お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

タスケテ






 まゆを探しに旅館から出るとスマホが震えた。まゆからかもしれないし春香からかもしれない。と思いスマホを確認するとりょうた君からだった。

 「もしもし、りょうた君?」
 「りょうさん、いきなりすみません。今、大丈夫ですか?」
 「うん。大丈夫だよ。さっきはごめんね。春は大丈夫?」

 ずっと、大好きで憧れてのお姉ちゃんの様な感じで慕っていた春香にあんな風に言われて、春も傷ついただろう。

 「今までずっと僕に抱きついて泣いてましたよ…今は少しだけ落ち着いて、泣き疲れたからか僕の膝を枕にして、ぐっすり寝てます」
 「そっか…迷惑かけてごめんね」
 「いえいえ、春ちゃんのことは任せてください。それより、お姉ちゃんは大丈夫ですか?あんなお姉ちゃん、初めて見たので…あと、まゆさんとゆいさんも大丈夫ですか?りょうさんとお姉ちゃんが出て行った後、春ちゃん、部屋から出て行って…まゆさんに言いたいこと言ってやった。って言って戻って来たので……」

 春香に怒られてまゆに八つ当たりのようなことをした件については、本気で許せないが、とりあえず、春が少しだけ落ち着いているようで安心する。僕は、りょうたくんと春の部屋を出てから起こった出来事をりょうたくんに話した。

 「春ちゃんのせいでご迷惑をおかけしてごめんなさい」
 「りょうたくんは何も悪くないから謝らないでいいよ。りょうたくん、僕は今、春香とまゆとゆいちゃんで手がいっぱいなんだ。妹の心配なんてしてる暇はない。だから、春のこと、任せていいかな?春香が言ってた通り、バカでワガママで常識知らずで自分勝手な出来の悪い妹だけど…りょうたくんにしか、頼めないから。春のこと、お願いします」
 「お姉ちゃんが言っていたことにだいぶ付け足しましたね…春ちゃんは僕にはもったいないくらい素敵な僕の彼女です。お姉ちゃんに何て言われても関係ありません。だから、春ちゃんは僕に任せてください。その代わり、僕も春ちゃんで手一杯なので、お姉ちゃんのこと、お願いします。大切なお姉ちゃんだから…まゆさんとゆいさんと、同じくらい大切にしてあげてください」
 「うん。わかってるよ。りょうたくん、とりあえず、この後、ここでは一切合流しない。もし、春と春香とまゆとゆいちゃんを合わすとしても、時間を空けて、みんなが落ち着いてから。それでいい?」
 「はい」

 たぶん、この旅行中に会うことはもうないだろう。だから、最後に…

 「春のこと、これからもお願いします。帰る時とか、気をつけて帰るんだよ」
 「はい。こちらからも、お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」
 「うん。任せて」

 お互い、大切な姉と妹を、兄のような存在と弟のような存在に託して、電話を切った。電話を切る頃に、目的地に到着する。



 勢いで部屋を飛び出したのはいいけど、初めて来た場所でどこに行けばいいのかわからなかった。いっぱい泣くと思った。だから、旅館の中は無理だと思った。旅館の中で1人で泣いてるの恥ずかしいから…車で泣こうと思ったけど、勢いで飛び出て来たから車の鍵部屋に忘れてるし……

 だから、さっき、まゆの大好きな人と手を繋いで歩いた場所に来ていた。人通りの少ない場所だから、誰にも見られずに、1人で泣けると思ったから。

 「まゆ、やっぱりここにいた…」

 1人で泣き始めて、辛くて、辛くて、心の中でタスケテって思った瞬間に、背後から声をかけられた。

 「春香ちゃん…は?」
 「大丈夫。さっきまで一緒にいたよ。でも、1人にしてって言われたからまゆを探しに来た。ごめんね。まゆの側にいてあげられなくて」

 そう言って、まゆを背後から優しく抱きしめてくれる。そうしてくれるだけで、すごく落ち着けてすごく安心できた。






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