魔王から領主にジョブチェンジ!? ~ダンジョンから始める領地経営~

一条おかゆ

第8話 領主、冒険者に会う

 
 ――ガチャッ!

 とキマドリウスは宿屋の扉を開いた。

「冒険者はどこだッ!」

 そしてキマドリウスは声を荒げて呼びかけた。
 すると、その声に反応するように、一階のテーブルで酒を飲んでいた4人組が反応した。

「ん? 俺達に何か用か?」

 その4人組の内、一人は盾を持った重装備。
 一人は短剣を持った軽装。
 もう一人は弓を持った軽装。
 最後の一人はローブを着た魔術師だ。

 この服装からも分かる。
 彼らは明らかに冒険者だ。

 (一応『ステータス鑑定』してみるか)

 キマドリウスは短剣を持った軽装の冒険者、黄色い髪の人間を鑑定してみた。

 ――――――――――

【名前】マッキー・プルチネフ
【種族】人間
【現職業】冒険者LV???
【個人LV】???

【職歴】
 ???

【職業スキル】
 ???

【個人スキル】
 ???

 ――――――――――

 すると、前回アオイを鑑定した時よりも明らかに見れる項目が増えていた。
 おそらく、領主の職業レベルが上がったからだろう。

 (やはり冒険者だな)

「君たちが冒険者か!」

「あぁ、そうだが。誰だあんた」

「私はキマ。この領地の領主だ」

「りょ、領主様!? な、なんでここに!?」

 驚くのも当然だ。
 いきなり領主が宿屋に押しかけてくる事なんてまず有り得ない。

 だが彼には冒険者に聞かなければ、そして言わなければならない事があった。

「君達、どこでこのダンジョンの存在を知ったんだ?」

 彼はまだダンジョンの存在を広めるつもりはなかった。

 何故なら、この宿屋はまだ完成していない。
 一階部分の食堂は出来ているが、まだ部屋の方は出来上がってるとは言い難い。
 それでは金も、そして税も入りづらい。

 だからダンジョンについては、この宿屋が完成してから近隣の領地や商人なりに伝えるつもりだったのだ。

「いやー俺達は元々このダイーオを超えた、ザキーミャのダンジョンに行くつもりだったんですよ」

「ほうほう」

「でもここの領民に『ダンジョンが最近できた』って言われて……」

「ほう、それで来たのか……」

 完全に予想外だ。
 だが、許容できる範囲だ。

「まぁいい。ダンジョンに入るのを認めよう」

「おぉ、良かった! ありがとうございます、領主様!」

「気にするな。だが……ほれ」

 キマドリウスは手の平を突き出した。
 まるで何かをねだるかのように。

「ん? 何でしょうか?」

「分からんのか? 金だよ、金。K・A・N・E」

 キマドリウスは可愛くウィンクをした。
 全く可愛くないが。

「えええええええ!? 金とるんですか!?」

「当然だ、ここは俺の領地だぞ。ならダンジョンに税をかけるのも俺の自由だろ」

「ま、まぁそうですけど……い、いくらなんですか?」

 冒険者の一人はしぶしぶと受け入れた。
 目の前に未踏のダンジョンがあるとなれば、仕方の無い事だろう。

「一人銅貨一枚でいい」

「あぁ、そこは意外と良心的なんですね」

「誰も来なくなっては困るからな」

「分かりましたよ……はい」

 冒険者は4枚の銅貨をキマドリウスへと渡した。

「感謝する。では、ダンジョンを楽しんでくれ!」

「そんなアトラクションみたいに言われても……」

 突っこむ冒険者を尻目にキマドリウスは宿屋から出た。
 すると、宿屋の前で、

「はぁはぁ……領主様、意外と足は速いんですね」

「はぁはぁ……私は生憎と、脳筋は嫌いですよ……」

 追いかけてきたアオイとホビットが息を切らしていた。

「アオイさん、ちょうどよかった。……はい、これ」

 キマドリウスは銅貨4枚をアオイに渡した。

「このお金、どうしたんですか?」

「冒険者から徴収したんだよ」

「……? 何故その様な事を? 他の領地のダンジョンではあまりやっていないと思いますが……」

 周辺の領地では、冒険者から金を取っていない。
 その方が人も来るし、結果として潤うからであろう。

「だってこれがあれば、領民の税金が少なくて済むだろ」

 まばゆいばかりのキマドリウスの笑顔。
 それは元魔王のものとはとても思えない。

「なっ!? ……やはりあなたは前領主様が見込んだだけはありますね」

「りょ、領主さまあぁー!!」

 ホビットは目じりに涙を浮かべながら、キマドリウスに抱き着いた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 急にどうした!?」

「僕、がんどうじまじだ!!」

「わかった!! わかったから、仕立ての良いこの服に鼻水を付けないでくれえええぇぇぇ!!」

「うえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」

「うわあああああぁぁぁ!!!」

 話を聞かずにわんわんと泣くホビット。
 キマドリウスは必死の思いで彼を引きはがした。

「ぜぇ、ぜぇ……。気持ちはありがたいのだが、今から行かなければいけない所があるんだ」

 走った時よりも明らかに疲れている。
 肉体的にも、精神的にも。

「ご、ごめんなさいっ!」

「いや、いいんだ。じゃあアオイさん、あとの事は頼んだぞ」

「はい」

 キマドリウスは"無い"マントをはためかせる仕草をしながら、宿屋とダンジョンから離れた森の方へと歩き始めた。

 (ゴブリン達だけではあの冒険者達は倒せまい。……俺が手伝わなければば)

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品