お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

温かい空間






 陽菜もりっちゃんさんも、みんなと一緒に学祭を楽しむことが出来た。それだけで十分、陽菜は幸せだった。

 夕方よりもちょっと前くらいに学祭を一通り見て回ると、春香ちゃんが今からみんなで行くね。と言って通話は終了して、しばらくすると本当にみんなが来てくれた。

 春香ちゃんにりょうちゃん、まゆ先輩、ゆいちゃん、さきちゃん、こうくん、ゆき先輩、みはね先輩、この狭い病室を本当に窮屈と感じてしまうのは初めてだったから…本当に幸せだよ。

 本当に…去年までは…なんで、陽菜は生きてるんだろう。と本気で考えて、もう、諦めようとしていた。でも、今は、この幸せな時間をもっと味わっていたい。もっともっと、幸せでいたい。今まで、辛かった分も思いっきり幸せになって、トータルで陽菜の人生は幸せでした。って笑顔で笑って最後を迎えたい。陽菜は幸せになる為に生まれてきたんだ。生きてきたんだ。って言いきる。それが、今の陽菜の夢……

 「じゃあ、陽菜ちゃん、私たちそろそろ帰るね…」
 「え、春香ちゃん?まだ、時間ある…」
 「まゆちゃん、ダメだよ。残りは2人きりにしてあげないと…」

 面会可能時間が終わるちょっと前に春香ちゃんが立ち上がる。どうしてだろう?と不思議に思っていると、まゆ先輩とみはね先輩のやり取りでなんとなく察した。

 「陽菜ちゃん、早く良くなって、また、みんなで吹こうね」

 春香ちゃんが笑顔でそう言ってくれると、春香ちゃんに続いてみんな同じような言葉を陽菜に浴びせてくれた。こんな素敵な人たちが、陽菜の側にいてくれたから、陽菜は…幸せになれた。

 「ありがとうございます」

 ちょっとだけ、泣きながら、陽菜は最大限の感謝を込めてそう言った。そうして、みんなを見送った後、陽菜はりっちゃんさんと2人きりになる。

 「急に…静かになったね」
 「そうですね…今晩、寂しくて泣いちゃうかもしれないです」

 そう言ってギュッと陽菜はりっちゃんさんを抱きしめる。

 「退院したらお泊まりに来ていいよ。寂しかったら電話とかしてくれていいからさ。ごめんね。私も一緒にいられたらよかったんだけど…」
 「えへへ。大丈夫です。1人は慣れてますから……」
 「陽菜が寂しがらないようにこれ、預けとこうかな」

 そう言って、カバンの中から小さな箱を取り出してりっちゃんさんは陽菜に渡す。

 「入院中、陽菜を1人にしちゃうからプレゼント…大切にしてね。自分で言うの恥ずかしいけど…寂しい時はそれを付けて…私のこと思い出して…」

 箱の中には2つの指輪…陽菜が箱の中身を確認すると、りっちゃんさんは指輪を1つ持ち上げる。

 「こっちが陽菜のやつね」

 そう言って、陽菜に指輪をつけてくれる。

 「そっち、私のやつなんだけど」

 そう言って陽菜に左手を伸ばすりっちゃんさん、かわいいなぁ。陽菜はもう片方の指輪を持ってりっちゃんさんの指につけてあげる。

 「ありがとう」
 「こちらこそ、ありがとうございます…」

 いよいよ、時間になってしまった。帰る前、最後に一度だけキスをして、陽菜はりっちゃんさんを見送る。

 りっちゃんさんと最後に交わしたキスの温もりは少しずつ冷めていく。そして、病室から、音はなくなる。いつもなら、寂しくて、泣いていた。

 でも、今日は、りっちゃんさんがずっと側にいてくれる気がした。指輪を見つめていると、心が温かくなって、寂しくなくなった。






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