お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

失いたくない。






 「陽菜、起きて。帰るよ」

 りょうちゃんと係の仕事を終えた私は私の隣で眠っていた私の大切な彼女の頭を撫でながら起きるように声かけを行う。何回か声をかけると眠たそうに目を擦りながら「は〜い」と返事をして頭を上げて椅子から立ちあがろうとする。

 「大丈夫?」
 「えへへ。りっちゃんさんが受け止めてくれたから大丈夫です。ありがとうございます」

 椅子から立ちあがろうとした陽菜が急に倒れ込みそうになったので、私は慌てて手を伸ばして陽菜を受け止めた。ただ寝起きでフラフラしていただけなのか、それとも身体が弱っているのか、私にはわからないけど、陽菜のことが大切な私は悪いことばかりを考えてしまう。

 「えへへ。起きたばかりだから足がふらついちゃいました。心配おかけしてごめんなさい。本当に大丈夫ですから安心してください。陽菜はずっと、りっちゃんさんの側にいますから…そんな顔しないでください」

 笑顔で陽菜にそう言われると、本当に大丈夫なのか。とこれ以上聞くことはできない。

 「さ、帰りましょう。りっちゃんさん、今日の夜ご飯なんですか?」
 「はぁ…陽菜が好きなもの作ってあげる。何がいい?」
 「りっちゃんさんが作ってくれたものならなんでも大好きです」

 笑顔で即答された。なんでも大好き。か…料理を作る側としてはめちゃくちゃ嬉しいけど、リクエストがないとちょっと困る。何にしようかな。と考えながらホールの鍵を閉めて陽菜とりょうちゃんと一緒にホールを出る。

 「りょうちゃん、りっちゃん、陽菜ちゃん、お疲れ様」

 ホールの鍵を返してから3人で歩いているとまゆちゃんに声をかけられた。きっとりょうちゃんを迎えに来たのだろう。お疲れ様。と返事をすると、まゆちゃんが送ってくけど乗ってく?と聞いてくれた。

 「陽菜、どうする?」
 「……今日はりっちゃんさんと2人で帰りたいです」
 「そっか、まゆちゃん、ごめんね。今日は陽菜と歩いて帰るよ」
 「はーい。じゃあ、またね。りょうちゃん、帰ろ」
 「うん」

 手を繋いで駐車場の方に向かって歩いていくりょうちゃんとまゆちゃんを見送りながら私は陽菜と手を繋いで歩き始めた。

 「りっちゃんさん、ごめんなさい…ちょっと休んでいいですか?」
 「え、あ、うん。いいよ」

 歩き始めてからすぐに陽菜が息を切らして私に言う。大学内に設置されていたベンチに陽菜を座らせると陽菜は苦しそうな表情をしていた。

 「陽菜、大丈夫?」
 「あはは。大丈夫ですよ。りっちゃんさんは心配性ですね。この前の診察も異常なかったじゃないですか。大丈夫ですよ。ちょっと今日は楽器吹きすぎて疲れちゃっただけです」
 「そっか…少し休んだら歩けそう?おんぶしようか?」
 「さすがにおんぶは申し訳ないから大丈夫です…」

 本当は、陽菜が嘘をついているのは知っている。まゆちゃんから相談されていたから…陽菜が必要最低限しか楽器を吹こうとしていないことを……あれだけ大好きな楽器を、陽菜は……

 「もう大丈夫です。ごめんなさい……」
 
 しばらく休むと陽菜はそう言って立ち上がる。きっと、まゆちゃんに送ってもらおうとしなかったのは…まゆちゃんの車でこうなるかもしれないとわかっていたからなのでは?何もしてないのに息を切らして、私に何か隠してることがバレるのが嫌なのでは?とか、よくないことをいっぱい想像してしまう私は弱いのだろうか……

 どうすればいいの?無理だよ。心配しないなんて…だって、私は……大好きなあなたを失いたくないんだもん。ずっと、これから先まで一生、あなたに側にいて欲しいんだもん。

 不安を感じながら私は陽菜と手を繋いで歩き始める。ふらふらな陽菜の足取りを私はどんな表情で見つめていたのだろうか……






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