お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
想定外
 「りょうちゃん……」
 少し離れただけで…すごく、苦しい。とりあえず、買い物だけしちゃって…さっさとりょうちゃんがバイトしてる本屋さんに行こう。座って試し読みできるように本屋さんのいろいろな場所に椅子が置かれてるからそこで、りょうちゃんがバイト終わるの待とう。せっかくだから、ちょっと気になる本探そうかな。
 そんなことを考えながら数日分の私とりょうちゃんの分の食材を買い集める。
 「あ、こんなに必要ないか…」
 ちょっと取りすぎてしまった。私とりょうちゃんの2人分だけだからこんなにいらないのに、つい、無意識のうちに4人分を買い物カゴに入れてしまった。
 買い物カゴに入れた取りすぎたお肉を戻そうとしたら、私の手は誰かに掴まれて止められた。
 「4人分で大丈夫ですよ」
 私の手を掴んできた人の方を見ると、そう声をかけられた。
 「ゆいちゃん…何でいるの?」
 「ちょっとお話ししにきました。りょうくんとまゆちゃんがバイトの間、春香ちゃんが暇かな〜って思ったので」
 「先輩相手にちゃん付けはどうかと思うよ」
 心が痛まないわけではない。でも、こうやって、自分はもう、4人でいることを望まないことをアピールする。
 「春香ちゃん、時間ありますよね。お買い物終わったらちょっとお茶しましょう」
 私の威嚇のような行為なんて気にしていない様子で私に言う。この際、はっきり言った方がいいかな…と思い、受けることにした。
 ゆいちゃんに押される形で、食材とかは4人分買ってしまったが、まあ、いいか…しばらく買い物行かなくて済む。と、前向きに考えよう。日持ちしない食材だけさっさと片付けてしまえば問題ない。多少…作りすぎても、りょうちゃんは美味しい。って…いっぱい食べてくれるだろうから。
 りょうちゃんの好きなもの、今日もいっぱい作ってあげよう。と、まるでゆいちゃんが側にいないような考えをしていた。
 「りょうちゃん、久しぶりだね。こうやってりょうちゃんと歩くの」
 「そうだね」
 なんか、素っ気ない気がした。いつもなら、この道を歩いてる時は、そっと手を繋いでくれるのに。いつもなら、歩きながらチラチラとまゆの方に目を向けてくれるのに。今日は一回もまゆを見てくれない。
 「りょうちゃん、大丈夫?」
 「大丈夫だよ」
 即答はした。でも、絶対大丈夫じゃない。だって、まだ、歩き始めて一度もまゆを見てくれてないもん。
 「りょうちゃん、まゆを見て、何か言うことは?」
 まゆがここまで言っても、りょうちゃんはまゆを見てくれない。どうして…まゆを見てくれないの。
 「りょうちゃん、あとで、ゆいちゃんも来るから…ゆいちゃんにはこんな態度取らないでね。きっと、耐えられないから…お願い」
 「まゆ…」
 やっと、まゆを見てくれた。ちょっとだけうるっとした瞳と目が合って、ようやく、一歩進んだ気がする。後退した分、少し戻っただけだけど…
 「りょうちゃん、りょうちゃんはまだ、まゆとゆいちゃんを受け入れてくれるよね?」
 聞きたかったことを、思いっきって聞いてみた。りょうちゃんが、今、まゆとゆいちゃんをどう思っているのか、それを知らないと、何も始まらないから。
 「まゆ、ごめんなさい……」
 きっと、今までみたいにまゆに好き。大好き。と言ってくれると思っていた。でも、りょうちゃんの答えはまゆとゆいちゃんが望んでいたものではなかった。
 まさか、ごめんなさい。って言われるなんて……どうしよう。今のりょうちゃんにゆいちゃんを会わせられないよ。今のりょうちゃんにゆいちゃんを会わせたら、本当に全て終わってしまいそうだった。
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