お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
それぞれの役割
 どうしよう。っていっぱい考えた。考えたけど、良い案は思いつかないまま、時間だけが過ぎ去っていく。バイトの途中も、私とりょうちゃんに妙な距離感があったからか店長やみーちゃんからも心配されたりしてすごく申し訳なかった。
 あっという間に、1時間、2時間、3時間…と時は流れてバイトが終わる時間になってしまう。春香ちゃんと、ゆいちゃんと合流する時間になってしまう。どうしよう。って、いっぱい考えても、どうしようもなくて…
 「まゆ……」
 あぁ…やっと、まゆの顔を見てくれた。でも、りょうちゃんには見られたくないぐちゃぐちゃになった表情を見られて、すごく複雑な気分。
 悲しくて、辛くて、怖くて、立ち止まって、泣いてしまって、ようやく、あなたはまゆを見てくれた。
 「そんな顔…しないで……」
 ばか…まゆにこんな表情させたのはりょうちゃんだからね。辛かったんだから、苦しかったんだから…辛さも苦しさも、自分だけじゃ消せないんだよ。
 「抱きしめて…いっぱい好きって言って、じゃないと泣きやめないから。あと、ゆいちゃんにも同じことしてあげること…」
 泣いてしまったまゆをギュッと抱きしめてくれた。久しぶりに感じるりょうちゃんの温もりはすごく、優しくて温かい。まゆをギュッと抱きしめて、優しく頭を撫でてくれる。さっきまで、辛かったのに、苦しかったのに、りょうちゃんに抱きしめられて、頭を撫でてもらえて、そんな感情はどこかに行ってしまった。
 「もう、まゆを泣かせない?」
 「…………」
 「約束してくれないと、まゆ、また泣いちゃうよ」
 「…………」
 「4人で幸せになる。って、約束、したよね?」
 「した……」
 「もう、まゆを泣かせない?」
 「うん…」
 「ゆいちゃんも泣かせない?」
 「うん…」
 「春香ちゃんも泣かせない?」
 「うん…」
 「また、4人で幸せになれる?」
 「うん」
 これだけ聞ければ十分だった。あれだけ、春香ちゃんだけを見ようとしているような感じだったけど、まゆの涙を見ただけでこうなってしまうのだから、きっと、りょうちゃんは、心の奥底では、4人での幸せを諦めていなかったのだろう。
 とりあえず、まゆの役割は終わり。ゆいちゃんは…ちゃんと役割を果たしてくれたかな…
 「邪魔…しないでね……」
 「………」
 「やっと、りょうちゃんと2人きりになれたの。最近ね。すごく…幸せ…なんだ……ずっと、りょうちゃんが側にいてくれて……私は幸せなの……この幸せを…失いたくないの」
 淡々と、春香ちゃんは私にそう言った。今までの春香ちゃんなら絶対に言わないようなことを言うところを見ると…本気で、りょうくんを独り占めしようとしているみたいだ。
 「春香ちゃん、春香ちゃんの気持ち…すごく、わかります。私も、最近まで、そう思うことがあったから……」
 「ゆいちゃんも…まゆちゃんも…私の気持ちはわかるはず。りょうちゃんは…私を…私だけを選んでくれたの。だから、邪魔しないで…私の幸せを……私とりょうちゃんの幸せを…」
 「本当に、幸せでしたか?」
 「幸せ…だった…よ………」
 嘘だ。きっと、無理をして言っている。私は幸せだって、思い込んでいる。
 「私は…りょうくんといられたら幸せだって思ってましたよ。でも、最近、春香ちゃんがりょうくんを独占して、ようやく、気づいたんです。りょうくんのことは好き。側にいて欲しい。でも、私が求めてたのは、りょうくんだけじゃなくて、春香ちゃんとまゆちゃんもでした。4人でいた時、すごく楽しい思い出がいっぱいあったから…春香ちゃんは…本当に、今が一番幸せですか?」
 春香ちゃんは答えてはくれない。でも、春香ちゃんの瞳から自然と流れる涙を見たら、答えは分かりきっていた。
 「春香ちゃん、ごめんなさい。最初は私だったから…謝らせてください。私が、崩しちゃったから…」
 「私も…独り占めしたから…おあいこ……」
 泣きながら、そう答えた春香ちゃんの言葉を聞いて、すごく安心した。私がやること、確認することは終わった。まゆちゃんは…上手くりょうくんとお話しできたかな。
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