神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

十三





 翌日。
 朝食をとり終って、街中に出ようとすると、ミレイとシングは呼び止められる。
 丁度、王宮の出入口の門前での事だった。
 「街中にお出掛けですか?」

 二人に声を掛けてきた人は、垂れ目気味の目の美形で男性だった。
 前髪は左に流しており、揉み上げに相当する毛は肩まである。
 後ろ髪は肩甲骨まであり、一つに束ねていた。

 「そうですが······」シングは質問を肯定した。
 「あんた、誰よ?」ミレイは即座に問い返す。
 「これは失礼致しました。わたくしは、レナード・ジェイ・グリウォン。一応、王国魔法使団おうこくまほうしだんの長をやらせて頂いております」
 レナードは、会釈をしつつ、名乗った。

 「グリウォンさん。それで何か用があるんですよね?」
 シングのその言葉に、レナードは答える。
 「······二方に会わせたい者がいます。昨日さくじつ、聞いたと思いますが、二方の仲間になる者です。案内しますのでこちらへ」
 レナードは、ミレイとシングを促すと歩き出した。

 「それで、仲間になる人は、どんな方なんですか?」
 歩きながら、ふと、疑問に思ったシングは質問する。
 レナードは、一瞬の間をおいて答える。「······それは優秀な者ですよ。只······問題はありますが、優秀です」
 「そうですか······」
 シングは、不安そうな表情を微かに見せる。
 ミレイはミレイで、何か考えているような、表情をしていた。
 「もし、······だったら······?」
 何か心配事でもあるのだろうか?



 「そろそろです」
 レナードは、王宮から少し離れた所にある建物を見て、そう言った。



 程無くして、ミレイとシングは、レナードの案内の元、目的地に着いていた。
 「······ここは?」
 シングの疑問に、レナードは答える。
 「ここは見ての通り、魔法使団の者達が訓練を行う場です」
 シングは周囲を見渡す。
 すると確かに、魔法使団の者達がまとに向かって魔法を放ち、訓練をしていた。

 「それではこちらへ」
 ミレイとシングは、レナードに促されて後を付いていく。
 レナードの向かった先には、一人の女性がいた。
 声を掛ける前に、向こうからこちらを見てくる。
 「あっ、師匠~!」
 その女性から発せられた声は、間の抜けたものだった。

 女性は、十代後半位に見える。
 髪は艶やかなストロベリーブロンドで、右横で結っているサイドテールだ。
 それと髪は、ウェーブがかっており、前髪は下ろしている。

 瞳は、明るく綺麗な緑の色をしていた。
 服装は、白の衿付きシャツ。
 シャツの中央にはフリルがあしらわれており、刺激が強い桃色だ。
 下は、青紫色のタイトスカートを穿いている。
 白色のブーツは膝丈で、折り返し部分の縁取りが桃色。

 魔法使いに相応しい、白色のフード付きローブも羽織っていて、縁取りが青紫の色味だ。
 左手には、杖を持っていた。

 ゆるんだ雰囲気の女性は、駆けて近付いてくる。
 そして止まると、女性はレナードに声を掛ける。
 「師匠、リアに何か用なのですか?」
 「リア······いつも言ってますが、人前では魔法使団長と呼んで下さい」
 「了解です、魔法使団長!」
 リアは、敬礼しつつ明るい声で言った。

 レナードは、こめかみを指先で押さえて、溜め息を吐く。
 「それはそうと、リア。あなたに紹介したい方がいます」
 「もしかして、リアが仲間になる方ですか?」
 リアはレナードに問う。
 「もしかしなくても、そうですよ。あなたが仲間になるのは、この二方です」
 「シングです、よろしくお願いします」

 シングが自己紹介すると、「あたしは、ミ······」とミレイも名乗ろうとするが。
 「リアは、ビビッときました!」
 リアは、突然そう言って、シングに近寄ると手を握る。
 「シングさん!」
 「何ですか······?」
 「リアとお付き合いしましょう!」
 リアの申し出に、シングだけではなく、ミレイ、レナードも目を丸くする。

 「その、なんていうか······」
 シングは、答えづらそうにしていた。
 「リアじゃ、だめなんですか? どこがだめなのか言ってください!」
 リアは、顔を近付ける。
 「······その······こうゆう事は、初対面では駄目だと思うんですが······」
 「だったら······」
 リアはそう言うと、次の瞬間、表情を明るくさせる。
 「初対面でなければ、良いんですね? 分かりました」

 シングは、すっかりリアのペースに呑まれていた。
 すると、ここまでだんまりだったミレイは声を上げる。
 「さっきから聞いてれば、あんた何なのよ! 困ってるじゃない!」
 リアは、その言葉でミレイに気付く。
 一瞬、間が空いた。だが、すぐに言葉を返す。
 「あなたは、誰ですか? それに、これはリアとシングさんの問題です!」

 「あたしは、ミレイ・リィンザーよ! それと、あんた達だけの問題じゃないわ!」
 「何かあるって言うんですか?」
 リアは、ミレイに問う。
 「おおありよ! あたしとこいつは、幼なじみで許嫁いいなずけなんだから!」
 「許嫁······二人が······?」
 リアは、顔を俯かせる。
 「そうよ! 何か文句あるっていうの!?」

 ミレイの言葉に、リアは黙ってしまう。



 暫くして、リアは顔を上げると声を発した。
 「そんなの関係ありません! 恋というのは、障害があって熱く燃えるものです! ねっ、シングさん?」
 「それはそうだけど······僕には······」
 シングが言い切る前に、ミレイが割って入る。
 「なっ!? 関係あるわよ! それより、さっきから近いのよ、あんた!」
 ミレイは、シングの手からリアの手を、引き離そうとする。

 「痛いですっ!」
 リアは声を上げつつ、抵抗した。
 ミレイも更に、力強く二人を離そうとする。
 が、そこでリアの背後にいたレナードが、彼女の頭に向かって手刀をかました。
 「いたっ! 魔法使団長、何するんですか~!」
 リアは、両手で頭を押さえる。
 「リア、あなたは、やり過ぎです」
 レナードは、あきれ顔で溜め息をついた。

 「お二方、申し訳ありません······。わたくしの弟子が······」
 レナードは、頭を下げる。
 「いえ、気にしないで下さい。只、突然の事で驚いただけで」
 シングはそう言うが、表情が苦笑いだ。

 ミレイはミレイで、リアを見据えていた。
 (これだから、嫌な予感がしたのよ······。リア······。あいつ、油断出来ないわ······)
 ミレイは、胸中穏やかでなかった。


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