神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻





 ミレイとシングと他の冒険者達、王国軍の者達は、森の開けた場所で休んでいた。
 「力が上がってるだって!?」
 突如、シングの大声が響く。
 「そうよ。そして、これも今の状態が関係してるとしか思えないわ」
 ミレイは一拍おくと、腰の鞘から剣を抜いて話を続ける。

 「それと、この剣を見なさい。さっきの戦いで、ひびが入ってるわ。ということで新しいの買うわよ」
 「分かったよ。僕も剣を駄目にしたからね。副指揮官さんには、武器を買いに行くって、報告しとくよ」
 シングがそう返答した所で、がたいの良い男が会話に入る。

 「新しいのを買うのか。武器選びなら、俺に任せな!」
 「それならお願いします。えっと······」
 シングの言葉の続きを察した、がたいの良い男は名乗る。
 「俺の名は、ダークス・ボールドウィン。気軽にダークスって呼んでいいぜ」
 「それじゃ、ダークスさん、お願いします」
 シングは、手を差し出す。
 「おう!」ダークスも手を差し出し、互いに握手を交わすのだった。












 再び太陽が南に上がった翌日、一行は近くの都市に着いていた。
 「それでは、ミレイとダークスさんと一緒に、武器を選びに行ってきます」
 「分かりました。待ち合わせは、この門前にしましょう」
 シングの言葉に、副指揮官はそう告げる。
 「はい」シングは頷くと、体の向きを変えて歩き出した。
 ミレイとダークスも後を追い、共に雑踏の中へ消えていった。

 歩いてかなりの時間が経つと、目的の店が視界に入ってくる。
 建物の上から下がった、剣と盾の絵が描かれた看板。
 間違いない。武器、防具の店だろう。
 三人は更に歩き、建物に近付くと中に入っていく。

 「どれが良いかしら······?」
 ミレイは店内を物色しつつ、呟いた。
 「使ってたのと同じような剣で良いんじゃないかな?」
 「力が上がったんだから、違う武器も使ってみたいのよ」
 シングの言葉に、そう返すミレイ。
 「嬢ちゃん、分かるぜ。筋力が上がるとそうゆう気持ちになるよな」
 ダークスは、口角を上げて笑う。

 「おっさんと、一緒にしないでほしいわ」
 「俺はおっさんって歳じゃないぜ。まだ二十五だ。お兄さんと呼べ」
 「そう」
 ミレイは冷たくあしらう。
 ダークスは、唐突に話題を戻そうと口を開く。
 「それはそうと、嬢ちゃん。武器なら斧がお勧めだぜ」

 ダークスのその言葉に、ミレイは考え込む。「······そうね。斧······良いわね」
 ミレイは、斧が飾られている所へ移動していく。
 「特にお勧めなのは、中型で両刃の斧······」ダークスが最後まで言い切らない内に、ミレイは一つの斧を手に取ろうとする。
 「嬢ちゃん、それは無理があるんじゃないか······?」
 「ミレイ、僕もそう思うよ。それは流石に······」
 ダークスとシング、二人揃って止めようとした。

 当然といえば当然だろう。ミレイが手に取ろうとしているのは、巨大な両刃の斧だからだ。
 しかも、持ち手まで金属で出来ているので、重量は相当なものだろう。

 しかし、次の瞬間、驚くべき光景を二人は目にする。
 ミレイは巨大な斧を、両手で飾り棚から外し、次に片手で持って見せたのだ。
 「ちょうど良い重さね」
 「ミレイ、大丈夫なのか······?」
 シングは、未だに信じられないといった表情をしていた。
 「こりゃ、驚いたな。あの斧を持つとはな」ダークスは、感心している。

 「決めたわ! これにするわよ!」
 「でも、ミレイ······」
 「ごちゃごちゃ言わないで! これにするって決めたのよ!」
 ミレイの押しの強さに負けたシングは、仕方ないという表情で「わ、分かったよ、ミレイ······」と承諾する。

 程無くして、新たな武器、巨大な斧を買って貰ったミレイは、嬉しそうに店を出ていく。
 シングとダークスも、後に続いて店を出ていった。
 三人は揃って、雑踏の中へ消えていくのだった。


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