神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

十九





 ミレイが移動し始めて、暫く経った時。鐘の音が再び、響き渡っていく。
 「何? 又、怪物の群れ?」
 ミレイは、音のする方向を聴いて、そちらを見据える。
 「音がしてるのは違う門みたいね。という事は、新たな怪物ね」
 そう言うと、そちらの方に、屋根から屋根へ跳躍して進んでいく。






 ミレイは、南西の門の外に着いていた。
 他の冒険者達もある程度いて、口々に同じような事を言っている。
 「こんなに怪物が来るなんて久し振りじゃないか?」
 「確かにな。しかも宴の日だってのによ」
 ミレイは怪物を待ち構えていると、突然、肩をぽんと叩かれた。
 ミレイは後ろを振り向く。が、別段驚かない。
 見知った相手だからだ。
 「よう、嬢ちゃん。久し振りだな」
 中型の斧を携えた、がたいの良い男は、笑ってそう言った。
 今目の前にいるのは、ディザスター、ミノタウロスを相手に、共に戦ったダークスという男だ。

 「久し振りね、おっさん。まだ王都にいたのね」
 「ああ、宴があるから楽しんでいたんだが······。まさか、こんな事になるとはな」緊迫感のある表情で、ダークスは言う。
 次にその表情を崩すと、「それとな、何度も言ってるが。俺はおっさんじゃねえ」と突っ込みを入れた。

 「何言ってるのよ。どう見ても、おっさん顔じゃない」
 「そうだが······これでも二十五······」
 ダークスが最後まで言い終える前に、突如ミレイを呼ぶ声がする。
 「ミレイ!」
 その声は、シングだった。彼は、駆けて近付くと止まる。
 暫く息を切らし、落ち着いた所で言葉を発する。
 「やっと追い付いた······」

 「あんた、良く見付けられたわね」
 「それはミレイが、建物の屋根を跳んでいくのが見えたからね」
 そこでシングは、ダークスがいる事に気付く。
 「ダークスさん、久し振りです」
 「ああ、久し振りだな、坊主」
 ダークスは、拳を前に突きだす。
 シングも同様の仕草をして、拳同士を合わせた。

 「シングさん~!」
 突然、間の抜けた声が響いた。
 リアだった。
 リアは、よろよろとした動きでシングに近付く。
 「シングさん、ひどいのです~。リアから、どんどん離れて行っちゃいますし~」
 「リア、ごめんよ。急いでいたからさ、つい」
 「坊主、その姉ちゃんは?」
 ダークスのその問いに、シングは答える。
 「僕達の新しい仲間のリアです」

 「前方に蛙の怪物の群れを確認! 各自、迎撃態勢を!」
 突如、監視をしていた王国兵の声が響き渡った。
 「どうやら、のんびり会話をしてる時間はないみたいだな」
 ダークスは、中型の斧を手に、構える。
 「再びリアの出番なのです!」
 リアはそう言うと、詠唱を始める。
 「限りを超越せし力······彼の者らに与えよ! オール・ブースト!」
 唱え終わると、ミレイ、シング、ダークスの体が輝きに包まれた。

 「おお、これは力がみなぎるぜ」
 ダークスは、目を見張りながら、そう言った。
 「やっぱり、この魔法は凄いね。何でも出来そうな気分だよ」
 シングは剣を構える。
 「そうね。リアは気に食わないけど、魔法の実力だけは認めてあげるわ」
 ミレイも大斧を右下段に構えた。

 蛙の群れは段々と近付いてくる。
 距離が近付くにつれ、更にはっきり分かってきた。巨大な蛙が複数体おり、それよりも小さな蛙は大量にいる。

 怪物の群れとの距離が、ある程度になった時、声が響き渡る。
 「突撃ー!」
  ミレイ達含めた他の冒険者や、王国兵が蛙の群れに向かって、駆けていく。
 だが、ミレイ達が距離を詰めるより早く、巨大な蛙四体が高く跳躍してきた。
 ミレイ達や他の者達は、その四体の蛙に囲まれる。

 「やってくれるじゃない······」
 ミレイはそう呟き、大斧を持つ手に力を込めた。


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