くして、出入口が見えてくる。
 そこには既に、シングやヴェルスト、指揮官が立って待っていた。

 「遅くなって悪かったわね」
 ミレイは近寄ると、シングに話し掛ける。
 「大丈夫だよ。······それより、リアはどうしたの? 疲れた様子だけど······」
 シングの言葉通り、リアは疲れた表情をしていた。
 「リアなら問題ないわよ」
 ミレイは平然と言った。
 「そうなの······ですよ······リアの事なら······気になさらず······」
 リアがそう言うと、シングは空気を読んだのか納得した様子を見せる。
 「分かったよ······それじゃあ、宮殿へ行こうか」



 一行は、宮殿の広間にいた。床に片膝を突き、こうべを垂れている。
 暫くして、ミレイ達に女性の声が掛かる。
 「顔をお上げください」
 ミレイ達が顔を上げると、きらびやかな椅子に座った二十代前半の女性がいた。
 女性は柔らかな微笑みを浮かべ、その雰囲気に似合った髪型をしている。

 両側面の髪はふんわりとしており、後ろ髪は腰辺りまである。

 女性は、ミレイとシングに近寄ると声を掛ける。
 「お二人共、無事だったのですね······! ランカスター国の王都がディザスターに滅ぼされたと聞いて、気になっておりましたから······。それに······ミレイ······その角と尻尾は······?」
 「聖女様、その事なんですが······本題の後でお話があります」
 シングは、真剣な表情でそう言った。
 「分かりました。それでしたら、まず本題をお伺いしましょう」

 「はい、貴国にヴィンランド王国と協力して、ディザスターの討伐をして頂きたいのです。こちらが信書になります」
 シングから信書を受け取り、聖女は目を通そうとする。
 すると、その場にいた七十代後半の男性が進み出てきて、言葉を発する。
 「どれどれ······」

 七十代後半の男性は、蓄えたひげを手で触りながら、聖女と一緒に信書に目を通していく。
 暫くして、七十代後半の男性が声を発する。
 「確かに······それでは我が国の教皇として、このニコラス・アークウッド、協力しましょうぞ」
 教皇の言葉に対して、一行は礼を述べていく。

 「それで、本題の後で話すこととはなんでしょうか?」
 聖女がシングに問う。
 シングは答える。ランカスター国の王都は、ディザスターに滅ぼされたのではなく、アルドーク帝国軍によってだと。
 それと、ミレイに角と尻尾がある理由を。
 「そんな······! そんなことがあって良いのでしょうか······」
 聖女は、口を両手で覆う。
 「まさか······帝国の軍が······とは······」
 ニコラス教皇は、驚きを隠せないでいた。

 「信じられないでしょうが······真実です。ヴィンランド王国の陛下にも話しましたが、ディザスターの討伐をしきった後で、対応するそうです······」
 「シング殿からしたら、今すぐにでも対応したい所でしょうが······。その時には、我が国も力になりましょうぞ」
 ニコラス教皇がそう言った所で、何やら慌ただしい足音が響いてきた。

 広間の大扉が開け放たれる。

 「大変です!」
 いきなり入ってきた若い女性は声を上げた。
 「騒がしいのう······何があったのじゃ?」
 ニコラス教皇は問う。
 「大変です! シェイン様が寝室からいなくなっていまして!」


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