お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
頼られること
 「春香ちゃん……いきなり……ごめんね……」
 お布団で横になっている陽菜ちゃんが弱々しい声で私に言う。謝らなくていいのにさ……
 「大丈夫だよ。頼ってくれてありがとう。でも、だいぶ落ち着いたみたいだね。でも、一応病院行こうか。どうする?りっちゃんに連絡する?」
 「りっちゃんさん、疲れてるだろうし、今からバイトだし、あまり心配かけたくないから…後からちゃんと話すよ。だから、今は言わないで……」
 「わかった」
 自分に余裕がないはずなのに、りっちゃんのことを考えている陽菜ちゃんがそう言うのであれば、陽菜ちゃんの意思を尊重してあげたかった。
 「とりあえず、まゆちゃん呼ぶね。たぶん、今頃、りょうちゃん拾ってる頃だろうし、まゆちゃんも心配してたからさ…まゆちゃんに頼んで病院連れてってもらおう」
 「うん。ありがとう……」
 病院に行こう。って言った瞬間、陽菜ちゃんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。きっと、病院に行けば、また、陽菜ちゃんはしばらく入院する。その間、入院していなければ作れたかもしれない思い出が作れなくなる。それが嫌なのだろう。しかも、もう少ししたら、陽菜ちゃんが楽しみにしてた学祭もある。学祭までに間に合うか…他にも、りっちゃんといられる時間が減ったり、陽菜ちゃんからすれば、かなり嫌なことばかりだろう。
 「早く病院行って、早く大丈夫。って証明してもらおう」
 なんて声をかけていいかわからなかったから、必死に声を絞り出した。きっと、陽菜ちゃんは私が無理矢理捻り出した言葉だと察しているだろう。笑顔でうん。そうだね。と答えてくれる陽菜ちゃんを見て、自分が情けなくなる。こんな時、りっちゃんは陽菜ちゃんになんて声をかけてあげるのだろう。
 「あ、えっと、まゆちゃんもうすぐ来てくれるって…陽菜ちゃん、スマホ借りていい?陽菜ちゃんのご両親に報告入れときたいからさ…」
 「うん。お願い…」
 陽菜ちゃんはスマホのロックを解除して私にスマホを預けてくれる。電話のアプリを開こうとしたら、間違えて横にあったメモのアプリを開いてしまった。人のメモ帳を見てはいけないと慌てて閉じようとしたが、一瞬、目に入ったメモを見て、私は泣きそうになってしまった。
 詳しくは、わからない。でも、内容としては、学祭までの日付けと、学祭の日にりっちゃんと何をしたいか。とか、どんなことが楽しみ。とかいっぱい書かれているみたいだった。
 「春香ちゃん?どうしたの?」
 「な、なんでもないよ。陽菜ちゃんのご両親と話すの久しぶりだからちょっと緊張してるだけ…」
 必死に誤魔化した。だって、陽菜ちゃんになんて言ってあげればいいのかわからないから……
 誤魔化した後は、軽く深呼吸をしてから陽菜ちゃんのお母さんに電話する。すぐに繋がって、状況を説明して、病院に来てくださることになった。
 「陽菜ちゃん、ありがとう」
 「こちらこそありがとう。本当に…頼っちゃってごめんなさい」
 「謝らないの。幼馴染みとしてさ、頼ってくれたこと、本当に嬉しいから。頼ってくれてありがとう」
 笑顔で、そう言ったが、本当は全然笑えない。あのメモを見て…陽菜ちゃんの思いを知って…私は、何もしてあげられないから……
 「春香ちゃん、もう1つだけ…お願いしていい?」
 「何?なんでも言って…」
 「りっちゃんさんに、伝えるのお願いしていいかな…たぶん、病院に着いたら、陽菜、しばらくスマホいじれないだろうし……お願い……」
 「うん。任せて」
 「りっちゃんさんにさ、今日、バイト先に行くって言ってたのに約束破ってごめんなさい。って…今日、お泊まりする約束だったのに…約束破って…ごめんなさい。って…伝えておいて……」
 泣きながら、陽菜ちゃんはそう言った。たぶん、陽菜ちゃんは本当に楽しみにしていたのだと思う。きっと、今後もりっちゃんのバイト先に行く機会もお泊まりする機会もあると思う。でも、時間がない陽菜ちゃんは誰よりも1つ1つの思い出を大切にしているだろうから……
 「うん。伝えておくよ。でも、落ち着いたら、ちゃんと自分の口から伝えるんだよ」
 「うん。わかってる……」
 そのやり取りをした後、陽菜ちゃんはしばらく泣いてしまう。私は、陽菜ちゃんに何も声をかけてあげることができなかった。そんな自分が嫌になる。頼ってもらったのに…何もしてあげられないから……
 そんなことを考えていると、まゆちゃんから着いた。と連絡があったので、陽菜ちゃんと一緒にりっちゃんの部屋を出る。ふらついて歩く陽菜ちゃんを連れて歩いているとりょうちゃんが来てくれて、まゆちゃんの車まで陽菜ちゃんをおんぶしてくれた。
 最後の最後まで、私は何もしてあげられなかったな。頼って…くれたのに…ごめんなさい。
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