魔王から領主にジョブチェンジ!? ~ダンジョンから始める領地経営~

一条おかゆ

第31話 領主、勇者と話し合う

「では話し合いを始めようじゃないか、剣の勇者よ」

 大きな円卓に着くキマドリウス。
 その円卓にはマッキーやダンジョンコア、そして剣の勇者の姿があり、これから4人で話し合いが行われるのだろう。

「いいけど……。はぁ……」

「どうした、そんな大きなため息をついて」

「……まさか元魔王が土下座するとは思わなかったのよ」

「命が助かって、更にお前を話し合いの場に引き摺りだせるなら、それくらい大した事ない」

「プライドとかないの?」

「そりゃもちろんあるけど、それで動きが制限されるくらいなら、捨ててしまった方がいい」

「プライドを捨てるって……あんた本当に悪魔? 見た目も人間っぽいし、本当は人間なんじゃないの?」

「当然だ。100階層で第二形態の片鱗を見せただろ」

「あー。そういえばそうね……」

 剣の勇者はラストダンジョンの100階層で、キマドリウスの第二形態を少しだけ見ている。
 弓の勇者によって変身中に攻撃され、完全には見れなかったが……。

 しかし、それでも頭に二本の角が生え、暗黒のオーラを纏っていたキマドリウスの姿。
 それが人間の姿であるはずが無い。

「ま、あんたが悪魔でも人間でも、どうでもいいわ。私の敵だったら倒すだけだし」


「男らしいな」
「私は女だけどね……。で、話ってなによ」

 これで前置きは終わり。
 本題が始まる。

「ふぅ……いいだろう、話そう。俺の目的はただ一つ――お前を味方にする事だ、剣の勇者」

「ふーん」

「……驚かないんだな」

 いきなり、元魔王が元勇者をスカウトしたら驚きそうなものだ。
 だが剣の勇者は特に驚いた様子も無い。

「あれだけ頑張った勇者をクビにする事に比べたら、こんな驚き程度、大した事無いわよ」

「お前も本当に落ちぶれたな……」

「"も"って何よ! 落ちぶれたのはあんただけよ!」

 剣の勇者は、机に身を乗り出して反論する。

「すまんすまん」

「適当な謝り方ね……ま、いいわ。条件は?」

「……やってくれるのか?」

「条件次第よ」

 (勇者のくせして条件次第で仲間になってくれるんだな……。こいつを誘った俺が言うのもなんだが……こいつ最低だな)

 キマドリウスにも言いたい事はある。
 だが彼はそれを飲み込んだ。

「そうだな……こちらとしては、お前の求めている物を出来るだけ提供しよう」

「本当?」

「本当だ、何が欲しいんだ?」

「大金と美酒と美男子よ」

「お、おう……」

 (こいつ本当に勇者か……?)

 残念ながら本当に勇者なのだ。
 少なくとも実力は。

「で、どうなの? 用意してくれるの?」

「美男子はともかく、大金と美酒はこちらで用意できる。なにせ今の俺は領主だからな」

「ふーん……なら契約成立ね!」

「いいのか? 美男子はおそらく……用意できないぞ」

「金があれば美男子も寄って来るわよ」

「お、おぉ……」

 あまりにも最低すぎる勇者。
 だがそんな彼女は席から立ち上がり、キマドリウスの元へと歩み寄った。

「ど、どうした?」

「え? 決まってるじゃない」

 剣の勇者は右の手の平を差し出す。

「……そういう事か、なら――」

 キマドリウスはその差し出された右手に自身の右手を伸ばす。
 そして――握手をした。

「これで、俺達は仲間だな」

「えぇそうね。よろしく!」

 笑顔で握手をする二人。
 だがキマドリウスはこの時、ある事を知らなかった。
 それは――

「うわあああぁぁぁ!! い、痛ええぇぇ! は、離してくれええぇぇ!!」

 剣の勇者が『握力だけで骨を砕く事の出来る怪力女』、という事だ。

「ご、ごめんっ!!」

 とっさに手を離す剣の勇者。
 だが、もう遅い。

「……っぐ! い、痛ぇよぉ……!」

 キマドリウスは『状態異常:骨折』になってしまった――

 ◆領主生活21日目

 領民:262人
 ダンジョン:5階層

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品