神聖具と厄災の力を持つ怪物
九
ミレイとシングと他の冒険者達、王国軍の者達は、森の開けた場所で休んでいた。
「力が上がってるだって!?」
突如、シングの大声が響く。
「そうよ。そして、これも今の状態が関係してるとしか思えないわ」
ミレイは一拍おくと、腰の鞘から剣を抜いて話を続ける。
「それと、この剣を見なさい。さっきの戦いで、ひびが入ってるわ。ということで新しいの買うわよ」
「分かったよ。僕も剣を駄目にしたからね。副指揮官さんには、武器を買いに行くって、報告しとくよ」
シングがそう返答した所で、がたいの良い男が会話に入る。
「新しいのを買うのか。武器選びなら、俺に任せな!」
「それならお願いします。えっと······」
シングの言葉の続きを察した、がたいの良い男は名乗る。
「俺の名は、ダークス・ボールドウィン。気軽にダークスって呼んでいいぜ」
「それじゃ、ダークスさん、お願いします」
シングは、手を差し出す。
「おう!」ダークスも手を差し出し、互いに握手を交わすのだった。
再び太陽が南に上がった翌日、一行は近くの都市に着いていた。
「それでは、ミレイとダークスさんと一緒に、武器を選びに行ってきます」
「分かりました。待ち合わせは、この門前にしましょう」
シングの言葉に、副指揮官はそう告げる。
「はい」シングは頷くと、体の向きを変えて歩き出した。
ミレイとダークスも後を追い、共に雑踏の中へ消えていった。
歩いてかなりの時間が経つと、目的の店が視界に入ってくる。
建物の上から下がった、剣と盾の絵が描かれた看板。
間違いない。武器、防具の店だろう。
三人は更に歩き、建物に近付くと中に入っていく。
「どれが良いかしら······?」
ミレイは店内を物色しつつ、呟いた。
「使ってたのと同じような剣で良いんじゃないかな?」
「力が上がったんだから、違う武器も使ってみたいのよ」
シングの言葉に、そう返すミレイ。
「嬢ちゃん、分かるぜ。筋力が上がるとそうゆう気持ちになるよな」
ダークスは、口角を上げて笑う。
「おっさんと、一緒にしないでほしいわ」
「俺はおっさんって歳じゃないぜ。まだ二十五だ。お兄さんと呼べ」
「そう」
ミレイは冷たくあしらう。
ダークスは、唐突に話題を戻そうと口を開く。
「それはそうと、嬢ちゃん。武器なら斧がお勧めだぜ」
ダークスのその言葉に、ミレイは考え込む。「······そうね。斧······良いわね」
ミレイは、斧が飾られている所へ移動していく。
「特にお勧めなのは、中型で両刃の斧······」ダークスが最後まで言い切らない内に、ミレイは一つの斧を手に取ろうとする。
「嬢ちゃん、それは無理があるんじゃないか······?」
「ミレイ、僕もそう思うよ。それは流石に······」
ダークスとシング、二人揃って止めようとした。
当然といえば当然だろう。ミレイが手に取ろうとしているのは、巨大な両刃の斧だからだ。
しかも、持ち手まで金属で出来ているので、重量は相当なものだろう。
しかし、次の瞬間、驚くべき光景を二人は目にする。
ミレイは巨大な斧を、両手で飾り棚から外し、次に片手で持って見せたのだ。
「ちょうど良い重さね」
「ミレイ、大丈夫なのか······?」
シングは、未だに信じられないといった表情をしていた。
「こりゃ、驚いたな。あの斧を持つとはな」ダークスは、感心している。
「決めたわ! これにするわよ!」
「でも、ミレイ······」
「ごちゃごちゃ言わないで! これにするって決めたのよ!」
ミレイの押しの強さに負けたシングは、仕方ないという表情で「わ、分かったよ、ミレイ······」と承諾する。
程無くして、新たな武器、巨大な斧を買って貰ったミレイは、嬉しそうに店を出ていく。
シングとダークスも、後に続いて店を出ていった。
三人は揃って、雑踏の中へ消えていくのだった。
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