神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

二十





 幾人の悲鳴が、ミレイ達の耳に響く。
 他の冒険者達や王国兵は、突然囲まれた事で戸惑い、反応が遅れていた。
 その為、数名が、蛙の怪物に丸呑みにされていく。
 「うわあああ! 助け······」
 一人の者が、言い切る前に蛙の口内に入っていった。

 ミレイは、勢い良く巨大な蛙に向かっていく。巨大な蛙は、長い舌で絡め取ろうと伸ばす。
 「遅いわ!」ミレイは、斜め前にそのまま進んで、回避した。
 「残念ね!」
 更に距離を詰めると、高く跳躍して大斧を上段に構える。
 あとは、重力に身をまかせるままに落下していく。と、タイミングを図って大斧を振り下ろす。

 ミレイはこの時、確実に倒せると思った。
 だが、巨大な蛙は、宙から落下してくるミレイの方を向いている。
 「ミレイ、危ない!」
 シングは叫ぶ。
 次の瞬間、巨大な蛙の口内から液体の固まりが発射された。
 「えっ? ちょっ······!?」
 ミレイはその液体をかわせず、浴びてしまう。
 咄嗟の事で、大斧の振り下ろしは止めてしまったが、何とか地面に着地する。

 「何よ、これ!?」
 ミレイは気持ち悪そうに、自身の体に付着している液体を見回した。
 「ミレイ、大丈夫!?」
 シングは、心配そうに駆け寄る。と思ったら、彼の表情は、すぐさま変わった。
 するとミレイは、シングの表情がいつもと違う事に気付く。
 「······あんた、どうしたのよ? 顔が赤いわよ」
 そう言いつつ、ミレイは近寄る。

 「うわっ!?」
 シングは驚きの声を上げて、更に顔を赤らめる。
 「何? もしかして、この液体······臭う? 仕方ないじゃない······」
 「······そうじゃなくてさ。ミレイ、その······」
 シングは、言いづらそうに続きを話す。
 「その······服が······」
 ミレイはその言葉で、いぶかしがる。
 「服······?」
 そう言って自身の衣服を見ると、いつの間にか、所々が溶けていた。
 たちまちに、ミレイの顔が赤く染まっていく。

 「あんた、そうゆう事は早く言いなさいよ!」
 「ごめん! それより、その液体をどうにかしないと······更に服が溶けていくだろうし」



 それから、シングの呼び掛けで、水の魔法を使える人が来て、ミレイに付着した液体を洗い流したのだった。
 「これで戦えるわ」
 ミレイは、大斧を手に取ってかつぐ。
 「おーい、お二人さん! まだか!?」二人を呼ぶ声がする。
 ダークスだった。彼は、他の冒険者や王国兵と一緒に、巨大な蛙と戦っていた。

 「おっさん、もう大丈夫よ!」
 「ダークスさん、今行きます!」
 二人はそう返すと、武器を手に駆け出す。
 ミレイは一足先に、巨大な蛙との距離を詰める。次に前へ低く跳んで、巨大な蛙の右側の前肢を、大斧で切り付けた。
 ミレイは着地すると、更に助走をつけて、怪物の背中目掛け跳ぶ。
 巨大な蛙の背中に着地し、すぐさま、背に大斧を切り込んだ。

 するとミレイは、切り込んだまま、頭部に向かって駆けていく。
 その中で、巨大な蛙の体液が、後方に散る。勢い良く駆けて、頭部まで到達しきると、最後に頭頂部をも切った。
 その後、ミレイは地面に向かって跳び、着地する。
 その時、声が響く。
 「ミレイ! 後ろ!」
 シングは剣を右手に、ミレイに向かって走り出していた。
 ミレイは後ろを振り返る。
 視界には、蛙の怪物の巨大な前肢が迫っていた。

 「しまっ!」
 ミレイは防ごうとするが、間に合いそうにない。

 その瞬間、宙から飛翔してくる者がいた。
 ミレイの前に出ると、舌打ちする。
 「めんどくせえな······」
 一言いうと、その者は、両手に持っていたダガーナイフで、巨大な蛙の前肢を受け止めようとする。
 「ブースト」
 二言目で、右の中指にしていた指輪が光り、その者の体が一瞬輝きに包まれた。
 「ウィンド・エンチャント······」
 最後にそう言うと、再び指輪が光り、その者の二本のダガーナイフに、風が纏われていく。

 次の瞬間、その者は、二本のダガーナイフで巨大な蛙の前肢を受け止める。
 だが、巨大な蛙の体重がし掛かり、押されていく。
 「ウィンド・エンチャント」
 その者は更に、片足に風を纏わせる。
 「喰らいやがれ!」
 そう叫ぶと、風を纏った足で、巨大な蛙の前肢に蹴りをかました。


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