神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

二十一





 巨大な蛙は、その者の蹴りで押され、バランスを崩す。
 「おい、大丈夫か?」
 その者は、振り返りつつ、気だるげな声で訊ねた。
 ミレイは、その者を正面から見た時、表情を驚きに変える。
 無造作な黒髪に鋭い目付き。
 「あんた、あの時の······! ヴェルストとかいう奴!」
 「そうゆうお前は、あの時の女か······」
 ヴェルストは、めんどうくさそうな表情で息を吐く。

 「ミレイ、大丈夫!?」
 シングがミレイに駆け寄ってくる。
 「大丈夫よ」
 シングは次に、ヴェルストの方に向き直ると頭を下げた。
 「ミレイを助けてくれて感謝するよ。ありがとう」
 「別に礼を言われる筋合いはねえ」
 「それでもだ······。僕じゃ間に合わなかったから······さ。本当にありがとう」
 シングは手を強く握りつつ、再度礼を言った。

 彼の手が強く握られていたのは、自分への不甲斐なさゆえなのだろうか。

 「わりぃが、話をしている余裕はねえみてぇだ」
 ヴェルストはそう言って、ミレイ達に背を向けると巨大な蛙を見据える。
 続けて、右手に持つダガーナイフを後ろに引くように構えた。
 「ウィンド・エンチャント」
 ヴェルストのその言葉で、再び、ダガーナイフの刃に風が纏われていく。
 更にヴェルストは、言葉を重ねる。
 「トルネード・ランス」

 すると、ダガーナイフの刃に纏っていた風が強く渦を巻いていき、気づけば、巨大な風の槍と化していた。
 「喰らいやがれ······リベレイション!」
 ヴェルストが、その言葉と同時にダガーナイフを押し出す。と、巨大な風の槍が放たれていく。
 巨大な風の槍は、勢い良く進んでいき、巨大な蛙の顎下を斜め上に向かって、撃ち抜いた。

 巨大な蛙は、断末魔の叫びを上げて、ゆっくりと地に伏す。
 その光景、ヴェルストの強さに、ミレイとシングは驚きを隠せない。
 「何よ、あの強さ······」
 「うん、かなりの強さだよ。しかも······戦い慣れしてる······」

 「よう、兄ちゃん! 中々やるじゃねえか!」
 そう言って、ヴェルストに気軽に近付くのは、ダークスだった。
 「うん? 兄ちゃん、どこかで会ったことねえか?」
 ヴェルストは、その言葉に対して、即座に返す。
 「気のせいだろ······それより、まだ終わってねえ」
 ヴェルストは、まだいる巨大な蛙に向かって駆け出す。

 「さぁて、俺も行くか」
 ダークスは伸びをすると、中型の斧を手に取った。
 そこでダークスは、後ろの方で突っ立ていたミレイとシングに気付く。
 「嬢ちゃん、坊主? 行かないのか?」
 「はい、今行きます!」
 シングは、慌てて走り出す。
 「今、行こうとしていた所よ······」
 ミレイは、ゆっくりと歩き出した。



 再び、ミレイ達が戦いに加わってから、状況は変わっていた。
 いや、それも、ヴェルストが戦っているおかげだろう。戦況は優勢になっている。
 「そっちは任せたぞ、坊主!」
 ダークスはシングにそう言うと、斧を構えつつ、巨大な蛙の右側へ駆ける。
 「はい!」
 シングは答えつつ、逆の左側へ向かっていく。
 二人は巨大な蛙に接近すると、擦れ違い様に、手にしていた武器で前肢を切り付ける。
 シングは、剣で。ダークスは、中型の斧で。

 巨大な蛙は、両前肢を傷つけられて鳴き声を上げた。
 「今だ、嬢ちゃん!」
 「ミレイ!」
 ダークスとシングは、声を上げる。
 「言われるまでもないわ!」
 ミレイは、巨大な蛙の喉元目掛けて、斜め上へ高く跳ぶ。
 そのまま擦れ違い様に、構えた大斧で怪物の喉元を切ろうとする。

 だが、ミレイの横を更なる速度で跳んでいく者がいた。
 同時に声が響く。
 「わりぃな······」
 その気だるげな声で、ミレイは瞬時に誰か分かった。ヴェルストだと。
 ミレイは彼に横を抜かれる。
 次の瞬間、ヴェルストの巨大な風の槍が、巨大な蛙の喉を貫いた。
 巨大な蛙は悲鳴を上げて、糸の切れた人形のように地面に伏していく。
 ヴェルストは、風の槍を消すと着地した。

 ミレイも着地する。と、すぐさま振り返って、ヴェルストに近寄っていく。
 「あんた、どうゆうつもり!? あの怪物は、あたしが倒すはずだったのよ!」
 「別に、倒せたんだから······オレがやっても同じじゃねえか」
 ヴェルストのその言葉に、ミレイは、かちんとくる。
 「なっ! あんた······!」
 ミレイは手を出しそうになるが、ダークスが間に割って入る。
 「まあまあ、お二人さん。そこまでにしようぜ」
 「そうだよ、ミレイ。いさかいは、めとこう」

 「分かったわよ······」
 ミレイは渋々、納得する。
 「それはそうと、君のお蔭で、怪物を全て倒すことが出来たよ」
 シングは、爽やかな笑顔を浮かべつつ、礼を言った。
 「お前らが弱すぎなだけだ······」
 「うん、その通りだね。君に比べれば、僕は弱い」
 シングはそこで、間を一瞬置くと、次の言葉は小さな声で言う。
 「だけど、いつかは強く······」
 まるで、自身に言い聞かせるようだった。

 「あっ? なんか言ったか?」
 「何でもないよ。それより、僕はシング。君の名前は?」
 「お前······なんか調子くるうな。ヴェルスト・ハーディだ。ヴェルストで良い······」
 「よろしく、ヴェルスト」
 「ああ······」
 ヴェルストは、気だるげに返事した。

 そこで、今まで影が薄かったリアが、呟く。
 「う~ん······ヴェルスト・ハーディ。どこかで聞いたことがあるのです······」
 「あんた······いたのね」
 ミレイの言葉に、リアは傷つく。
 「ミライさん、ひどいです······!」

 突如、鳥の鳴き声が響き渡る。
 ミレイ達は、上空を仰ぎ見た。すると、空には二体の巨大な隼の怪物がいた。
 二体の隼は、ミレイ達に向かって、勢い良く降下してくる。
 「やるしかないわねっ!」
 ミレイは、大斧を下段に構えた。シングやヴェルスト、ダークスも武器を構える。

 瞬間、輝く何かが、二体の隼に向かっていく。
 輝く何かは、対象の隼を包むと、めらめらと炎のように焼きだした。
 「輝く炎······まさか······」
 ヴェルストは、心当たりがあるかのように、呟く。

 二体の隼の方は、輝く炎に焼かれたまま、落下していき地にぶつかる。
 その時、ゆったりとした足音が響き渡った。
 足音はゆっくりと近付いてくる。
 その足音に、いち早く気付いたヴェルストは、振り返った。

 同時に、温和そうな女性の声が響く。
 「久しぶりね······ヴェルちゃん」


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