お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
ゲキド
 「春ちゃん、おはよう。どうしたの?土下座なんかして…」
 「お、おはようございます。えっと、春香ちゃんが怒ってるから…」
 変な汗を垂らしながらめちゃくちゃ頭を畳に押し付けて言葉を選ぶように春が春香に答える。こんな春、初めて見た…こんなに怒ってる春香も初めて見たけど…春だけでなく、僕とりょうた君も震えてしまうくらい春香、怒ってる。
 「頭を下げるってことは自分に非があったって認めてるんだよね?だから頭下げてるんだよね?だったら頭下げる相手は私じゃないよね?賢い春ちゃんならわかるよね?」
 どこぞやのパワハラ会議より怖い…春香は淡々と冷たい声でめちゃくちゃかわいい笑顔を一切崩すことなく春に尋ねる。貼り付けられた素敵な笑顔が今はめちゃくちゃ怖い。
 「わ、悪いとは思ってます。でも、それは、春香ちゃんに黙って勝手なことをした。ってことに対してだけです。他の2人に対しては、頭を下げないといけないことをしたつもりはありません」
 怖さからかめっちゃ泣きそうになっている春と、どんどん笑顔を崩して真顔になっていく春香…僕とりょうた君はなんとか、2人の間に入ろうとするが、そんなことが許される雰囲気ではない。
 「頭、あげていいよ。春ちゃんの言いたいことはわかったから。私は春ちゃんからの謝罪なんていらないから。まゆちゃんとゆいちゃんに頭を下げて…それができないならもう私の前に現れないで、春香ちゃんなんて馴れ馴れしく呼ばないで…私は、りょうちゃんの彼女として、まゆちゃんとゆいちゃんと同じ立場でしかもう関わらないから。私が言いたいことは以上です。りょうちゃん、まゆちゃんとゆいちゃん待たせるのも悪いし部屋に戻ろう」
 春香はそう言って僕の手を握って部屋から出ようとする。その際、部屋の入り口で立っていたりょうた君に…
 「りょうた、あまり、りょうたのことに口出しするつもりはないけど…そんな身勝手で常識知らずな子より、りょうたに相応しい人はいるんじゃない?」
 と冷たい声で言うと、春は我慢の限界と言った様子で泣き崩れた。
 「お姉ちゃん!?」
 「……春香、行こうか。春、りょうた君、ごめんね」
 僕は春香の手を優しく引いて、春とりょうた君が泊まっていた部屋を出る。
 「春香、大丈夫?」
 部屋を出てすぐに僕は春香を抱きしめる。最後、部屋から出る前に、春香がすごく悲しそうな表情で涙を浮かべていたのが見えたから……
 「りょうちゃん…わ、私…春ちゃんに嫌われちゃう…よね?酷いこと…いっぱい言っちゃったもん…」
 「春香……」
 大丈夫だよ。って何の根拠もなく、言っていいのかわからなくて言葉が出てこない。
 「で、でも…春ちゃんがまゆちゃんとゆいちゃんに謝るまで…私も、謝りたくない…どうしよう…このまま…本当に嫌われちゃったら……」
 めちゃくちゃ動揺していた。ずっと、本当の妹のように大切にしていた春にあんな風に言って、春香も傷ついていた。前までなら、春香が春にあんなことを言うなんてありえなかっただろう。
 でも、今は、大切なまゆとゆいちゃんを傷つけられて、春に対しても、怒りを覚えるようになっていた。春香が、まゆとゆいちゃんのことをどれくらい大切に思っているのかがよく伝わってきた。こういう時、僕は、春香になんて言ってあげればいいのだろう。どうしてあげればいいのだろう。僕にはわからない。ただ、僕の腕の中で泣き続ける大切な人の力になってあげられない自分に嫌気がさしていた。
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