お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

ナキムシ






 「春香、泣かないで…」

 あれから、ずっと泣き続けている春香を連れて、旅館を出て少し歩いた場所にあるベンチに春香と並んで座る。こうやって泣き続ける春香を連れて、まゆとゆいちゃんのところに戻って2人に心配かけてしまうのはよくないと思う。まゆとゆいちゃんに春香の心配までさせてしまったら…本当に余裕がなくなってしまうだろうから…

 「りょうちゃん…ごめん。少し…1人にしてくれないかな?」
 「わかった。じゃあ、先に部屋に戻ってるね。でも、約束して…1人じゃどうしようもならないくらい辛かったら、必ず僕を呼んで…春香の辛さをなんとかしてあげられるわけじゃないけど…春香の隣にいることはできるから。話を聞くくらいできるから…春香の手が震えてたら震えないように包んであげることはできるから…春香が泣いてたら、抱きしめて慰めてあげることはできるから…」
 「ありがとう。そんなにいっぱい…いろいろしてくれるなら…安定できる…ごめんね…」
 「いいよ。じゃあ、先に戻ってるね」
 「うん」

 春香の望み通り、僕は先に部屋に戻る。ああは言ったけど、あまり心配はしていない。春香は強い子で、優しい子で、すごく頼りになる子だってわかってるから。きっと、春香なら大丈夫。もし、大丈夫じゃなくても、春香ならきっと頼ってくれると思ったから。問題は………



 「りょうくん…だ、大丈夫…だった?え、えっと…春香ちゃんは?」

 部屋に戻るとゆいちゃんが僕を出迎えてくれた既に涙目になっていて、まゆの姿が見当たらない。

 「春香はちょっと1人でお散歩したい。って…ゆいちゃんは大丈夫?えっと、まゆはどこにいるの?」

 僕がそう尋ねるとゆいちゃんは僕に抱きついてきて泣き始めてしまう。何かあった。そう、確信した。

 「ゆいちゃん、落ち着いて…何かあったの?」
 「え、えっと…さっきね。春ちゃんから…まゆちゃんに電話がかかってきて…まゆちゃん、春ちゃんにめちゃくちゃ言われて…その、電話終わったら…部屋から出て行って…わ、私…追いかけようとしたけど…来ないで。ってまゆちゃんに言われて…どうしたらいいかわからなくて…ずっと、りょうくんと春香ちゃんとまゆちゃんが帰ってくるの待ってたの」

 泣きながら、そう説明してくれるゆいちゃんを抱きしめる。きっと、すごく、辛かっただろう。だから、優しく、ゆいちゃんが安心できるように、ゆいちゃんに声をかける。

 「ゆいちゃん。大丈夫だよ。辛かったよね。待っててくれてありがとう。ゆいちゃんがいたから、状況もわかったし、ゆいちゃんを見れてちょっと落ち着けたよ。ありがとう。ゆいちゃん、今から、まゆを探しに行ってくるね。もう少ししたら、春香が戻ってくるだろうからさ、僕が戻って来た時みたいに優しく出迎えてあげてよ。僕もまゆを連れて戻ってくるから、僕とまゆも出迎えて欲しいな。できればさ、いつもまゆとバイトから帰った時に見せてくれる笑顔で出迎えてくれると嬉しいな。お願い、できるかな?」
 「うん…りょうくん、ありがとう。まゆちゃんのこと…お願いします」
 「うん。任せて。ゆいちゃん、春香のこと、頼んだよ」
 「うん。いってらっしゃい」

 涙を腕で拭って、いつもより少しだけ不器用な笑顔を浮かべて、震える声で僕を見送ってくれたゆいちゃんに心の底から感謝をしてまゆを探しに向かう。

 まったく…僕とゆいちゃんに心配ばかりかけて…先輩2人は何してるのだか……少しだけ泣き虫な先輩たちのために走り回る身にもなって欲しい。まあ、でも、そういうところも好きだから…ずっと、あの子たちの側にいたい。って思うんだよね。

 早く、まゆを連れて、ゆいちゃんと春香と一緒に、いつもみたいに楽しくて幸せな時間を過ごしたい。






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