魔王から領主にジョブチェンジ!? ~ダンジョンから始める領地経営~

一条おかゆ

第30話 領主、最下層で待つ


 カツカツカツ、と隠し通路の階段を下り、キマドリウスはダンジョンの最下層である第五階層へとやって来た。
 それもマッキーと共に。

「へー、ここが最深部か」

「そうだ。実は、人間でこの場所に踏み入ったのはお前が始めてだぞ」

「わーお。その栄光と共に、財宝を得られたら最高なんだがな」

「馬鹿! お前には給料をあげてるだろ! それで満足しろ!」

「ハハハ、冗談だよ、じょーだん!」

「ふっ! 上段の構え」

「……え?」

 マッキーは謎のボケに一瞬固まる。
 だが、それはボケの意味が分からなかったから固まった訳じゃない。

 エア上段の構えをした全裸の少女が現れたから、固まったのだ。

「ダンジョンコア、ここは危ないぞ。奥にいろ」

「拒否します。私はダンジョンコア、主様と一心同体ですので」

 セルフ石化を食らったマッキーに見向きもせず、キマドリウスとダンジョンコアは言葉を交わす。

「はぁ……なんでこうも俺の言う事を聞いてくれないんだ」

「聞いていますよちゃんと、耳で」

「いや物理的な話じゃなくてな……」

 いつものように頭を抱えるキマドリウス。
 だが、そんな彼の胸中を全て吹き飛ばすように――

「なんで全裸ああああぁぁぁぁ!!!」

 マッキーの叫び声が響き渡った。

「うおおぉぉ! きゅ、急にどうした!?」

「それはこっちの台詞だよ! なんで全裸幼女がダンジョンに急に現れるんだよ! 俺のエンカウントは大衆小説かっ!!」

「み、見事なセルフツッコミ……!」

「それに、こんな幼女に"主様"呼びって、どういう関係なんだよ!」

「一心同体です」

「話をややこしくするな、ダンジョンコア!」

 慌てたり叫んだりする3人。
 その声は五階層の最奥に響き渡る。

 そしてそんな彼らの元に、

「何してんのよ、あんた達」

 剣の勇者が現れた。

 普通ならその存在を気にせずにはいられないだろう。
 だが、彼らは剣の勇者の存在に気付いてすらいない。

「キマ……お前ロリコンの変態だったんだな」

「違う! 俺が望んで全裸にしている訳じゃない!」

「そんなっ……! 主様……っ!」

「それは何のリアクションなんだよ! 俺はいつも服を着ろと言ってたよな!」

「記憶に御座いません」

「都合の良い政治家かっ!」

 弾む3人の会話。
 そして置いてけぼりにされる剣の勇者。

 その状況に、剣の勇者が耐えられるはずが無かった。

「うおおおぉぉぉ!!」

 剣の勇者はおもむろに剣を抜き、それを高く掲げる。
 するとその剣は光を発し、淡い輝きを刀身に纏っていく。

 これから放たれるのはおそらく、剣の勇者を剣の勇者たらしめる強力な一撃。
 巨龍さえ一撃のもとに葬ることの出来る、最強の斬撃だ。

 そんな攻撃の直前にしてようやく、3人は剣の勇者の存在に気が付いた。

「……え? 待て待て待て!! ちょ、タンマタンマ!」

「待て? あぁ、『攻撃して欲しい』のフリね」

「いや、そのりくつはおかしい!」

「私はおかしくないわ。おかしいのは全裸の女の子と楽しそうに話してて、私の事を無視するあんた達よ」

「マッキーは兎も角、俺は楽しそうじゃなかっただろ……」

「別に俺も楽しんでないからな!」

 絶望的な状況のはずなのに、どこか気の抜けた二人。
 だが、ダンジョンコアは違う。

「で、主様、マッキー。この状況をどうやって切り抜けるのでしょうか? このまま、あのあばずれの攻撃を許してしまえば、確実に三人共死んでしまいますよ」

「明らかに年上なのに、俺は呼び捨てなんだな……」

「誰があばずれよ!!」

 ツッコむマッキーと剣の勇者。
 しかし、ダンジョンコアの視線の先はキマドリウスのみに注がれている。
 始めから彼以外の意見など聞く気はないのだろう。

「主様。あのあばずれが攻撃してこない内に、どうかご決断を」

「……仕方ない、ダンジョンコア。あの手を使うしかあるまい」

「あの手?」

「あぁ、俺の最終奥義だ」

 最終奥義――その言葉に剣の勇者の顔が一層険しくなる。

 腐っても彼は元魔王だ。
 低レベルでも潜在能力は高く、隠された力の一つや二つ持っていてもおかしくない。
 だからキマドリウスが一歩、一歩、と近づくにつれて、剣を握る手が強くなる。

「……じゃあ見せてもらおうかしら、魔王の最終奥義とやらを」

「フハハ! 剣の勇者、後悔してからでは遅いぞ」

 キマドリウスは"無い"マントをはためかせる。
 そして――

「すいませんでしたああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 土下座した。

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