魔王から領主にジョブチェンジ!? ~ダンジョンから始める領地経営~

一条おかゆ

第23話 勇者、冒険者になる


「おいおい、あれルイズス・リヒテナウアーだろ」
「本当だ! 剣の勇者じゃん!」

 冒険者ギルドは、突然現れた一人の少女によって騒めきに包まれる。

 赤い短髪に、腰に佩いた煌びやかな剣。
 彼女は――剣の勇者だ。

「冒険者になりにきたのか?」

「やっぱ勇者をクビになったって噂、本当だったんだな」

「俺始めて見るけど、結構可愛いんだな」

「でも中身が大分やばいらしいぜ。じゃなきゃ今頃どこかの貴族に迫られてるだろ」

「いや、ただの戦闘狂だから断ってるんじゃねぇの?」

 失礼な冒険者達。
 その声が、剣の勇者の耳に届いていないはずが無い。

 (私だってイケメン貴族と仲良くなりたわよ……!)

 静かに拳を握りしめる剣の勇者。
 だが「問題を起こすまい」と聞こえないふりをして、ギルドのカウンターに向かった。

「すみません、冒険者登録をしに来ました」

「えええ!? 剣の勇者様!? な、なんでここに!?」

「いや冒険者登録をしに……」

「ちょ、ちょっと待ってください! 上にかけ合うので!!」

 受付嬢はぱたぱたと走り去る。

「ただ登録しに来ただけなのに……」

 剣の勇者は面倒そうに、大きなため息をつく。
 そして冒険者達の騒めきを聞きながら、待つ事数十秒、

「すみません! 剣の勇者様ですね!」

 ダンディーおじさまが走ってカウンターにやって来た。

 残念ながら剣の勇者のストライクゾーンでは無いが、若い頃はさぞかっこよかったのだろう。
 だから剣の勇者も、目が合わせられない。

「そ、そうですっ」

「おぉ、そうですか! でも何故あなたが冒険者に?」

「え、えっと……誰かのために戦いたいなって……」

 当然、嘘だ。
 彼女はただ金が欲しいだけだ。
 だが、

「なんて良い心がけなんでしょうか! 流石勇者様ですね!」

「えへへ……」

 (やべぇ……! 心がいてぇ……!)

「では早速、こちらの用紙に記入して頂いても宜しいでしょうか?」

「は、はい」

 剣の勇者はペンと用紙を受け取り、たどたどしい手捌きで用紙に記入していく。
 そして記入を終え、用紙をおじさんに渡した。

「はい。ではこちらが冒険者登録票になります」

 おじさんは用紙と交換する形で、一枚のカードを渡す。
 これで冒険者登録は終わりのようだ。

「……こんなすぐ終わるんもんなんですか?」

「いえ、剣の勇者様だから早いのですよ」

「あぁ! ありがとうございます!」

「依頼や、ダンジョンの情報についてはあいつらのボードに記載しております。依頼を受ける場合は、こちらのカウンターに言って頂ければ受諾できますので」

「はい!」

「では、これから頑張ってくださいね」

「はい!」

 剣の勇者は背を向け、ボードの方に歩いていく。
 そしてボードの前に着くなり、ダンジョンの情報を見てみた。

 依頼の方に見向きもしなかったのは、やはり稼ぎ方の差だろう。
 依頼だと貰える分は限られてくるが、ダンジョンなら完全歩合制で、実力に応じた稼ぎが得られる。
 ……意外とその辺りは考えているようだ。

「……うーん」

 そしてしばらくダンジョンの情報とにらめっこする事、数分。

「これとかどうかな?」

 剣の勇者は一つのダンジョンが気になった。

 そのダンジョンが出来たのは最近。
 攻略に向かった冒険者も5組程度。
 だが、財宝が大量に眠っている可能性が高く、最近できたダンジョンの中では注目株のようだ。

「……よし、決めた! まずはここの攻略ね!」

 剣の勇者はダンジョンの位置を確認し、冒険者ギルドから出て行った。
 早速でも出立する気なのだろう。

 そして彼女が出て行った後。
 ボードの周囲の冒険者達は「勇者ともあろう者が選んだダンジョンはどこなのか」と、そのダンジョンの情報について見てみた。
 すると、そこにはとある一つの領地の名前が書かれていた。

 その名は――ダイーオ。
 最近領主が変わったばかりの、辺境だ。

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