神聖具と厄災の力を持つ怪物
八
「······分かりました。話しましょう」
ミレイの言葉に、副指揮官は語りだす。
「我がヴィンランド王国が保有する、神聖具について御存じですか?」
副指揮官は、まず質問する。
「そんなの誰でも知ってるわ。救済の杯よね」
「その通りです。そして、ディザスターの厄災の力を打ち消す効能を持つとされています」
「まさかっ!? ミレイのこの状態が、厄災の力によるものだと言いたいんですか!?」察したシングは、声を荒げる。
副指揮官は言いにくそうに口を開く。
「ええ、それしか考えられません。それと、このままの状態で終るとは思えません。治すなら早い方が良い」
「それはつまり······いずれ、人間以外の······になってしまうという事ですか?」
シングは言葉を遠回しにして問う。
副指揮官は、無言でゆっくりと頷いた。
「······そんな」
シングが落胆しているのを見て、ミレイは口を開く。
「何、しょんぼりしてんのよ。要は、救済の杯で治して貰えば良いだけじゃない」
「それはそうだけどさ······。ミレイは恐さとかないのか?」
「そんなの、しょんぼりしてるあんたを見てたら、逆に吹き飛んだわよ」
「何だよ、それ」
シングから、笑いが溢れた。
「副指揮官さん、あたし達も王都にいくわ」
「そうですか。······あともう一つ話したい事、いえ、聞きたい事が······」
副指揮官は、シングに向き直る。
「少年、貴方の持つその槍は神聖具ですね? 槍の刃部分から、光子状の鋭い刺を生み出せるという······。ディザスターの再生能力を無視できる神聖具の一つ······」
副指揮官の問いに、シングは一瞬の間が空くが、答える。
「その事なんですが······」
シングは否定しようとするが、ミレイが割って入る。
「ここまで確信されちゃ、仕方ないわ。正直に話して良いわよ」
ミレイは、どこか諦めた表情だ。
「それではやはり、その槍は······」
副指揮官の言葉の続きを、シングが補足する形で答える。
「はい······神聖具の一つ、鋭光の槍です」
「やはり、そうでしたか······。でも何故、貴方が鋭光の槍を持ってるのですか? それは、半年以上前に滅んだ隣国、ランカスターにあった物······」
「······それは······」
シングが言いづらそうにしていると、副指揮官は口を開く。
「言いづらいのなら、今は良いでしょう。でも、王都に着いたら話して貰います。それで良いですね?」
その言葉に、ミレイとシングは重苦しい雰囲気を醸し出していた。
休憩に入ってかなりの時が経った。誰もが痺れを切らした頃、副指揮官の声が響き渡る。
「これより、近くの都市に戻るため、出発します!」
「やっと、出発ね」
ミレイは待ちくたびれた表情をしていた。
「それじゃ、行こうか」
シングは、座っていたミレイに、手を差し伸べる。
「いいわよ。自分で立てるわ」
「つれないな。ほらっ」
シングは、腕を掴んで立たせる。
「あっ、ちょっと!」
その時、ミレイの表情は何処か、気恥ずかしそうだった。
出発して、結構な時が経った。すると、ミノタウロスと相対する前に、休憩した場所。その辺りが先頭の視界に映る。
「そろそろ、休憩にしま······!」
副指揮官が言い切る前に、突如、周囲の繁みが揺れる音が響いた。
「まさか······怪物か?」シングは鋭光の槍を構える。
「そうみたいね······。しかも、かなりの数よ」ミレイも剣と盾を構えた。
「おいおい、マジかよ······。嬢ちゃん、坊主、やれるか?」
がたいの良い男は、苦笑いをしつつ問う。
「勿論です!」
「当たり前よ!」
「魔法使いは詠唱を! 前衛は後衛を守るように陣形を!」
副指揮官が指示を出すと、魔法使い達が口々に呪文を唱えていく。
程無く詠唱が終り、繁みに向かって魔法が放たれる。
数々の魔法の内、幾つかが命中したようで、怪物の鳴き声が聞こえると共に、何体か後方へ飛ばされていった。
その姿は、人より一回り小さい狼だった。それでも、大きい方だ。
「狼の怪物とはね! さっきのディザスターに比べたら、大した事ないわ!」
「ミレイ、油断は禁物だよ!」
ミレイの言葉に対して、シングは諫める。
「坊主のいう通りだぜ! 戦いは何があるか分からないからな!」
がたいの良い男も、シングに同意した。
「前衛、狼の怪物の攻撃に備えを!」
副指揮官の指示が響き渡ると、残りの狼の怪物が姿を現していく。
次の瞬間、襲い掛かってきた。
狼の怪物だからか、素早い。
あっという間に、距離は詰まる。
シングは鋭光の槍で、狼の怪物の口内を狙って貫く。
すぐさま、絶命した狼の怪物から、槍を引き抜き次に備えた。
ミレイは、衝撃に負けないよう、盾を押し出して防ごうとする。
その盾に、狼の怪物がぶつかると、押し負けるどころか、逆に遠くに飛ばしてしまった。
狼の怪物は、木の幹にぶつかると鳴き声を上げて、動かなくなる。
「この力は······!」ミレイは、自身の力の違和感に気付く。
ミレイが茫然としていると、声が響いた。「嬢ちゃん、危ねえ!」
がたいの良い男が、狼の怪物の頭部を斧で両断する。
「ミレイ、どうしたのさ?」
シングの問いにミレイは、「後で話すわよ!」と返した。
再び、狼の怪物が一斉に襲い掛かってくる。ミレイは、今度は盾で防ぐのではなく、剣を構えた。
攻撃の範囲に、狼の怪物が入る所で、剣を水平に振るっていく。
だが、刃を牙で咬まれ、止められる。はずだった。
ミレイは構わず、剣を力任せに押していく。すると、押し負けた狼の怪物は、牙の力を緩めてしまう。
そのまま、ミレイの振るう剣で口から腹部辺りまでを斬られていき、絶命した。
「やっぱり、力が上がってる······?」
ミレイは、自身の手を見てそう呟いた。
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