お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

オサンポ







 「えへへ。りょうちゃんと2人でお散歩だ〜」
 「まだ少し酔ってる?」
 「そんなことないよ。普通にりょうちゃんと2人でお散歩が嬉しいだけ〜」

 めちゃくちゃかわいい笑顔を僕に見せながらそう言ってくれるまゆが愛おしくてたまらん。

 「僕もまゆとお散歩できて嬉しいよ」

 2人で手を繋いで、普段とは違う景色を見る。なんとなく、お互い照れくさくなってしまい、会話が全く続かない。

 「景色…綺麗だね……」
 「そうだね」

 さっきからずっとこの短い会話の繰り返しだ。僕もまゆもこれしか言葉が出てこない。さっきから景色は緑に包まれた状態からあまり変化はないのに……

 「景色…綺麗」
 「さっきからずっと同じことしか言わないね」

 間がもたなくて、また同じことを言おうとするとまゆがクスリ。と笑いながら僕に言う。

 「まゆだって…さっきから何も話してくれないし、同じ返事しかしてくれないじゃん……」
 「ごめん…」
 「謝らなくていいけどさ……」

 隣にいるまゆに顔を向けるとまゆと目が合って…まゆは顔を赤くして慌てて違う方向を見た。かわいい。

 なんでだろう。いつも、バイト終わりとか、大学とかで手を繋いで歩く時は普通に会話できるのにな。景色が変わるだけで、すごくドキドキする。

 「まゆ、かわいいね」
 「揶揄わないで…なんでだろう。いつもはこんな風にならないのに…今日はなんか緊張する……」

 やっぱり、まゆも僕と同じみたいだ。理由はわからない。普段と景色が少しだけ違うだけ。でも、普段、バイト終わりとか大学で手を繋いで歩いたことの記憶は、繰り返すうちに更新されて、過去のものは少しずつ薄れてしまう。あっという間に過ぎ去ってしまう四季の中で少しずつ、薄れてしまう。だけど、この景色で、この場所での記憶は、きっと更新されずに、今回の旅行の思い出として、一生大切にしたい記憶のメモリーに追加されるだろう。だから、緊張しているのかもしれない。いつもよりも鮮明に、特別な記憶として、ずっと、残り続けるから……

 「春香とゆいちゃんには内緒ね…きっと怒るだろうから…」
 「えー。それ、後からバレたらまゆがめちゃくちゃ怒られるんだよ。まゆだけずるい。って言われて、まゆに理不尽な要求してくるんだよ。だからやーだ。あとで春香ちゃんとゆいちゃんとも特別な思い出を作ってあげてよ」

 まゆは素敵な笑顔を浮かべながら言う。さっきまで、少し緊張していたのに、いつものように素敵な笑顔を浮かべてくれたまゆを見れて幸せだった。それにしても、なんか、理不尽な要求とやらをされたことがあるような言い方だな…いつ、どんな要求をされていたのだろう。

 僕が誕生日の1週間くらい前からまゆが春香とゆいちゃんにじゃんけんで一度も勝てなかったことがあるが…まさかそれかな?

 そんなことを考えていると少し笑ってしまう。まゆになんで笑ってるの?と聞かれて、なんでもない。と答える。まゆは不思議そうな表情をしながらまあ、いいか。と言う。

 ……………

 「景色、綺麗だね」
 「話を振り出しに戻さないでよ」

 間がもたなくなって、僕がまた、景色の話をするとまゆは笑いながらツッコミを入れてくれる。そんな、バカみたいでいつもより少しだけ特別で、すごく幸せなお散歩をまゆと2人でゆっくり楽しんだ。





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