魔王から領主にジョブチェンジ!? ~ダンジョンから始める領地経営~

一条おかゆ

第4話 領主、これからを考える


「にしても、これからどうするおつもりなのでしょうか?」

「うーん、どうしようか」

 キマドリウスはアオイの作った夕飯を食べながら、今後の事を考えた。

 (正直俺は目立ちたくない。だから何もしない領主として、スローライフを送るのもいいだろう)

 (だが老人の厚意で、俺は息を長らえている……なので出来る事なら発展させてあげたい。それがせめてもの恩返しだろう)

「……出来る事なら発展させたいかな」

「領主就任二日目にしては良い心がけですね」

「ありがとうアオイさん。……でもどうすればいいか分からないな」

 彼は元々ダンジョンを根城にしていた魔王だ。
 ダンジョンを発展させた経験はあっても、領地を発展させた経験は無い。

「何か領主になる前の知識は活かせないのでしょうか?」

「うーん……活かせない訳じゃないんだけど……」

 キマドリウスは悩んだ。

 彼の頭の中に領地を発展させるアイデアが全く無い、というわけじゃない。
 しかしそれを実現すると、途端に元魔王である事がバレるリスクが高くなる。
 だからそれを行うか行わないかで、大いに悩んだ。

「はぁ……やはり何か訳アリのようですね」

「……」

「ではそんなあなたに、とある宗教の言葉を送りましょう。『自分のことだけ考えている人間は自分である資格すらない』」

「……どういう意味なんだ?」

「"自己中は〇ね"という意味です」

「ぶっ!!」

 キマドリウスは吹いてしまった。

「すみません、汚い言葉を使ってしまいました」

「絶対すまないと思ってないよな……」

「はい」

「はっきり言うねぇ!」

 (……アオイさんって意外と変な人なんだな……。でも……)

「アオイさんの言う事も一理ある。飯を貰って助けてもらったのに恩を全く返さないなんて……確かに自分である資格なんてない」

「分かれば宜しいのです」

 どっちが目上か分からない。
 だが精神的にはアオイの方が上であったようだ。

「で、どうするおつもりなのですか領主様?」

「俺はこの領地に――ダンジョンを作る!」

 『ダンジョンを作る』
 それこそが彼の作戦。

 ダンジョンには、財宝や立身出世を目的に冒険者が多く集まり、そんな彼らを目的に商人も集まる。
 そして経済が発展し、町が富む。
 実際にダンジョンが出来た事によって豊かになった町というのは存在する。

 だがダンジョンというものは強力なモンスターの根城であったり、それこそ魔王城のようなものであったりして、決して人為的に作られるものじゃない。
 というか人間には作れない。
 ――そう、人間には。

「分かりました」

「……何も言わないんだな」

「いちメイドごときが口を挟む事ではありませんしね」

 アオイは素っ気なく、そう答えた。

「そう。ならそんなメイドさんに一つお願いがしたいんだけど」

「何でしょうか?」

「一週間後に、俺が指定した場所に来るように領民に伝えて欲しいんだ」

「承りました」

 アオイは深々と頭を下げた。
 キマドリウスはそんな彼女を見て、早速行動に移そうと席を立った。

「……あっ、そうだアオイさん」

「何でしょうか?」

「さっきの言葉って、何て宗教の言葉なんだ?」

 彼にも少し気になる所があるのだろう。
 キマドリウスは宗教の名を尋ねた。

「יהדותです」

「……ん!?」

 聞き慣れない言葉にキマドリウスの頭が一瞬停止する。

「ですからיהדותです。あっ、そろそろ業務時間が終わりますね、失礼します」

 アオイはキマドリウスよりも先に部屋から出て行こうとする。

「ちょっと! 謎を残さないでよ!!」

「これ以上は時間外労働になりますし、労基にハラスメントされたって訴えますよ」

 (労基? ハラスメント?)

「……え、えっと」

 言葉の意味が分からず、キマドリウスは戸惑った。
 そしてその間に、アオイは部屋から出て行った。

「……人間の間での流行り、なのかな……?」

 精神的にも肉体的にも取り残されていく寂しさを感じながら、キマドリウスはとぼとぼと部屋から出て行った。

 ◆領主生活2日目

 領民:252人
 ダンジョン:0階層

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