神聖具と厄災の力を持つ怪物
十七
「この鐘の音は何なの······!?」
ミレイは表情を変える。
「うん、何かあったんじゃないかな······」シングはそこで、外を一瞥した。
外では、警備兵が何やら声を上げている。と共に、人々が慌ただしく移動していく。
激しい鐘の音が鳴り響く中、ようやく、寝ていたリアは目を覚ます。
「むにゃ······はっ!?」
寝惚け顔からすぐさま、緊迫感のある表情に変わると、リアは椅子から立ち上がった。
「急にどうしたのよ。あんた、相当飲んでたんだから、休んでた方が良いわよ」
ミレイは、リアに水の入った硝子製の容器を差し出す。
「ミライさんが優しいのです~」
リアは、涙混じりにそう言って水を飲んだ。
「はっ! そうじゃなくてですね! リアは行かなきゃいけないのです!」
「あんた、お手洗いなら早く行った方が良いわよ」
「そうでもなくてですね! この鐘の音は、怪物の襲来を知らせているのです!」
リアのその言葉で、ミレイとシングの顔色が変わる。
「それなら、早く言いなさいよ! 行くわよ」
ミレイはゆっくりと立ち上がる。
「うん、行こう」
シングも椅子から立つと、三人は鐘の音がする方へと駆け出していった。
太陽が西に傾いて、綺麗な夕焼けを見せている。
王都の門の外には、大勢の冒険者と王国兵、王国魔法使団がいた。
勿論、ミレイとシング、リアもいる。
皆の視界には、遠くに怪物の群れが映っていて、怒濤の勢いでそれが迫ってきていた。
「二人とも、無理はしないように」
シングがそう言うと、ミレイとリアは自信ありげに笑う。
「リアの実力、見せてあげるのですよ!」
「誰に言ってるのよ! 無理しなくても楽勝よ!」
三人はゆっくりと、武器を手にする。
ミレイは大斧を、シングは長い剣を、リアは、杖を。
「あんた、その武器で良いの?」
「うん、ディザスターが相手じゃないからね」
「そう」
「心配してくれてるのかな?」
「馬鹿! 違うわよ!」
ミレイは頬を紅く染めていた。
「二人とも、リアの存在を忘れないで下さい!」
「各自、先頭準備!」
王国の指揮官らしい男が、掛け声を放つ。
王国魔法使団や冒険者の魔法使いが、詠唱を始めていく。
リアも同様に唱え始める。
「限りを超越せし力······彼の者らに与えよ!」
リアの杖が輝きだす。
輝きは強くなっていき、そこで叫ぶ。
「オール・ブースト! なのです!」
ミレイとシングの体が光に包まれていく。
「これは力が溢れてくるわ······」
「こっちもだよ······ありがとう、リア」
「大したことはしてないのです」
リアは照れつつ、笑う。
どうやら、周りの人達にも他の魔法使いの強化魔法がかかったようで、準備が出来ていた。
各自、武器を手にして攻撃を仕掛けるタイミングを待っている。
怪物がある程度まで、近付いてくるのを。
怪物の群れは更に距離を縮めてくる。
そこで、ようやく、はっきり視認できる距離になった。
地上に狼型、空には大きい隼の怪物の群れが見える。
「魔法使いは、各自詠唱を!」
指揮官の声が掛かる。
魔法使い達は詠唱を始めていく。
「又々、リアの出番なのですよ!」
リアも呪文を唱え始める。
「此は縛りし力······汝を縛りて、止めよ!」
詠唱が終わると、まだ距離のある狼の群れを囲むように、魔方陣が展開される。
その魔方陣は輝きを放っていた。
「くらって下さい! スタン!」
リアのその言葉と共に、輝きを放っているバチバチした何かが、狼の群れにまとわりつく。
すると狼の群れは、抵抗しようとするも動けないでいた。
「今なのです!」
リアの声に答えるように、他の者達の魔法がすかさず放たれていく。
火や風の魔法が、狼の群れに命中していき、先頭の大部分を倒した。その時。
「前衛、突撃!」
指揮官が剣を前に向けて、言い放った。王国兵や冒険者達が突撃していく。
ミレイやシングも続いて走り出した。
ミレイは、リアの強化魔法の助けもあって、すぐさま狼との距離を詰める。
「覚悟しなさい!」
ミレイは、構えた大斧を左に振るっていく。数匹の狼が切られて絶命していった。
すると狼の群れに取り囲まれ、ミレイは飛び掛かられる。
「ミレイ!」シングは助けに行こうとする。
だが、ミレイは微かに笑いを浮かべた。「大丈夫よ!」
そう言って、上体を捻って大斧を構える。と、体を回転させて、飛び掛かってきた狼の群れを次々に切っていく。
狼の群れは勢いで飛ばされ、地に倒れ込むと動かなくなった。
シングも、飛び掛かってくる狼を剣で斬りながら、ミレイに近付くと彼女の背中を守るように立つ。
「ミレイ、背中は任せてほしい」
「そう、じゃあ任せたわよ!」
ミレイはそう答えつつ、大斧で襲ってくる狼を切っていく。
怪物達との戦いが始まってから、ある程度経った。
隼の怪物が、翼を閃かせて風を起こす。
王国兵達は踏ん張って耐えていく。
「くっ!」
風が止むと、次は魔法使い達が攻勢に出る。攻撃魔法の狙いを隼に定めて、放っていく。
対して、隼は高く舞い上がって魔法をかわすと、そのまま門の上空を越えて街中に侵入する。
続いて、二体の隼も入っていった。
門の上の監視台に控えていた王国兵が、顔色を変えて叫ぶ。と共に、手早く鐘を鳴らした。
「街中に隼の怪物が侵入! 繰り返します! 街中に隼の怪物が侵入!」
「何!? だが、者共、案ずるな! 街中にも王国兵や魔法使団が控えている!」
指揮官は、声を張り上げた。
だが一瞬、王国兵達の気がそれたのか、狼の群れの侵入も許してしまうのだった。
鐘の音と王国兵の言葉を聞いて、ミレイは門の向こう側へ視線を走らせる。
「少し行ってくるわね」
ミレイは突然そう言うと、物凄い速度で門の方へ駆けていく。
「ミレイ!?」
シングは答える間もなく、ミレイの背中を眺めるだけだった。
しかし、次の瞬間には表情を変えて、後を追うように走り出す。
シングは、後方にいたリアに近付くと、声を掛ける。
「リア! 僕は、ミレイを追いに街中に行くから!」
再び、シングは駆け出した。
程なくして、門の向こう側、街中に消えていく。
「······ちょっと、待って下さい! リアも付いて行くのです~!」
リアは少し遅れて、シングの後を追うのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
147
-
-
52
-
-
6
-
-
17
-
-
125
-
-
20
-
-
0
-
-
3395
-
-
93
コメント