お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

側に…






 すごく温かい。けど、すごく冷たい。僕の胸元に頭を当ててギュッと僕に抱きつくかわいらしい女性はずっとこうやって僕を抱きしめ続けていた。

 数時間前、バイトから帰って春香と2人きりになって、春香と夜ご飯を食べた。すると、まゆとゆいちゃんから怒涛のLINEや電話ラッシュが始まり、僕がまゆとゆいちゃんとやり取りをしていると、春香は僕からスマホを取り上げた。

 「今は、私だけを見て」

 と、最近、何度も聞いたようなセリフを口にする春香を見て、放ってはおけなかった。春香が、こんなことを言うなんて…そう思ったし、春香にこんなことを言わせた自分を憎んだ。

 「春香、大好きだよ」

 最近、何度も口にしたような言葉を口にして春香を抱きしめる。春香は僕を抱きしめ返して、ずっと離してくれない。そのまま、数時間が経過して今に至る。

 「りょうちゃん…ずっと、このままでいい?」
 「春香の気の済むまでこうしてていいよ」

 そう言って春香の頭を優しく撫で続ける。その後、お風呂に入って寝る時も春香はずっと僕から離れてくれなかった。春香を抱きしめて、寝て、朝起きて朝ごはんを食べてからずっと春香を抱きしめて、お昼ごはんを一緒に作って、食べて、ずっと春香を抱きしめて、夜ご飯を一緒に作って、一緒に食べて、春香を抱きしめて、一緒にお風呂に入って、ずっと春香を抱きしめて、春香を抱きしめて寝る。そんな1日を過ごした。

 そして、また次の日の朝、起きると春香におはよう。と声をかけられる。

 「おはよう」

 春香に返事をして僕の部屋のテーブルを見ると朝ごはんが出来上がっていた。朝、早起きして朝ごはんを作って、僕の部屋に運んで、僕が起きるまでずっと僕を抱きしめてくれていたみたいだ。

 「りょうちゃん、今日も私の側にいてね…」

 最近、春香が僕に側にいてね。と言う時は毎回、声が震えている気がする。まるで、僕がいなくなるのではないかと怖がっているみたいに見えた。だから、まゆとゆいちゃんを遠ざけて、あの頃みたいに2人で居ようとするのだろう。しばらくは、春香の側にいてあげたい。そう思って、春香が寝ている間にまゆとゆいちゃんとLINEをして、納得してもらった。

 「春香、ずっと側にいるよ。昔からずっと、側にいたでしょう?安心して、僕はずっと、春香の側にいるから」
 「りょうちゃん…」
 「何?」

 震える声で、僕に何かを言いたそうにしている春香に優しい声で続きを促すが、春香は目を閉じて、何でもない。と言った。何を言いたかったのかはわからないけど、なんとなく、察してはいた。

 春香もまゆも、ゆいちゃんも、自分だけを見てほしい。と心の底では望んでいるのではないか。と…こうやって春香が何かを言いたそうにする度に考えてしまう。

 「りょうちゃん、今日はね。朝ごはん食べた後にお茶しよ」
 「うん。いいよ」

 僕の部屋で朝ごはんのサンドイッチを軽く食べて、春香と一緒にリビングに向かう。春香は台所に向かって、冷蔵庫を開けて、冷蔵庫の中からチーズケーキを出してくれた。

 春香のチーズケーキはすごく大好きだ。昔から、春香が作ってくれる度にめちゃくちゃ喜んだ。そして…この部屋で春香が一番最初に僕に食べさせてくれたお菓子がチーズケーキだった。

 深い意味はないのかもしれない。ただ単に僕が好きだからチーズケーキを作ってくれただけなのかもしれない。そう思いたかった。

 「りょうちゃん、今日は食べすぎ注意だからね」

 今日は…か……あの時、春香と一緒に暮らし始めて間もない頃の記憶が蘇る。いっぱいチーズケーキ食べたなぁ。春香にお願いしておかわりもしたなぁ。懐かしい…

 でも、今は味わいたくない懐かしさだった。

 いっそのこと、誰か一人を選んだ方が…みんな幸せになれるのではないだろうか。最初は辛いかもしれないけど、将来的にはみんな幸せになれるのではないか。

 最近の春香とまゆとゆいちゃんを見て、そう、考えてしまう。





コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品