お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
嫌な予感
 「りょうちゃん、ごめんね」
 部屋に入った私はそう呟きながら、私のスマホを床に置いてりょうちゃんのスマホで電話に出た。
 「もしもし?りょう?」
 「おばさん。お久しぶりです。春香です」
 懐かしい声に私が答えると、驚いたからか静寂が訪れた。先程聞いたりょうちゃんのお母さんの声は、いつもよりも暗い感じがした。
 「は、春香ちゃん、久しぶり。元気にしてる?」
 「はい。おかげさまでりょうちゃんと毎日楽しく暮らしてます」
 「え、えっと、春香ちゃん、お母さんから電話来なかった?」
 「ええ、きてます。でも、こちらを優先させていただきました」
 「えっと、りょうは何をしてるの?」
 「ちょっと大事な用があって、今はお電話に出られないので、何かありましたら私からりょうちゃんに伝えますよ」
 私がそう言うとりょうちゃんのお母さんは明らかに困った様子をする。
 「春ちゃんから、何か言われてたら気にしないでください。私は…今、すごく幸せですから。私もりょうちゃんもまゆちゃんもゆいちゃんも本当に幸せだから邪魔しないでください」
 「そ、そう……」
 私が珍しく強く言ったからかりょうちゃんのお母さんは何も言えないようだった。
 「えっと、また、かけなおすことにするわ。りょうとまゆちゃんによろしく言っておいてね。春香ちゃんはお母さんからの電話に出てあげてちょうだい」
 「わかりました。失礼します」
 私はりょうちゃんのお母さんとの電話を切り、息を整えてから私のスマホを手に持つ。なんとなく、こっちの方から嫌な予感がした。
 りょうちゃんのお母さんは…たぶん、心配してくれていただけ。問題は…こっちだろう。正直、助かった。私、りょうちゃんのお母さんには強く言えないから。相手が自分の親なら遠慮なく言える。あの旅行から数日、いきなりの電話、不穏な気配しかないが、何を言われても、私はりょうちゃんとまゆちゃんとゆいちゃん、みんなとこれからも幸せでいる。その邪魔をするなら親だって許さない。最悪、縁を切ってでも私はみんなと一緒にいる。そう決意を固めてから電話に出る。
 「は、春香ちゃん…遅いね…」
 春香が電話をするために部屋を出てから1時間ほど経過した。たしかに、遅い……
 「ちょっとまゆ、様子見てくるね。りょうちゃんはゆいちゃんの側にいてあげてね」
 「うん。ごめんね。何かあったらすぐに呼んで」
 「うん。わかった」
 僕に返事をしてまゆはリビングを出て行く。不安すぎておかしくなりそうだがまだぐっすり眠っているゆいちゃんが僕をギュッと抱きしめてくれているおかげで少しだけ冷静でいられた。
 だが、一瞬で不安が増してしまう。ドタバタと音を立ててリビングに戻ってきたまゆ、まゆが走る音を聞いて、ゆいちゃんも目を覚ましてしまう。
 「りょうちゃん、春香ちゃんがいない」
 「え…」
 「これ、りょうちゃんのだよね?」
 「うん」
 まゆからスマホを受け取って僕はスマホを確認すると春香から数十分前にメッセージが届いていた。
 「両親が会いに来てるから少しだけ会ってお話してくるね。りょうちゃんはまゆちゃんとゆいちゃんと一緒にいてあげて」
 春香からのメッセージを確認する。僕は慌てて家を出る準備をして、アパートを出る。
 「まゆ、ゆいちゃんと一緒に待ってて」
 「え、あ、うん」
 まゆにゆいちゃんと一緒にいるように伝えてアパートを出る。春香がどこにいるかわからない。でも、嫌な予感がしたから。春香を探す。
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