神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

十六





 翌日。
 ミレイ、シングの二人は、リアの案内で又、街中に来ていた。
 だが、街の様子が昨日と違い、更に賑わっている。
 何より大通りの中央は、人の往来がなく空けられていた。
 何かあるのだろうか?

 
 「凄い人だかりね。嫌になるわ」
 「リア、今日は······」
 シングが最後まで言い切る前に、リアは答える。
 「はい、宴なのです! この国は何もなくても、宴が年に三回あります! 凄いんですよ! 食べ物は美味しいし、スイーツも美味しいし、お酒も美味しいですし!」
 リアの瞳が輝いている。
 「更に凄いものもありますよ! 行ってみますか?」
 リアは、答えを聞かずに歩き出す。
 ミレイとシングは後を付いていく。

 かなり歩いたが、中々凄いものが見えてこない。と二人が思っていた所。
 突然、遠くの方で歓声が沸き上がった。
 「見えてきたのです!」
 リアは、遠くの中央通りを指差す。
 ミレイとシングは、目を凝らした。
 見ればリアの言う通り、遠くの方で宙を飛んでいる者がいる。
 他にも中央通りを集団が様々な事をしていた。

 「シングさん、あれがこの国でも特に、有名な魔法曲芸士の一団なのですよ!」リアは語りだす。
 「へえ、一団の名はなんて言うの?」
 「え~と、輝炎きえんの一座だったと思うのです」
 「その一座なら僕も知ってるよ。なんでも、一座を仕切るのが竜人族の人らしいね」
 「そうなのですよ!」
 リアは、シングの言葉に同意すると続けて話し出す。
 「それに、夜にやる芸も又凄いのです! キラキラ~としていてですね」

 「ふーん、そうなのね。というか、これ美味しいわね」
 ミレイはさりげなく会話に入る。
 手には、肉の串刺しが握られていた。
 「あっ! ミライさん、ずるいのです! リアも食べるですよ!」



 それから、三人にとって、時が過ぎるのは早かった。
 輝炎の一座の催しを見終わり、太陽は南西に傾いている。



 三人は、食事処にて休息を取っていた。
 「だから~、師匠はひどいのですよ~。リアに対しての扱いが~ですね~」
 リアの顔は酷く紅潮し、目尻には涙が溜まっている。
 手には、葡萄酒の入ったジョッキが握られていた。
 「聞いてるのでひゅか!? ミヒャイさん?」
 何故か、ミレイに絡むリアだった。



 更に時が過ぎて、太陽が西に傾きかけた頃。
 「夜になれば、輝炎の一座の催しが又始まるな。あー、俺も見に行きてえわ」
 鎧と武器で身を固めた兵士らしき若い男がぼやく。
 「何言ってんだよ。それはこっちだって同じさ。何が悲しくて、こんな時に門の上から監視してなくちゃいけないんだ」
 同じく、兵士らしき中年の男も不満を言う。

 「うん? 何だ、あれ?」
 若い男の兵士が、何かに気付く。
 男の視線の先には、遠くの方で土煙を上げて、近付いてくる何か。
 「何だ、どうした?」
 中年の兵士が問う。
 「遠くの方から、何かが近付いてきてるみたいなんだが······」
 その言葉を聞いて、中年の兵士は遠くを見据えた。
 すると、顔色が一変する。
 「馬鹿野郎! ありゃ、怪物の群れだ!」
 中年の兵士はそう声を上げると、すぐさま、大きな鐘を鳴らした。

 鐘の音は、王都中に響き渡っていく。


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