お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

憧れの形






 「春ちゃん……」

 私の背後でずっと、私を見守ってくれていたりょうたが声を出す。本当に、私を心配してくれているのが伝わってきた。

 この状況、私、完全に悪者だよね。お兄ちゃんの恋の邪魔をして、憧れてきた人の幸せを勝手に否定して、勝手に壊そうとして、お兄ちゃんと憧れの人の大切な人たちを傷つけて…私、ほんと、何やってんだろ。

 そう思った瞬間、涙が溢れ出てきた。私は逃げるようにその場から立ち去る。嫌だもん。お兄ちゃんにも春香ちゃんにもまゆちゃんにもゆいさんにも迷惑かけたのに、りょうたにまで迷惑かけたくないもん。私が泣いてたらりょうた、困っちゃう。嫌だ。りょうたにだけは…迷惑かけたくない。

 そう思って全力で逃げた。今は、1人になりたかった。自分でも信じられないくらい凄いスピードで走って、私は1人になった。1人になれたから思いっきり泣いた。

 わかってるもん。春香ちゃんが、今のままがいい。って思ってることくらい……でも、私は、自分の勝手な理想を春香ちゃんに押し付けようとして……

 「春ちゃん…」

 私がめちゃくちゃ泣いていると、りょうたが息を切らしながら私の隣にやってきて私の手を優しく握ってくれる。

 「大丈夫?」
 「大丈夫じゃない。なんで来たの!?来ないでよ。泣いてりょうたに迷惑かけたくないの…」
 「だったら急にいなくならないでよ。心配するじゃん」

 なんだ…結局、心配かけさせて、迷惑かけちゃったのか…私、どうしようもないなぁ。

 「えっとさ、りょうさんとお姉ちゃんってすっごくお似合いだよね。昔から」
 「は?あんなゴミみたいな兄貴に春香ちゃんはもったいないわ。変なこと言わんで」
 「え、あ、うん。ごめん」

 ほんと、春香ちゃんはなんであんなやつを好きになったのだろう。春香ちゃんみたいに優しくて家庭的でかわいい人なら男なんて選び放題のはずなのにさ……でも……

 「まあ、お似合い。だよね。お兄ちゃんも春香ちゃんもお互いをすごく大切にしてるから……」

 昔から、見てきたからこれだけは断言できる。お兄ちゃんにとって春香ちゃんは一番大切で、春香ちゃんにとってお兄ちゃんは一番大切だった。

 「春ちゃんはさ、僕と、あの2人みたいな関係になりたいの?」
 「それは……」
 「なれないよ」
 「え?」
 「僕と春ちゃんはりょうさんとお姉ちゃんみたいになれないよ。僕は僕で春ちゃんは春ちゃんだから。りょうさんとお姉ちゃんみたいにはなれない。春ちゃんはさ、僕と、りょうさんとお姉ちゃんみたいな関係になりたいから僕を好きになったの?」
 「ち、違う…」

 私が、りょうたを好きになったのは…りょうたが1人じゃ何もできないから、私が一緒にいてあげよう。って思ったのと、優しくて、私の側にいてくれるりょうたの存在が、私にとっては欠かせないものだったから……

 「僕はね。春ちゃんのこと好き。わがままだけど、優しくて笑顔がかわいくてちょっとマヌケだけど頼りになるところが好き。僕は春ちゃんと一緒に僕たちにしかできない恋がしたい。りょうさんもお姉ちゃんも関係ない。僕と春ちゃんにしかできない恋がしたい」

 憧れって…なんなんだろう。そう、思ってしまう。私も、りょうたと、私にしかできない恋がしたい。そう、思ったから。私とりょうたの恋にお兄ちゃんと春香ちゃんは関係ない。そう、思ったから。

 「春ちゃん、謝ろう。りょうさんとお姉ちゃんとまゆさんとゆいさんに」
 「私、春香ちゃんにいっぱい酷いこと言っちゃったよ。まゆちゃんとゆいさんにも……」
 「僕も謝るからさ、一緒に謝ろう」
 「ありがと」

 意地を張るのはいい加減やめないと…私とりょうたには私とりょうたの物語があって、お兄ちゃんと春香ちゃん、まゆちゃん、ゆいさんには4人の物語がある。

 それをようやく、理解したから。理解できたから。






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